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訪問介護の話し⑥

久しぶりに彼女にメールを送った返信がない。
施設では携帯は取り上げられているのだろうから。。
私の出会った利用者様で彼女が最年少であった、
ケアの内容はお母さんと彼女の入浴介助、洗濯掃除。
お母さんのことを私たち職員は荒地の魔女と呼んでいた 小さなバスタブに入ると抜けられないほど大きな体だった彼女もそれくらい大きな体になりそうだった
看護師だった彼女のお母さんは難病になり生活保護を貰って小さなマンションの角部屋に住んでいた
訪問すると彼女はニコニコペラペラと喋り小鳥のように私たちの周りを回った洗濯を干している間も掃除をしている間もニコニコと私たちの周りを小鳥のように大きな体で回った
難病のストレスからだろうかお母さんと彼女はいつもコンビニや宅配料理を食べていた山のようなお菓子のクズは私たち訪問介護者に見つからないように捨てられていた
お母さんには彼氏がいて夜に帰ってきているようだ。。
仲の良い母子だと思っていたが冷蔵庫の張り紙に驚愕してしまった。
「お母さんの言うことを必ず聞きます。お母さんに口答えはしません。お母さんに言われた事は必ずやりますごめんなさい。ごめんなさい」

彼女は精神が幼いと言われて向精神薬や睡眠薬を飲んでいた
私には彼女が精神がおかしいと感じた事は1度もなかった ただただ純粋なままの16歳だけど5歳の女の子のようにまとわりつく可愛さがあった
お母さんは自分が難病になりその難病が娘に遺伝していると言われたのがとても心苦しかったのだろう
母と娘はいつも同じ部屋にいて重苦しいカーテンがすべての窓にかかっていた
カーテンの後ろにはたくさんのカビが生えて衛生的に良くなかったので私たちが掃除をするときに窓を開けましょうかとお母さんに聞くとお母さんは窓を開けるのを大層いやがった
それでもお母さんは幸せそうな様子で愛してくれる彼氏もいるし このかわいい私だけのこの子は私だけのものであると言うような様子であった
外の世界は病院かお母さんと彼氏と一緒に外出するだけ
16歳なら周りのたくさんの友達と色々な情報交換ができただろう。。だけれどもお母さんは彼女が特殊学校の高校に行くのを阻止した。

入浴介助の時だけがお母さんの耳に届かない話を私たちにしてくれた
特殊学校の小学校中学校はとても楽しくて本当は皆と一緒に高校に行きたかった。。
彼女はいつもニコニコしていた気分が高揚する薬を飲んでいたのだと思う
後は夜になるとお母さんに睡眠薬をもらっただから夢の話。夜の話になると何も覚えていなかった

懸念していたことが起こってしまった 夜寝るときに体重が増えすぎてしまって呼吸困難だったから酸素マスクをしながらお母さんは寝ていた。そしてそのまま大きすぎる体が担になって心臓が止まってしまった。。
かすかに意識が残るお母さんを朝見つけたのは彼女だったそして急いでお母さんの彼氏に連絡した
救急車がついたときにはお母さんは朦朧とした意識で娘の名前を何度も何度も呼んだと聞いた
娘の今後を心配したまま心臓が止まった

わけのわからないままお母さんが亡くなり
遠方に住むおばあちゃんが葬式にやってきた。
私たちがいつものように掃除介助入浴介助に入る時 おばあちゃんが彼女を睨みつけながら言った「あの子はあんたが生まれてから あんたがワガママだから いつも外に行けなかったあの子は本当は旅行とかが大好きでいろいろ出かけたかったけど、あんたがわがままだからかわいそうにかわいそうに」

と彼女を私たちの目の前で攻め立てた
そしてお母さんの彼氏も彼女を引き取る事なく遠方のおばあちゃんに託した
元々 精神が弱いと言われていた彼女は児童相談所のお世話になることになり
遠い遠いおばあちゃんの住む場所の施設に入れられる事になった。。
私達はご利用者様と直接連絡を取り合ってはいけないと言う取り決めになっている
それでも人間同士の付き合いなのでごくまれに自分の連絡先をご利用者様に教えることがある
それは会社としてでなく人間同士の付き合いで気持ちの上でつながることがある

。。久しぶりに彼女にメールした返事はまだない。。
遠い遠い施設で今どう暮らしているのだろうか。。
あともう少し経てばもう少し我慢すれば彼女は18歳なる
今まで重く暗いカビの生えたカーテンの部屋にいるだけだった。
「お母さんの言う事は必ず聞きます お母さんに口答えはしません」と冷蔵庫に実筆で署名させられて
夜は睡眠薬を飲まされていた 彼女がもう少しで18歳なる。。
お願いだからどうかお願いだから生きのびてていて欲しい その時に私のメールアドレスに返信してほしい。

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