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『メイド・イン・ジャパン』について

ファッションにおける『メイド・イン・ジャパン』とは一体なんなのか。

先日、あることをきっかけに軽くハゲるぐらい考え込む事があり、これは自分の考えを整理するいい機会だと思って今回はこのタイトルにしてみました。一週間ほどぐるぐると考え、自分なりに結論が出たことも考えている最中のことも含めてドバッと書いてみますので最後まで読んで頂けたら嬉しいです。

メイド・イン・ジャパンのイメージと現実


◼️ メイド・イン・ジャパンのイメージ

皆さん、メイド・イン・ジャパンと聞くとどんなイメージを持っているでしょうか。『正確』『緻密』『繊細』『丈夫』『上質』『丁寧』みたいな言葉をイメージとして連想される人が多いのではないかと思います。過去から現在にかけて多くの職人さん達が真摯に仕事に向き合い続けた結果、出来上がったこれらのイメージは概ねその通りだと思います。内部事情を少なからず知っている僕でも洗濯ネームに『日本製』と書かれていたらなんか安心しますし、高めの値段にも納得してしまいます。

そんなイメージのメイド・イン・ジャパンの商品は多くの人に中国をはじめとするアジア圏の海外で生産された商品に比べ、品質がいいという方向で受け取られていると思います。

『海外製の商品比べて品質が高い。』

このイメージに対して現実はどうなのか。

よほどファッションに強い興味とこだわりを持っていなければ日本製と海外製の商品を比較して確認するようなことも無いと思いますが、僕は仕事柄、両方の商品を扱っています。その僕がメイド・イン・ジャパンの現実について考えてみました。



◼️ メイド・イン・ジャパンの現実


メイド・イン・ジャパン、日本製とは商品の原産国表示で、読んで字のごとく『日本国内で縫製された』ことを消費者に説明する表記です。ミソは『日本国内で』ってところで別に『日本人が』では無いってところです。

と言うのも日本の縫製工場には中国やベトナム、タイやカンボジアから技術研修生として技術を学びつつ、働きに来ている方がいます。こういった人は数年、日本の工場で働きつつ、縫製に関する技術や知識を学び帰国し、それを自国の、例えばそれが中国だったら中国の縫製工場で働く職人さん達に教えます。

そうすると日本の職人さんの技術と知識はその中国の職人さん達に伝わります。よく日本人は海外の人に比べて真面目で器用だから品質がいいとか言われますが、この話を裏返すと海外の人は日本人より不真面目で不器用だってことなんですが、これについてははっきりと全然そんな事無い!と言い切れます。

割合はともかくめっちゃ真面目な人もたくさんいますし、器用な人もたくさんいます。

だとするとどうでしょう。日本で学んだ技術や知識を自国の職人さん達に伝え、教えていくわけですからその工場で縫われた製品というのはジャパンイズムを継承した製品と言えると思います。結果、品質も上がります。

さらに海外では毎月ものすごい量の製品を生産していますので、単純にミシンの技術が上達しやすい環境があります。

先にも書いた通り真面目な人も器用な人もたくさんいます。素養がこれであれば技術の上達というのはどれだけの数をこなすかによってそのスピードが変わってきます。この意味において海外の工場はとてもいい環境であると言えます。

僕はこれはいい事だと思っているんですが、このような状況により日本製と海外製の製品の品質についてはもはや明確な差などありません。特にカジュアルウェアにおいては海外製でもとても高い品質だと思います。

ただこれは『縫製技術において』の話です。

生地については海外の生地にもいいものはありますが、割合でいうとまだまだ日本製の方がいいと感じるものが多い印象です。服は生地でできていますから、生地の差 = 品質の差とも言えると思いますので結果として日本製の方が品質がいいと捉えられている気がします。

でもここにもグレーゾーンがあって、日本の生地屋さんが売っていても、実際その生地を作っているのは中国だったり台湾だったり韓国だったりします。

もちろん日本国内の生地工場で作っているものもありますが。

そして生地の原産国は表記義務が無いので消費者はそれを知るすべはありません。


なので一言でメイド・イン・ジャパンと言っても『日本製生地+日本縫製』『海外製生地+日本縫製』の二種類が存在するという事になります。逆に海外製にも『海外生地+海外縫製』と『日本生地+海外縫製』があります。

先ほど書いた通り、縫製技術において日本と海外の差はほぼありません。差があるとすれば生地ですが、これも日本製と海外製があり、それらを含めて考えると余計に日本製と海外製の製品の品質の差は無くなります。

以上のような状況で、現実的に日本製と海外製の間に『差といえるほどの差は無い』と言えると思います。


もちろん品質の悪い日本製もあればめっちゃ高い海外製もあり、結局は『生地を作った人と縫った人による』ってありきたりな話になったりするんですが。



僕のメイド・イン・ジャパンの捉え方


品質は海外製と明確な差は無いとすれば『海外製と比べ、価格が高くなる日本製の商品は消費者にとって存在意味があるのか』、という血も涙も無いめちゃくちゃシビアな疑問が出てきたことが僕が悩みまくってしまった理由でした。

もちろん、国内の生地屋さんや縫製工場さんにお世話になっている僕の気持ち的には大きな意味がありますが、それは僕がファッション業界で仕事をしているし、ブランドを作ろうとしていて色々と関係性があるからです。誰だって関係性のある人達が元気に仕事をして楽しく生活してほしいと思いますよね。

だから僕にとっては意味はある。でも違う業界で仕事をして生活している人達にとってはどうでしょうか。商品の品質に明確な差、強いては価格の差に納得できるような差が無い現状では消費者にとってメイド・イン・ジャパンの商品の存在はほとんど意味が無いと言えるでしょう。

寂しい話ですが・・・。


それでも絶対に何かあるはず、いや、何か探さないといけないと思い考えていたら一つの結論を出すことができました。それは『存在意味はあるのか』では無くて『存在価値はあるのか』と疑問の題名をちょっと変換して考えた結果、たどり着いた答えでした。



メイド・イン・ジャパンの存在価値


日本各地には伝統工芸品があります。それぞれ長い歴史があり、代々受け継がれてきた技術や繋がりがその地域を代表する産業品となっています。

僕は信楽焼が好きなんですが、信楽焼きの歴史はとても古く、始まりは平安時代末期〜鎌倉時代、13世紀ごろと言われています。実に約700年の間続いている素晴らしい焼き物です。たぬきの置物が有名ですかね。

で、たぬきはともかく、不均一で無骨な表面と奥行きのある発色が独特な雰囲気を放つ信楽焼は機械では作れない、人だから作れる製品だと思います。しかも時間の経過でしか作れない歴史という価値もある。

しかし、ここでも血も涙も無い事を言うようですが、例えば信楽焼きの器。人が土をこねて、手で形を作り、釉薬を塗って・・・と一つ一つ丁寧に作られた、同じものは二つと無い素晴らしいものですが、その器の意味は『食べ物を入れる器』という事です。

食べ物を入れる器だったら海外で何百万個という数で大量生産されたものが百均にも売っています。

だとすると食べ物を入れる器を探している人にとって信楽焼きの器と百均の器は同じ天秤に乗ることになります。

ものの意味というベクトルで考えるとちょっと極端ではありますがこうなります。



一方、価値となるとどうでしょう。



世の中には数が少ないものは価値があるという法則があります。石よりもダイヤモンドですし、レギュラー商品よりも限定商品といった感じです。

こう考えると数が少なく歴史のある信楽焼きの器と数が多く歴史の無い百均の器の価値の比較などやるまでも無く明確ですよね。


話をファッションに戻すと、今の日本のアパレル製品におけるメイド・イン・ジャパンの割合はわずか2%ほどです。ということは希少価値という意味では明確にあるということになります。だって2%ですから。

でも問題はこの価値にお金を出せる人がとても少ないという日本経済の状況です。メイド・イン・ジャパンはバブル崩壊後の日本の経済停滞がもたらした超デフレ、価格競争戦国時代の影響をモロにくらった形で縮小してきたわけです。


しかし僕はこれは致し方ない事だとも思っています。

だって上がらない給料に対して上がる物価と消費税。スマホやインターネットなど、今や生活必需品とも言えるこれらの維持費も加わり、生活費は膨れるばかり。

そうなるといくら好きでも命と生活に大きく影響が無いファッションにかけれるお金が減るのなんて当たり前の話です。だから安い服が売れる。

結果、安くてかっこいい服はたくさんありますし、高い服は余計に売れなくなるって構図です。


これらを踏まえて僕はメイド・イン。ジャパンをどのように捉えているか。というかどのように捉えることにしたか、ですが『希少価値があるものであり、地産地消を担うもの』ということにしました。


値段が高いものを買うわけなので、それに納得できる理由として希少価値という価値があるんだという事、そして日本で作られたものを買うことで日本国内にお金をまわしているんだという事です。

これは実感として感じる事は出来ないかも知れませんが日本国内の経済状況のせいで値段の高い日本製の製品が売れなくなっているんだったら経済が少しでもよくなるように日本で作られた製品を買おうという小さいですが助け合いの意識です。

その意味においてメイド・イン・ジャパンの商品は価値があると思いました。


これは何も無理にメイド・イン・ジャパンのものを買おうという話ではありません。前述のように海外製品との品質の差はほとんどありません。

ただ、いいと思って買おうかどうか、迷うような場面があったとして、それが日本製であったら買う側の天秤に1つ、重りを追加してみようというぐらいのもので十分です。


アパレルも商売である以上は競争しないとダメなのでメイド・イン・ジャパンも消費者にとって何かしらの価値を発信しないと負けてしまうのは当然です。

しかし様々な状況により丸腰で真っ向から戦っても海外製にはほぼ勝てない。

だからデザインであったり技術であったりプロモーションなどで色んな武装をしないとダメなんです。僕はこの武装方法を考えることも国内で商品を作っているブランドのデザイナーに課せられた大切な指名の一つだと思っています。



皆さんはいかがでしょうか。今まで原産国表記とか見たこと無いって人もいると思いますがこれから店頭で商品を見るときにちょっとだけ気にして見てみて下さい。



それではまた!


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