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刑務所が変わる?いよいよ拘禁刑が始まります。

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拘禁刑が始まります

 2025年6月から懲役刑と禁錮刑が一本化されて拘禁刑となります。拘禁刑ってどのようなものなのでしょうか。刑務所の中も変わるのでしょうか。刑法の改正を審議した法制審議会の部会にも出席していた元法務省矯正局長の大橋哲(おおはしさとる)さんが解説します。

拘禁刑の導入の背景は?

 なぜ拘禁刑は導入されることになったのでしょうか。今までの懲役刑、禁錮刑はどうであったのか。拘禁刑の導入の目的は何でしょうか。 

作業義務のある懲役刑と作業義務のない禁錮刑

 懲役刑は、刑法で「懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。」と規定され、刑務所で作業を行う義務が規定されています。これに対して禁錮刑は、「禁錮は、刑事施設に拘置する。」とだけ規定されており、刑事施設で作業をする義務が規定されていません。
(注:「刑事施設」とは、刑務所、拘置所、少年刑務所をいい、確定した刑の刑期が短い受刑者や拘置所内の清掃などの作業を行う受刑者などは刑務所、少年刑務所へは移送されず、拘置所で受刑することがあります。)
 

禁錮刑受刑者は人数も少なく、多くは作業を実施

 禁錮刑受刑者は、過失運転致傷罪や道路交通法違反などの交通犯罪の受刑者がほとんどです。法務省の矯正統計年報によれば、2023年末に刑事施設に在所している受刑者のうち、懲役刑受刑者が33,777人、禁錮受刑者が105人となっています。禁錮受刑者は、受刑者全体の0.3%にすぎません。
 前に述べたとおり、禁錮刑は刑事施設で作業義務がありませんが、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」といいます。)では、刑事施設の長に作業を行いたいと申し出れば、作業をすることが許されます。ほとんどの禁錮刑受刑者は申し出て作業を行っています。法務省の令和5年版犯罪白書によれば、2023年3月末現在で禁錮刑受刑者の86.5%が作業を行っています。
 このような状況から見て、懲役刑と禁錮刑の区別は必要がないのではということが今回の拘禁刑の導入の理由の一つです。

刑務所で通常の作業ができない高齢受刑者

 矯正統計年報によれば、2023年に新たに受刑することとなった人のうち、65歳以上の人は2,009人となっており、全体の約14%となっています。特に女性では、65歳以上の人は338人、女性全体の約23%となっています。高齢の人の中には通常の作業ができない人もいます。
 しかしながら、懲役刑では作業を行うことが義務となっているため、刑務所では製品を作ることを目的としない単純な動作を繰り返すような形態のものを「作業」として実施しなければならないこともあります。
 「作業」のみを刑法上の義務として必ず実施しなければならないことへの疑問も生じています。

再犯を防止するためには作業以外の処遇も重要となってきている

 刑事収容施設法では、受刑者に対する処遇として作業のほかに改善指導や教科指導を規定しています。改善指導では、薬物依存や性犯に対する認知行動療法などのプログラムが行われています。また、教科指導では、義務教育に相当する教育や高等学校の教育に相当する教育が行われています。
 作業により職業に就くための経験や知識を得ることは重要ですが、これらの改善指導や教科指導も出所後に再び犯罪をせずに過ごすためには重要なものです。
 刑務所では、作業だけに時間を費やすのではなく、改善指導や教科指導にも時間をかけて取り組むことができるようにすることが必要です。これが、今回の拘禁刑の導入の目的です。

拘禁刑の内容は?

 今回導入される拘禁刑の規定は、まず第1項に、「拘禁刑は、刑事施設に拘置する。」と規定し、第2項に「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。」と規定しています。
 第1項については、これまでの懲役刑、禁錮刑と同じで拘禁刑の受刑者は刑事施設に拘置されることとなります。
 第2項については、拘禁刑受刑者に対しては、改善更生を図るための作業と作業以外の指導(改善指導、教科指導)をその必要に応じて組み合わせながら刑事施設で行うこととなります。

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