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第5章 魔女の奇異な人生 「闇期への序章」

「 おじいちゃんが死んじゃった?!」

11月11日。高台にある我が家の夜は、すっかり冷え込み早くもコタツを出したところだった。夕飯を食べ終えお風呂も入り、パジャマ姿でコタツでゴロゴロとくつろぐ時間は最高だ。コタツでずっと寝ていたくなる。そんな夜に電話が鳴った。電話に出た母の話し声が急に低くなった。母は、とても大事な話をする時、いつも地底の底から絞り出すような低い声を出す。
「何かあったんだ!!」私も弟も、聞き耳たてて静かに電話が終わるのを待った。話し方から、どうやら叔母さんからの電話なんだ。と思っているうちに母が受話器を置き、とてつもなく低く震えた声で「おじいちゃんが死んじゃったみたい・・・。」と、言いながら腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。私は、母の声は聞こえたけど言葉の意味が理解できなくて、何も喋れなくなり、母が落ち着いて話すのを待った。その後のことはあまり覚えていない。母のショックを感じると、自分のことを考えることもできなくなった。

おじいちゃんは、気の知れた友人たちと仙台の温泉旅館に旅行中だった。お酒が大好きで、普段は無口だけどお酒が入ると上機嫌で歌を唄いながら踊り出したりするひょうきんな人で、いつも皆んなを和ませる人だった。おばあちゃんは、酔っ払いが大嫌いで、ものすごい厳しく口うるさい人だったから、おじいちゃんがお酒を飲んで酔っ払うのを心底嫌がっていた。だから、おじいちゃんは気の知れた友人たちと旅行に行って、仲間とお酒を交わすのをとても楽しみにしていて、よく旅行へ出かけていた。いつも嬉しそうに出かけて行っては、子供達一人一人にお土産を、ちゃんと選んで買ってきてくれていた。その日も、仙台の温泉旅行は、うんと楽しみに行っていたはずだった。

電話があった翌日、母は朝から実家に行き、子供達は家でお留守番するように言われた。その日は、喧嘩もすることなく4人で遊んだりしてその間も、弟たちとおじいちゃんのことは何も話さずに家にいた。お留守番していたら、父方の親戚の叔母さんから電話がかかってきて「お母さんは?おじいちゃんはどうなの?」と矢継ぎ早に聞かれ、私は、とっさに答えられなくなり「ちょっと待ってください」と言いながら受話器を手で押さえ、横にいた弟に「ねえ、おじいちゃんて死じゃったんだよね?」と聞いてみた。そうしたら弟も「たぶん・・・」と答えるから、親戚の人に「多分、死んじゃいました」と。中学2年生なのに、しどろもどろそんな風に答えてみた。私は、「死んじゃうって、どういうこと?」なんだか解らなくなり、泣きたいけど心臓がバクバクしすぎて泣けず、パニクって自分と身体がどこにいるのか分からなくなっていった。

「 おじいちゃん迎えにいく」

電話があったその日のうちに、父と伯父さん達が仙台までおじいちゃんを迎えにいき、翌日、車でおじいちゃんは帰ってきた。おじいちゃんが泊まった旅館は、老舗の温泉旅館で素晴らしいところで、おじいちゃんが亡くなった時に、女将さんや旅館の方がすごく良くしてくれたそうだ。母はおじいちゃんが大好きだったから、おじいちゃんの最後の場所へ行きたかったけど、行けずにいて随分経った13回忌を終えた頃に、母が「その旅館に行ってみたい」と言い出し思い切って、おばあちゃんと皆んなで行ってみたのだ。母は、泣きながらその時のことのお礼を女将さんに伝えていた。当時のことを考えると、旅館側としたら迷惑な話だったろうに、心から身を尽くして対応して下さったんだろう。。。というのが行ってみて感じた本当に素晴らしい旅館だった。

おじいちゃんは、その日もきっと美味しいご馳走を頂き、仲間とお酒を酌み交わし上機嫌にきっと歌って踊って楽しくやったんだろう。どうやら、その後温泉に入ってて、そのまま逝ってしまったようだ。なんて、おじいちゃんらしい最高の最後なんだろう。あっぱれ!!今は、そう思える。

「 おじいちゃんお帰り」

おじいちゃん家は、古い家で一階が工場とお店、そしてお店の横にもの凄い急な階段があって、そこをあがると二階が住まいだった。おじいちゃんは、担架に乗せられ毛布にくるまれて寝ていた。伯父さんたち男衆で、おじいちゃんを家に運び始めたんだけど、急な階段が、どうにもこうにもおじいちゃんを寝かせたまま上げることが出来ず、私が見た時には、担架に乗ったおじいちゃんは、ほぼ直立して立っているようになっていて「おお!!あれ?生き還ったかも?!」と思ってしまった。頭の中が混乱している時や、受け入れたくない時、人は思いたいように思うものだと・・・。その時リアルに知った。

魔女にとって、身近な人の死は初めてのことだった。

死・・・生まれてきた者に平等に訪れる死。魂はどこからきて、どこへ還っていくのか?死は、汚らわしいものでもないし、恐れるものでもない。生から死へと、その先にある世界は、現在から未来と同じように繋がっている。だから、一生懸命生きるのだ。死は終わりではないから、肉体を去るその日まで、全部使いきってその先へいこう。

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