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内容は流経も、結果は筑波。勝利の立役者は、櫻庭立樹。


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9月2日にケーズデンキスタジアム水戸にて天皇杯の茨城県予選決勝が行なわれ、筑波大学が流通経済大を破った。

結果は2-1だが、内容を見れば圧倒的に(と言って問題ないだろう)流経大が勝っていた。流経大が放ったシュートは25本を数え、対する筑波は8本だ。かつ筑波が後半に放ったシュートは85分の決勝点の場面のみ。筑波ベンチが換気に湧くその瞬間に「筑波の後半のファーストチャンスでは?」と思ったのだが、それは正しかった。

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「勝たせて上げたかった」と今年から流経大のコーチを務める曺貴裁氏は言い、中野雄二監督も「これがサッカーだ」と悔しさを露わにしながら語る。

筑波大の選手の口からは天皇杯本戦進出を決めた喜びの言葉がでてくる一方、内容面の課題について言及されることも多かった。

「前からプレスが来るとは思っていたけど、ここまで押し込まれたくなかった。その中で流経に主導権を握られて、終始ああいう形になってしまったのは自分たちの甘さ。逆に、プレスに来てくれる分、1つ剥がして付ける選手が増えれば。ポテンシャルは高いと思うので、そういうところに慣れて行くしかない。」

浦和や川崎Fが視線を寄せる筑波のCB・角田涼太朗(3年・前橋育英)は言う。筑波は開始数分こそスピーディーに陣内へ運ぶ場面があったものの、徐々に圧を返され、左右に揺さぶりスキあらば縦へボールを入れる流経大の攻撃陣を受けるプレーに終止してしまう。ただ、ボックス手前でシュートを打たせることで大ピンチを招くことは多くはなく、その場面が訪れてもGK櫻庭立樹の好セーブで乗り切っていく。

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危険な場面でも前に出ていく櫻庭。好セーブでチームを救った

流経大からすれば崩しの形も悪くなく“このまま進めればいつか点は入る“という展開で焦りはそうなかったように思う。ただ、先制に成功したのは筑波だった。43分、右サイドの山原伶音の左足クロスがややゴール前から後方にずれたことでDFが逆を付かれる。

「100点満点のボールではなかった」と山原は言うが、結果的にこの微妙なミスが奏功する。これに素早く反応した小林幹がフリーで胸トラップをし右足を振りぬき、ネット左に突き刺さした。

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流経大としては不運な流れだったが、上述したように“やり続ければいつか入る”展開でもあり、失点の痛みはそこまで大きくなかったように思える。実際、後半開始直後の50分に仙波大志のクロスを中央で満田誠が右足でたたきすぐさま同点に追いついた。この後も流経大の猛攻は続き、それは前半以上と言っても良い。

しかし、ここでも流経大に立ちはだかったのは櫻庭だった。

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62分には細かく素早いパスワークでゴール前まで繋がれ、中央へのパスをゴール前至近距離で加藤千尋にフリーで合わせられるも素早い反応でブロックする。75分には佐藤響のブレ気味のミドルを弾き、その後に詰めてきた熊澤和希のシュートを再び止めた。「相手がいるところに弾いてしまったというところ反省点ですが、結果としてセカンドアクションで止められたのは良かった」櫻庭は振り返る。

「シュートストップは自信があるので、落ち着いて対応した結果。そこは試合の収穫の一つ」と続けて話すが、この日の貢献度は凄まじいものがあった。

そして彼の奮起が実を結んだのは終了目前の85分だった。角田涼太郎が後方からボールを運び、少ないパス交換から森海渡のラストパスを加藤匠人が右足で冷静に流し込む。

冒頭に記した通り、後半にチームとして初めて放ったシュートが決勝点になった。

流経大はこの後、1点をもぎ取りに厚みをかけるも、中2日の疲労もあってか怖さを出しきれず。そして、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

流経大としては、押し込んだ時間帯に決めきれなかったことが大きかった。ただ、流経大が悪かったというよりも櫻庭がすごかった、という試合と言って良いかもしれない。

櫻庭の好プレーを呼んだのは2つの“悔しさ”だった。1つは1,2年生のときの同大会で味わったものだ。「1,2年生のときに流経に負けたものをメンバー外で見ていて、悔しい思いをしていた。今年こそという思いは本当に強かった」自らその悔しさを晴らしたことで、試合後の喜びはとても大きかったと言う。

そしてもう1つは、同じポジションに入った下級生の台頭から来たものである。今季、リーグ戦において湘南Y出身の新入生GK・高山汐生に1つしかない席を奪われる経験をしていた。

それが自身にとってプラスになったと語る。「高山が1年生なのに堂々としたプレーをしてくれて。自分は去年まで居た先輩2人が居なくなった中で甘えていた部分もあった。そういう意味ではいい刺激・きっかけになっています」

192cmの長身GKはまだ3年生だ。あと1年半、残されている。有望な1年生のライバルが入ったことや、強力な同県のライバルからの勝利を自らの力で呼び込んだことが、彼の成長を更に促すことになるだろう。

■寸評・採点

流通経済大学

GK 1 鹿野修平(3年・流通経済大学附属柏)6.0
1対1の冷静な対応やビルドアップで存在感。判断力も向上している。2失点の場面はノーチャンスだった。

DF 5 宮本優太(3年・流通経済大学附属柏)6.0
ライン際における好守の強さは際立ったが、敵陣深い位置での組み立ての精度にやや欠けたか。

DF 10 伊藤敦樹(4年・浦和Y)5.5
攻撃面でのクオリティはさすがで、配給や持ち出しで唸らす場面あり。しかし、結果的に2失点に直面してしまう。1失点目は一瞬相手を離したスキにやられた。

DF 13 佐々木旭(3年・埼玉平成)6.0
「来年を見据えた」(中野雄二監督)形でCBを担う中、そつなくプレー。特に後方からの組み立てはさすがの一言。後半、CKのこぼれを広いバーを叩いたシュートが決まっていれば…。

DF 6 佐藤響(3年・水戸啓明)6.0
決して「守る」選手ではない中、持ち味の縦へのドリブル突破を積極的に見せる。臆すること無く中にも入り、攻撃を活性化させた。

MF 14 安居海渡(3年・浦和学院)6.5
攻撃位を司るのはやはり彼。時間を作り、ミスをせず相手に圧力を与えられる。この日も中盤を制していた。

MF 8 仙波大志(3年・広島Y)6.5
「上手い選手がこれだけ走れば怖い」流経大を象徴している。積極的にボールに絡み、50分には見事な同点弾で反撃の狼煙を上げたが、勝利は掴めず。

MF 9 加藤千尋(4年・流通経済大学附属柏)6.0
ブレず、ムラのないハードワークと前への推進力は魅力的でチームを助ける。62分に魅せた見事な崩しからのシュートを沈めていれば完璧だった。

FW 11 満田誠(3年・広島Y)6.0
前半から右サイドで抜け出しチャンスを作るも、ややクロスの精度に欠けた。しかし、50分の仙波のゴールを呼んだボールは見事に相手DFの裏を突く。

FW 23 齊藤聖七(2年・清水Y)5.0
積極果敢にゴールを狙い、遠目からもSHOOTを放っていったがやや空回り。際どいプレーで警告ももらってしまい、前半で退いた。

FW 16 永井颯太(3年・中央学院)5.5
足元からボールが離れず前進できる技術は見事で相手守備陣を撹乱させられる。ただ、前半の決定機は決めなければいけない。

SUB
MF 18 熊澤和希(2年・流通経済大付属柏)4.5
30分に迎えた逆転のチャンスシーンも、櫻庭に止められる。最前線での仕事が思うようにできず。彼の能力を考えれば物足りなさが残った。

MF 26 加瀬直輝(2年・尚志)-
時間短く、評価なし


FW 32 伊藤隆人(4年・盛岡商業)-
時間短く、評価なし

監督 中野雄二 6.0
ゲームの主導権は完全に握っていた。1つあるとすれば、熊澤の奮起が足りなかったことか。

筑波大学

GK 櫻庭立樹(3年・札幌U-18)7.0 ☆MOM
25本のシュートを浴びるも1失点に抑える。前後半それぞれで魅せた至近距離でのシュートブロックが勝利を呼んだ。

DF 6 三浦雅人(2年・東京V・Y)5.5
持ち味の攻撃面は前方の山原に任せる。守備で耐える時間が長く続き、幾度か背後をとられる場面も。

DF 23 森侑里(2年・大宮Y)6.0
ボックス內部に侵入させない守備は評価も、ビルドアップのところでつたないミスがあり。やや落ち着きが無かった。

DF 3 角田涼太朗(3年・前橋育英)6.5
後方で耐える時間が続き、らしくないミスもあった。だが、終盤に相手のすきを突いて発動した攻撃参加が決勝点を呼び込む。

DF 28 遠藤海斗(1年・東京V)5.5
左足の展開力は魅力的。敵陣へ攻め上がった際も球際の強さを魅せた。しかし、守備では満田や仙波に翻弄される場面も目立つ。

MF 5 井川空(3年・札幌U-18)5.0
相手を捕まえられず、ボールを持って落ち着かせることもできず。ピンチに絡むことはなかったものの、彼の力を考えれば物足りない。

MF 8 知久航介(4年・國學院久我山)5.5
主体的にボールを持って動かそうと奔走するも、流経のプレスに苦しむ。その中でも後ろ向きにならず敵陣への侵入を試みたのは評価点。

MF 2 山原怜音(3年・JFAアカデミー)6.0
押し込まれる展開の中、縦への推進力あるドリブルと右足のキックでチャンスを演出。小林へのクロスは狙い通りではなかったものの、結果としてDFを欺いた。

MF 9 小林幹(3年・FC東京U-18)6.5
直前のチャンス逸後にやってきた山原のクロスを2タッチでネットに突き刺す。消えた時間もあったが、アタッカーはこれで結果を残せば良い。

MF 17 加藤匠人(2年・柏U-18)6.5
オンザボールで違いを出せず、試合を通じてのパフォーマンスにはおそらく本人も納得していないはず。しかし、最初で最後の決定機をしっかり沈めてチームに勝利をもたらした。

FW 16 森海渡(2年・柏U-18)6.0
この日はやや消化不良か、ゴール前、中央でプレーし驚異となる場面が少なかった。しかし、後半唯一のチャンスの場面で冷静に加藤へラストパスをお送る。

SUB
MF 4 山内翔(1年・神戸U-18)6.0
オンザボールでの強みを発揮できる場面はなし。しかし、難しいゲーム展開の中、我慢するタスクは全う。

MF 12 田嶋翔(4年・暁星)
時間短く、評価なし

MF 27 瀬良俊太(1年・大宮Y)
時間短く、評価なし

FW 13 和田育(3年・阪南大高)
時間短く、評価なし

監督 小井土正亮 6.5
圧倒されるゲーム展開をしのぎ、勝ち切る。攻撃面の構築は課題も、守備面では統一感を出せた。

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