書籍「手塚治虫のマンガの描き方」を読みました

アオイホノオで言及されていたので、気になって読んでみました。
漫画らしい絵の描き方から始まって、漫画を描く道具の話や長編漫画を描くためのアイデア出しやストーリーの練り方にいたるまで、漫画の基礎技術がぎゅっと凝縮された本でした。
対象は漫画を描いたことがない初心者向けですが、プロになりたい人よりはどちらかといえば「ちょっと絵や漫画でも描けた方が人生豊かになるし子どもウケも良くなるよね」くらいの軽いノリの人向けだと思います。そのわりに長編漫画の描き方などしっかり解説してあるのが面白いところです。
また、手塚治虫先生が生み出した数々のキャラクターの誕生秘話が書かれていたり、手塚治虫先生が影響を受けた漫画家や「今後ヒットするぞ」と思う漫画家の名前がたくさん挙げられているのでググりながら「あー!あの漫画の作者かー!」と気づく面白さがあったりと、漫画好きとしても楽しめる一冊だと思います。
また「長編漫画は作品として『完結させる』のが大事だから最初は4ページか8ページの漫画に挑戦してみよう」と書かれていて、おおこれは最近流行りのTwitter漫画じゃんと思いました。1ツイートか2ツイートにおさまるのがベストなんですね!

以下、特に心に響いた部分について感想をメモっておきます。

最初の一歩を踏み出してオアシスへ行こう

この本において最初の「マンガ」は棒人間や四角や丸の描画から始まります。棒人間や四角や丸で自分の願望を落書きしてみて、もし足らないところがあれば文字でも何でも書き込んで状況を描画してみよう、というものです。
四角で描いた給料袋(レトロ!)の横に「倍」と書き込んでよし、男女の棒人間にハートを描き添えてよし。
そのような落書きこそが漫画の原点である…というお話なのですが、なんてやさしい世界なんだーと泣きそうになりました。
最近涙腺がバグってるのでこういう「まずはやってみよう!技術なんて関係ない!まずは始めてみることが大事なんだ!!」というハウツー文章にすら泣けてきます。人のやさしさが身に沁みて。

そして、業界をリードするトップクリエイターは、その分野への最初の一歩を踏み出す勇気を与えるのもひとつの役目なのだなとも思いました。
やさしく手を取り導いて「漫画でも描いてみようかな」と読者に思わせる、素敵な導入だと思います。
さらに、漫画を描くということのある種の「効能」については以下のように述べられています。

ただ描くだけではなく、それによってなにかを訴えたり、見せあって意見を述べあったりすることが、砂漠のように無味乾燥な、いまの生活のなかに、ちょっぴりオアシスの役目をはたせるなら、これにまさる満足はないのである。
(手塚治虫のマンガの描き方 まえがき より引用)

今はたくさんの人がSNSで絵や音楽、そしてクリエイティブコーディングなど、自分のクリエイティブな部分を見せあい交流していますが、まさしくこの「オアシスの役目」があると感じています。それと同じ気持ちを手塚治虫先生も漫画を描くことに感じていたというのが面白いなーと思いました。
その分野の初心者をいかに「オアシス」に導けるか、そこがポイントでもあると思いました。

漫画の神様が言う "ぼくだってこうなのだから"

漫画のストーリーのアイデアを練る章で、手塚治虫先生は浮かんだアイデアの良し悪しが自分でもわからなくなった際はよく周囲の人にアドバイスをもらうようにしている、というエピソードを書かれています。
あの"漫画の神様"ですら自分のアイデアの良し悪しがわからなくなって見失う時があるんだ!という驚きがありました。
だとすれば、もうこれはクリエイターの普遍的な悩みで自分のセンスが信じられなくなる時期というのは誰にでも訪れるもの、だからそういう時期がやってきても心配しすぎることはないんじゃないかな、と思いました。

また、同じくアイデアに関するお話として以下のようにも書かれています。

ぼくの机のなかは描きつぶしやボツ原稿でいっぱいである。ぼくだってこうなのだから、みなさんだって労力や努力を惜しんではいけない。
めぼしい案ができてマンガが仕上がったときの爽快さは、なんともいえないもので、この世の春がきたみたいな気分だ。
(手塚治虫のマンガの描き方 第二章 案をつくる 3 マンガアイデア問題集 より引用)

"ぼくだってこうなのだから、みなさんだって労力や努力を惜しんではいけない"
(ポジティブな意味で)圧を感じるフレーズですね。"漫画の神様"にそう言われたら仕方あるまい。
ボツの中からアイデアが生まれることにも言及されていて、そのためにボツになったアイデアでも大事にとっておくことや、アイデアを日頃から貯めておくことがいかに大事か述べられています。

手塚治虫先生ですら己のセンスを疑ってしまったり、アイデアを忘れそうな時はメモったり、原稿がボツになってしまったりするのだから、たしかに "ぼくだってこうなのだから、みなさんだって労力や努力を惜しんではいけない" んですよね…。
漫画だけでなくすべてのクリエイティブの根源にある思想だと感じました。

Processingとp5.jsとクリエイティブコーディングが大好きです。 めちゃくちゃ元気!