アンダーグランド・エクスプレス 死の影の底を歩むとも

最初に死んだのはディルハム、次にジョージ、それから新兵のルーディ、不平屋のアーチーは最期まで補給についてこぼしていた。長腕ビルと骸骨エルマーは一緒に上半身を吹き飛ばされた。奴らが知ったら笑うだろう。

ルーキーいじめでさんざん恨まれていたジェス。後ろからの流れ弾で死ぬだろうと誰もが思っていたが、やつは、あの村の事件で抗命罪で銃殺になった。だいのおとなが涙を流して命乞いをしながら、しかし命令に従うことだけは拒み通した。愚かなやつだと俺たちはみんな言った。

愚かなやつはすぐに死ぬ。この世界は根本的に狂っているからだ。

戦場のただなかには密林と廃墟があり、得体のしれない怪物がわんさと潜んでいた。アパッチが焼き払っても焼き払っても竜たちと虫たちは尽きることはなかった。だが、世界は狂っていて、神は悪意を持って俺たちを弄ぶ。俺たちが騎兵隊で、正義の味方なら、そんなことは何でもなかったのだ。

停戦は突然訪れ、生き残った屑どもは街に戻った。

俺は途方に暮れた。

類まれな間抜けな死に様を晒した気取り屋フォーキー曰く、女と子供とは関わり合いになるな。特に、何ものかになろうとあがいているやつは厄介だ。

俺はそんなことを考えながら、俺の返事を待っている目の前の女の顔を見つめた。必死さのなかに怯えを潜ませ、それでも動揺を隠そうとなけなしの矜持をかき集めて、その底に、折れない意志を意図せずのぞかせている。

「南極行き、と書いてあるな」

その女、イライザが持ち込んだのは、地下大陸横断鉄道《エクスプレス》の招待チケットだった。これだけでひと財産だ。

「なぜ俺を?」

イライザは無言で俺の背後の壁を指差した。

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階下に住む大家のケイティ夫人自慢の当事務所の看板だ。

「あなたなら、多分、死なないわ」

いい度胸だ。

【続く】

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