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世界の金融の中心がイギリスからアメリカに!?


金融コンサルティング会社ダフ・アンド・フェルプス(Duff & Phelps)の最新調査によると、ニューヨークは世界ナンバー1の金融の中心地の座を取り戻した。報告書「Global Regulatory Outlook」の中で、同社は世界各地の183人を対象に実施した調査の結果を明らかにした。回答者の半数以上は、銀行もしくは資産運用会社で働いていた。

2019年の調査の結果、回答者の過半数がニューヨークを世界ナンバー1の金融の中心地に挙げた。ブレグジットに対する懸念から、ロンドンを世界の金融の中心地に挙げた回答者は36%で、2018年の53%から大幅に減った。

ブレグジットは2018年の時点でもよく知られたリスクだったが、その後、イギリスにとって本格的な危機となっている。2年に及ぶ離脱交渉の末、合意に至ることができなかったイギリスのメイ首相は5月24日辞任を表明した。合意なき離脱を呼びかける政治家もいれば2度目の国民投票を求める政治家もいて、欧州連合(EU)におけるイギリスの立場は依然としてこれまでになく不安定だ。その一方で、金融サービス会社はすでにイギリスの首都から脱出し始めている。

このようにイギリスが世界の金融の中心地から外れ始めていることは事実である。原因としてイギリスのEU離脱が考えられるが私はそれ以外にアメリカの巧みな戦略があったと考える。

ところで富裕層の間では国内外問わず海外に口座を作る動きが活発になっている。
スイスのプライベートバンクや香港のHSBC銀行などが有名である。

中でもHSBC銀行はイギリスのロンドンに本社を置く世界最大級のメガバンクでありジャーディン・マセソン商会の銀行として設立した歴史のある銀行でもある。

日本でも19世紀に最初の事業所が横浜に設置された。

現在では、香港上海銀行は日本の支店は個人金融サービス業務から撤退しているし、個人向けサービスも口座開設のハードルが高いプレミアサービスのみしか提供されていなかったので多くの日本人がわざわざ日本からアクセスの良い香港まで行き、口座を開設しに行くという現象がおきたのである。

また、マルチカレンシー口座であるのHSBC銀行はアジアでビジネスをしている方のハブ的な銀行としては便利である。

例えば新興国でビジネスをしている人で、現地の通貨であまりキャッシュを大きく持ちたくない場合に様々な通貨で預け入れが可能なのだ。
タイでビジネスをしている人が、手持ちの金融資産を全てタイバーツにしてしまうのは分散投資の観点からいくと望ましいとはいえない。

ドルや円、ユーロなどの複数の通貨で保有しておきたい時には、HSBC銀行のマルチカレンシー口座は使い勝手が良いのである。

目的としては上記のようなハブ銀行的な使い方ができることや自国の国家破産対策として口座開設をする人が多かった。

HSBC銀行はイギリスの金融グループHSBCホールディングスの傘下であるので昨今の国際金融の中心はイギリスであった。これを面白く思っていなかった国がある。アメリカである。

 昨今はずっとイギリスが金融の覇権を握っていたが近年はアメリカがそれを取り戻しつつある。なぜアメリカが覇権を取り戻しつつあるのか。イギリスのEU離脱だけが原因なのだろうか。

私はもう一つ、ある国際ルールが原因になっていると考える。

CRS(Common Reporting Standard)という言葉をご存知だろうか。

昨今の国外に口座を作る動きが脱税の温床になっているのではないかという問題提起から

2014年にアメリカが作った国際ルールである。(パナマ文書の事件等もあった)

CRSとは日本を含む100以上の国・地域が参加し、各国の金融機関は非居住者の口座情報を自国の税務当局に報告。当該情報を非居住者の居住する国の税務当局と自動的に交換し、国際的な租税回避を防止する仕組みである。

要するにCRS加盟国同士の間であればどこに資産を持っていたとしても自国政府から鏡ばりになったということだ。イギリスや香港、スイス、もちろん日本も加盟をしている。

しかしなんと驚くことにアメリカはこのCRSに不参加なのである。

これは一体どういうことか。

ここで世界の税金の徴収ルールを見ていく。
属人主義と属地主義というルールがある。

属地主義とはそこの国に住んでいる人が税金を納めるルールだ。
日本は属地主義であるし、世界の大半の国々が属地主義だ。
だから、インド人だろうがイギリス人だろうが日本に住んでいれば日本に税金を納めることになる。

属人主義とはその国籍の人が税金を納めるというルールだ。
アメリカはこの属人主義を採用しており、アメリカ人であればどこに住んでいようがアメリカに税金を納める必要があるのである。

アメリカはこの属人主義という性質から、外国口座税務コンプライアンス法、通称FATCAを2010年に成立させ、2013年から施行している。これは海外にいる米国人顧客の身元・保有する口座の資産・取引の詳細な記録をアメリカ合衆国内国歳入庁に直接報告するよう義務づけるものである。

要するにアメリカは属人主義だから世界中の国々はそこに住んでいるアメリカ人の口座情報や資産をアメリカ政府に対して開示しなくてはならないというものだ。

一方的なCRSのようなものである。

そしてアメリカはCRSという国際的なルールを自分たちが提起して作ったのにも関わらず、FATCAがあるから自分たちには必要ないということでCRSを脱退したのである。

その脱退に、 FATCAの存在があったから筋が通ってしまうのである。

FATCAの施行が2013年、CRSが作られたのが2014年だ。

よって現状CRSという縛りにより先進国を含む100ヶ国以上の国々に資産を置いていたとしても国にバレバレな状態になり、アメリカに置いておけば政府には開示されようがないという状況をアメリカはものの10年で作り出したのである。

2019年の金融コンサルティング会社ダフ・アンド・フェルプスによる調査で世界ナンバー1の金融の中心地がロンドンからニューヨークに移ったという事実もあるが今後世界の金融の中心がイギリスからアメリカに移っていく動きは加速していくであろうと私は考えている。そこにはアメリカによる10年前から進めていた緻密な計画があったのである。


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