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【株式投資】長期投資先をどのように決めるか

過去の記事において、EPS、PERを基にした株式投資の投資判断の仕方を2回に分けて説明しました。

これらは3ヶ月〜1年、長くて2年までを投資期間とする場合に(少なくとも僕にとっては)有効なやり方ですが、長期投資を行う際には目標株価、算定基礎となるEPS、PERがどうしてもボヤけたものになってしまいます。
このことについて考え、様々な書籍を読んでいたところ、冒頭で引用したものとは違うアプローチが頭に浮かんだため、説明を試みたいと思います。

まず概要を先に示すと、投資候補先を次のような順番で見ていきます。

① その企業は顧客にどのような価値を提供しているか
② 提供する価値に感動があるか
③ 提供する価値の需要は今後増えていくか
④ 提供する価値は他社と差別化できているか
⑤ 企業が得られる利益とその成長性に対して、時価総額が割安かどうか

それでは、個々に内容を書いていきます。

① その企業は顧客にどのような価値を提供しているか

当たり前の話ですが、このことが一番冒頭に出てこないといけません。
投資先の企業が顧客に価値を提供し、顧客から対価を受け取り、対価から価値提供コストを引いたものが利益となります。他にも広告による対価の受け取り等様々な収益モデルがあるのですが、いずれにしても、顧客への価値の提供が全ての出発点となり、そこへの理解を深めることが重要です。

② 提供する価値に感動があるか

何を言い出すのかと思われそうですが、これこそが長期投資の要諦ではないかと考えています。

例えば、僕の投資先であるkeeper技研はほぼ車のコーティングのみを事業領域とし(売上の99%はコーティング売上ではないかと思います)、会社は日々コーティング事業の発展に邁進しています。当然ながらコーティング技術の質、ラインナップは時間を経るごとに向上していきます。

結果として顧客に提供する価値(=車のコーティング)は、水をかけて拭くだけでピカピカになるという、シンプルながら力強い感動を呼び起こすことになります。

皆さんも経験から心当たりがあるかもしれませんが、物事に感動したとき、その経験は替えが効きにくいものになります。顧客に提供する価値が感動を呼び起こしたときに、顧客にとってのサービスのスイッチングコストが上がり、企業は競争優位性を獲得できるのです。

③ 提供する価値への需要は今後増えていくか

顧客に価値を提供できても、価値への需要が時を経て減少していくようでは、長期投資には適さないものになります。

タバコ製造業を例にして考えてみます。
フィリップモリスというアメリカのタバコ製造企業があり、マルボロをはじめとするタバコのメジャーブランドを沢山持ち、グローバルに高い市場占有率を確保しています。

気分転換という価値を顧客に提供し、マルボロ等のブランドは、顧客に固有の思い入れ(=感動)をもたらし、高い競争優位性を獲得しています。

しかし、タバコというものの将来性はどうでしょうか。タバコの身体への有害性は長らく指摘されている事項であり、受動喫煙の問題もあり、タバコへの需要を減らそうというのが随分と前からグローバルなトレンドとなっており、その流れは止まる気配はありません。

総需要が減少する中で売上を伸ばすには、競合他社のシェアを奪う他なく、長期的な視野に立つと、投資先としては厳しいという判断が妥当であるように思います。

④ 提供する価値は他社と差別化できているか

顧客に提供する価値が、同業他社とあまり変わらないようでは、価格競争に晒され、十分な利益の確保が難しくなります。

太陽光パネルを例に取ります。

太陽光パネルの提供する価値は、FITでの売電により利益があげられることの他に、エコな電力であること、非常電源にもなること等の付加価値も考えられなくはないですが、主要な需要者にとっては(今のところは)売電による利益が一番の優先事項なのではないかと思います。

売電による利益を最大化するには、売上はFITであり増加できないため、費用を抑えるしかありません。費用を抑えるには、太陽光パネルの価格が安いことが必要となります。

ここで(太陽光パネル製造企業が)困るのは、価格以外の競争余地が殆どなくなってしまうことです。厳密にいえば発電効率と価格のバランスがありますが、価格当たりの発電量が高いものが選ばれるということは、価格競争のみであることと同義です。

もちろん、長期間にわたり活用する設備であるため、頑丈さ、企業ブランドによる安心感等の差別化余地はありますが、そうした差別化余地は時を経てなくなっていく傾向にあります。キッチンペーパーを買う時に、メーカーを気にする人が少ないのと同じことです。

裏を返すと、そうした同質化の罠に陥らない、固有の価値を提供できる企業が長期投資に適しており、今後もその価値が固有のものであり続けられるかが大事になります。この論点については、参入障壁というキーワードで調べると学びが得られます。

⑤ 企業が得られる利益とその成長性に対して、時価総額が割安かどうか

最後に、顧客への価値提供の結果、企業が得られる利益額と、その成長性に照らして、時価総額が割安かどうかを判断します。
(念のため書くと、利益額と時価総額を発行済株式数で割るとEPS、株価となり、冒頭の話とリンクします)

このプロセスが最後に来ることが、こと長期投資においては重要であると考えています。

利益とその成長性を読むことは、1年〜2年以内の投資期間においては、企業の開示の仕方の癖、統計データでの裏付け等によるEPSの予測、市場参加者の期待(PER)の変化を読むこと等の方が有効に働くように思います。

一方で、2年超(2年というのは話の都合上用いる便宜的なものに過ぎませんが)の投資期間を設ける場合は、これまでに述べた①〜④の考察を土台にしないと、利益額と成長性に対する考察が、極めて足腰の弱いものになってしまいます。

①〜④の考察を経たのちに飛び抜けて割安な銘柄は、あまり見受けられないと思われますが、ぱっと見で割安感のない銘柄に対しても、自分なりに考察を深めた結果、他の人の見方と違った未来が見出され、大きな投資成果に繋がることが起こり得るのではないかと思います。


以上が、長期投資に関する、現時点での僕の考え方です。

長期投資だから偉い、短中期のトレードだから卑しいといった見方は一切ありません(個人的にも現時点では半年程度の取引が多くなっています)。

ただ単純に、長期投資と短中期のトレードの考え方の違いについて、頭の整理のためにまとめてみた次第です。読んでくださった投資家の方に、少しでも参考になれば幸いです。


参考文献

これからの経済において求められる考え方、行動の仕方について書かれた本。
この本の中に記されている、顧客に提供する価値の考え方が、この記事の考え方のうち②番のベースになっています(この記事で感動と書いたものが、内容の違いこそあれ、この本では意味の有無という強烈な表現の仕方で描かれています)。
今後の経済の有り様を考える上でお勧めの本です。

長期投資の考え方について書かれた本。
この記事にはあまり書けていない、参入障壁について重きを置いて解説してあり、実際に長期投資を行う上では、この本を読むことはマストではないかと思います。


万一ご支援いただけた際には、次の本の購入に充てます!