安倍晋三と山本太郎は全く違う。~AERA.dot「安倍晋三と山本太郎はよく似ている?2人が影響されたある経済学者とは」(朝日新聞記者・鯨岡仁)への反論~

 AERA.dotというサイトに、「安倍晋三と山本太郎はよく似ている?」といったタイトルの記事が掲載された。(https://dot.asahi.com/dot/2020021700008.html?page=1
 一言で言えば、この記事は「安倍政権の経済政策に対する大いなる誤解」に基づいて書かれていると言えるだろう。記者が思っていることとは、実際は「真逆」のことが行われているのが、安倍政権の経済政策なのである。分かりやすく言えば、安倍政権とは「緊縮財政」である。対する、山本太郎は今までの政界の野党においては、国民新党の亀井静香以来となる、十数年ぶりの「積極財政」の政治家なのである。
 それでは記事の内容について、事実やデータに基づいて、1つずつ反論していくことにしていこう。

1.海外の保守派は、「小さな政府」を志向し、財政・金融政策では「緊縮」を好む。安倍首相のやっていることはまったく逆だ。

 大きな誤りである。安倍政権も堂々と「緊縮財政」を好む、小さな政府思考を持った典型的な政治家だ。

 上記のグラフは、安倍政権が就任した2012年から2017年までの5年間で、OECDの世界各国が政府支出をどれだけ増やしたかを示したグラフである。例えば、この間、韓国はパク・クネ政権と保守派の政権であったが127.3%と毎年5%ずつも政府支出を増やしている。ドイツはメルケル政権で、これまた保守派で緊縮財政のイメージが強い政権であるが、実は117.8%も増やしていたのである。これは意外ではないだろうか。アメリカはオバマ政権からトランプ政権に移っているが、113.2%の伸び率で、先進国としては平均的な水準ではないだろうか。
 逆に、左派のオランド社会党政権だったフランスは108.3%と伸び率は抑えられている。よって、保守派だから小さな政府で緊縮財政、左派だから大きな政府で反緊縮財政といったことは全くないのである。保守でも反緊縮の政権もあれば、左派でも緊縮財政の政権は、世界中に存在している。だから、右派左派で、小さな政府か大きな政府であるかを判断すること自体が、そもそもの大きな誤りである。これからは、ちゃんと4分割して、右派緊縮財政、左派緊縮財政、右派反緊縮財政、左派反緊縮財政の4つで分類していくべきなのである。
 さて、安倍政権であるが、そのフランスのオランド政権以上に緊縮財政であり、政府支出は5年間で105.2%と年率1%程度しか増やしていないのである。それ以下の緊縮財政は南欧のギリシャやスペイン、イタリアといったユーロ危機国ぐらいである。このように、安倍政権は、国際比較してみると、かなり緊縮財政の部類の政権であることが分かった。この論考を書いた記者には、一般的な印象論ではなく、世界各国の実際のデータと比較して記事を書いてもらいたいものだ。

2.7年間、これだけ大規模な財政出動と金融緩和を続けてきたにもかかわらず、当初掲げていた目標は達成できていない。

 前項で示した通り、安倍政権は全く大規模な財政出動をやっていない。だから、デフレ脱却も出来ず、インフレ率も上がらないのである。また、安倍政権の土台はMMTだと言うが、これも全くの見当違いであると言えるだろう。ついでに記者に指摘しておくと、山本太郎さんはMMTをベースにはしておらず、従来型のケインズ経済学の理論に基づいて、説明しているだけである。MMT派ではなく、ニュー・ケインジアン左派を自称する松尾匡先生も同様であろう。

 これは2010年代の消費者物価指数の推移を示したグラフである。青線が生鮮食品を除いた、いわゆるコアCPIと呼ばれる指数で、赤線がエネルギーも除いたコアコアCPIと呼ばれる指数の推移を示したグラフである。グラフの年は4月-3月の年度ではなく、1月-12月までの暦年で作成した。
 2010年代の消費者物価指数は民主党政権自体にはマイナス基調であった。2013年の安倍政権になると、まず青線のコアCPIがプラスとなった。2014年は消費税3%増税の上乗せ分によって、大きくプラスとなっている。2015年もその余韻でプラスになっているが、2016年にはコアCPIは-0.3%とデフレに再突入している。2017年には、コアCPIはインフレに戻ったものの、今度は赤線のコアコアCPIが-0.1%とデフレに突入している。
 結局のところ、2014年に消費税増税を行ってからは、その影響で物価は下がり、デフレ脱却、インフレ2%目標の達成は遠のいてしまったと言えるだろう。そして、ご承知の通り、2019年10月からは、更に消費税が2%増税され、消費税率は10%となった。こうした過去の事例を見る限り、消費税再増税による再々デフレ突入は待ったなしといったところであろう。
 よって、こうした2度に渡る大規模な緊縮財政(増税)を行ったから、安倍政権は当初掲げた目標を達成出来ていないのである。その緊縮財政の規模は、実に14兆円にも上ろうとしている。国民から毎年14兆円の金を奪うという逆財政出動財政収奪を行っているのが安倍政権なのである。これだけの大規模な緊縮財政を行っているのが安倍政権であるのにも関わらず、どうしたら、安倍政権は大規模な財政出動を続けて来たと真逆のことを言えるのだろうか。記者の経済的な見識を疑わずにはいられない。

3.7年前の安倍政権発足直後から約200兆円も増えている。安倍首相が、財政再建よりも、公共事業や国民へのばらまきを優先してきた結果だ。

 これも大きな間違い。実際は、またしても真逆である。つまり、安倍政権は公共事業や国民へのバラマキよりも、財政再建を優先している。

 上記は10年間の公債発行額の推移を示したお馴染みのグラフだ。何度も何度も言うが、安倍政権になってから、政府は13.8兆円も新規国債発行額を減らして来た。まさに、国民へのバラマキではなく、消費税5%分増税という収奪を行って、国債発行抑制という「財政健全化」に務めたのが、安倍政権の実状である。国債発行額を消費税増税分に置き換えた格好になっている。
 2012年の民主党政権時代には、47.5兆円も新規国債を発行していたのだから、もし、民主党政権が続いていたのならば、47.5兆円×7年=332.5兆円も国債発行額を増やしていたことになるだろう。安倍政権よりも、民主党政権が続いていた方が、確実に国債発行額が増えていたと言える。無論、私のスタンスで言えば、インフレ率が高まっていない以上、国債発行を増やすことこそ正しいので、この方が正解である。むしろ、安倍政権は7年間で200兆円「しか」国債発行額を増やしていないと言った方が適切なのである。

4.政府が返済のことを考えることなく、際限なく借金し続ける。そんな国に、どんな未来が待っているのだろうか。

 それが普通の国、普通の国家運営である。この件に関しては、前稿の「そもそも日本で財政健全化は必要なのか?」(https://note.com/researcherm/n/nc8d0c1193107?creator_urlname=researcherm)
 で記したので、こちらをご覧頂ければ幸いである。世界中どこの国でも政府負債は増え続けているものなのだ。これが「グローバルスタンダード」なのである。

 ということで、理論ベースの松尾匡先生に対して、私はデータベースで山本太郎さんにグラフなどの提供を行っている経済政策アナリストですので、朝日新聞の鯨岡記者からの取材をお待ち申し上げております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?