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ファンクラブ会報掲載、ブライアンの手紙(1976年夏)

(From: International Queen Fan Club Summer Newsletter)

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親愛なるメンバーへ

どこから始めようか? 話すことがとても多いんだ。

まず、僕たちは今までどこにいたのかって? 少なくともその答えは簡単だ。昨冬の全英ツアーと自宅での数日間のクリスマスの後、僕たちは気分良くイギリスを出発した。君たちのおかげで全英ツアーが大成功だったからね。コンサートでのとても温かい雰囲気は、自分たちやスタッフが頑張って準備をした価値があったと思わせてくれた。「ボヘミアン・ラプソディ」は9週間ぐらいチャートのトップ、そして「オペラ座の夜」もトップになった。メディアが僕らに充てた時間の多さはほとんど恥ずかしいほどで、予定通りアメリカへ発ったのはちょうどいいことに思えた。

アメリカツアーを経験したことがなければ、それがどんなものかは絶対わからない(確かに僕たちも最初のツアーの前は分かっていなかった)。プレッシャーは強烈だし、向こうにはロックンロールを中心に形成された一大社会的文化がありとても満足感を覚えるが、要求されるものは厳しい。ツアーはこれで3度目だったので、どんなものかある程度は予想していた。でも東海岸のニューヨークとボストンから公演がスタートしてすぐに、今回は何か特別なことが起きていると感じはじめた。何が起きていたかというと、イギリスと同じで、ボヘミアン・ラプソディ(またはBo Rap、僕らはそう呼ぶようになっている)が聞かれ、アルバムが放送されるとたちまちクイーンの音楽に興味を持つ人の幅が広がり、その数も激増したんだ。アメリカで自分たちの音楽を聞いてもらうためにはイギリスよりずっと手間がかかる。トップ40シングルを流すAM局、アルバムの曲をかけるFM局が絡んでいて - ちょっとしたジャングルだ。だから、3分以上のシングルはイギリス以上に即、窓から投げ捨てられるアメリカで 「Bo Rap」 と「オペラ座」がすべてを突き破ったと知りとても嬉しかった。

僕たちは通常ギグの当日朝に移動し、だいたい週に5晩のライブをこなした。カバーする地域は巨大で、西海岸とロサンジェルス ー ロックバンドの成功がアメリカ中で一番難しい場所と言われている ー まで横断するのにおよそ2か月かかった。ライブをした場所全てが僕らをあたたかく迎えてくれた。多くの会場ではロンドンと同じように最初の公演が即売り切れとなり、2度目3度目を追加した。それぞれの町を後にするごとに、ジグソーパズルのピースがひとつずつはまっていく感覚があった。そして、評判が広まるにつれてシングルとアルバムは徐々にトップ5まで上がり、今はどちらもプラチナ(※100万枚超え)だ。とても満足している。大きな「ありがとう」を僕らの素晴らしいアメリカの友人たちに。

アメリカからはそのまま日本へ行った。ご存じだと思うが日本は長い間僕たちにとても親切にしてくれている。遡ることファーストアルバムの時代からだ。昨年初めて訪れた時、空港や全てのコンサートで日本のファンが大騒ぎで迎えてくれたことがとにかく信じられなかった。そして今回の騒ぎはもっと大きく、さらにエキサイティングだった。そして人々はさらに親切で寛容で・・・要するに、僕たちは日本を愛している。あれは一生ものの経験で、言葉や文化が全く違っても音楽ではひとつだと分かるのは最高の気持ちだ。僕をセンチメンタルすぎると思うかもしれないが、東京の空港を出発する時、僕らはみんな涙ぐんでいたとだけ言わせてもらうよ。

日本からはオーストラリアに飛んだ。とても大きなペースの変化だ。2,3日休みがあり、オーストラリアの広く開放的な空間と陽光がリラックスのために必要だったと実感した。肉体的にも精神的にも日本では疲労困憊だったからね。

最初の公演のパースで、僕らは残りのツアーを象徴することになるものの多くを知った。シングルとアルバム両方が既に1位になっており、マスコミは僕らをお高くとまっていると叩くキャンペーンを張って、概して批判的だった。でも僕たちが演奏した観客は?  最高だった。はじめは少し驚いているように見えても最後にはものすごい勢いで爆発するんだ。大がかりな音響、照明機材をオーストラリアまで運ぶのは大変で費用もかかり(ほとんどのバンドはやろうともしないことだ)、それらをすべて搬入するために会場ほとんどを建て直す羽目になるスタッフたちの仕事はとても大変なものだった! でも、もう一度言うが、観客からの反応にはその価値があった。本当にありがとう、オーストラリア。これが今後の多くの楽しい時間のはじまりでありますように。

そしてようやく帰国。4か月間ほぼノンストップでのツアーを終えると自分の中で何かがついに崩れて、電話の呼び出し音のない、愛する人たちとの安らぎのことしか考えられなくなる。僕たちが静かにこっそり帰国して気を悪くした人がいるのは分かっている。そんな思いをさせたかったわけではないんだ。でも、フラッシュキューブ(※昔のカメラのキューブ型のフラッシュ装置)をあとひとつでも見たら僕たちは死んでいたと思う! ツアー中は観客と直接つながるために全身全霊を捧げる。でも帰る家でプライバシーがなければ人間として壊れるかもしれない。とても皮肉なことだ。ピート・タウンゼントが「Tommy」(※ロックオペラ)で見事に描写したように。

さて、ジョン、フレディ、ロジャー、そして僕自身と君たちとの関係がとても大事なファンクラブへと僕を導いた。

ところで我々の場合、ファンクラブは本当に「ファン」のためのクラブだったことがない。クイーンは幸運にも「ポップスター」として僕たちを崇拝するのではなく、もっと深い何かを僕たちと分かち合えると感じてくれる観客に恵まれている。言葉にするのは難しいが、ロックミュージックだけがもたらすことのできる、ある意味での親密さと結びついているものだ。僕らが最も誇らしく思うことのひとつで、それに突き動かされている。パットとスーは、僕らの音楽を聞いたことある人は半ダースほどだった時代からの友人だ。二人は、音楽を放り出さずにはきちんと返事を書けない数の手紙が僕たちに届き始めた頃に「クイーンファンクラブ」を始めた。「ファンクラブ」という呼び方については何度も話し合ったが、大げさに聞こえないものはそれ以外思いつけなかったんだ。ファンクラブが大きくなるにつれパットとスーが費やす時間はどんどん増えて、間もなくフルタイムで働いてもらうよう頼むことになった。二人は僕たちと、僕たちに特別な関心を持ってくれる人たちとの連絡窓口になった。この前のツアーで、僕たちはファンクラブがうまくいっていないという連絡を受けるようになった。あれだけ遠くにいて演奏に没頭していると、きちんと連絡を取り続けるのは難しい。会費の支払いの確認や領収書を受け取っていない人が大勢いると聞いた。パットとスーはクイーンについての本を執筆中で、郵便物に対応する時間がなかったんだ。ところで、この「本」に関することはすべてが悪夢だった。僕らはそもそもアイデア自体にそれほど乗り気ではなかった。でも他にもそういう本を書いている人たちが(僕たちに会ったこともない人たちだ)いたので、パットとスーに「公式ストーリー」を書いてもらうのはいいアイデアではと説得された。そこからどうなったのかは混乱しているが、日本で本の原稿を読んだら - 真実を全く伝えていない(と僕たちは思った)ものになっていた。せめて謝意は表せるはずと思っていた、初期に助けてくれた人々のことが書かれていなかった。イギリスとアメリカでの初期のギグもだ。無名からブレイクしてクイーンを本物のバンドにしてくれたものだったのに。パットとスーが悪いのではない。二人はどこか途中で、僕たちが差し替えを望むような内容を書くよう強いられたんだ。ただ一番悲しいのは、本の内容の多くから、彼女たちと我々の間にはもう長い間亀裂が広がっていたと気づいたこと。そしてそのことから僕たちは突然、ファンクラブがクイーンと接点を失う危機に直面していると感じ、すべてを考え直すべき時だと思った。

スーはEMIに移った。パットはフルタイムのライターになる。この状況全体が悲しいが、かつてあった信頼を取り戻す唯一の道なのではと思う - 僕らの友達が僕らに雇われているという状態を解消することが。二人の成功を心から祈っているし、僕はこれが物語の終わりだとは思わない。ひとつの段階に過ぎないんだ。

今後については長い時間真剣に考えた。全英ツアー以来、世界中でクイーンをとてもよく世話してくれているピート・ブラウンの手助けでテレーズという大変特別な女性を見つけ、ファンクラブのことを長い時間話し合った。彼女は僕たちのニーズと問題点を理解している。今は巨大な手紙の山にアタックし始めている。とても勇気のいる任務だよ! ファンクラブをかつてないほど最高のものにするため、我々は力を注ぐつもりだ。最初にやりたいのはクラブ運営の純粋に機械的な側面の重荷をすべて取り除くこと。テレーズが彼女の望みどおり、とても個人的な絆的な存在でいることに集中できるようにね。だから、このニュースレターを送るために一万件ぐらいの住所を書くよう彼女に頼む代わりに、特別な郵送システムでの処理を試す予定だ。君たちが手を挙げて「何? 郵送システム? なんて機械的な!」と言うのが聞こえるし、僕も同感だ。でもどうか我慢してほしい。それでテレーズはひと息つき、君たち(と僕たち)を知る余裕ができるのだから意味があることだ。なのでどうかどうか彼女に君たちの忍耐と理解をお願いしたい。そしてファンクラブが君たちのためにできることで何か他にアイデアがあれば、手紙で教えてほしい。

長くなってしまったね。重すぎないといいけど。これを書いたのは僕だが、内容はみんなへのたくさんの愛を込めての僕ら4人からのものだ。応援を本当にありがとう。

ブライアン・メイ


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