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資本生産性、資本コスト、超過利潤 - 豊かなインベストメント・チェーンへの質の高い「対話」を

このアワード、ご存知でしょうか?

東証では、優れた経営意識と確かな経営の仕組みを備え、持続的な企業価値向上を実現しているエクセレントカンパニーの実践事例の紹介を通じて、日本の上場会社の企業価値向上や資本コストに対する認識をより一層向上させ、個々の上場会社がさらなる成長に踏み出すきっかけにしてほしいとの想いを込め、2012年から「企業価値向上表彰」を実施するなど、上場会社における「企業価値向上経営」の取組みを後押ししています。

2012年にスタートしたアワードで、8回目となる2019年度も既に発表されています。

大賞に輝いたのは、小松製作所。

優秀賞には、資生堂、ANAホールディングス、ニトリホールディングスの3社。

プレスリリースのリンクです。

このアワードに関連して「企業価値向上経営セミナー・シンポジウム」が設けられているのも、このアワードの特徴の一つです。

昨年12月に行われたセミナー(「基礎から学ぶ『資本コスト』)の資料、講演録が公開されています。

特に興味深かったのが、みさき投資の中神康議の講演録です。

みさき投資の中神さんといえば、こちらの本の思い出が強いです。

今回の講演録で印象に残った箇所を。

いずれにしても投資事 業をやろうと思うと複利効果が大事だということです。なので我々の期待は、皆さんの会社が複利効果を出してくれることです。投資家はすぐ ROE や ROA に言及し、そのわずかな数字の違いに拘ると思わ れているかもしれません。ですが長期投資家であればあるほど、そのわずかな数字の差がものすごく大きな投資リターンの差になるということがよく分かっているのです。みなさんにこの複利効果、このわずかな違いを追求してほしいということが、長期投資家の基本的な願いです。

このセミナーを聴講されている多くの人は、IR担当者の方ということのようで、ここでいわれている「皆さん」「みなさん」は、そういう方々です。

今日のテーマである『超過利潤』になります。何かを超過した複利効果を出してください、ということです。では何を超えるのか、 何を超過するのかというと、資本の生産性、例えば ROE や ROA が今日の主題である資本コストを超えていれば、超過利潤ということになるわけです。

出て来ました! 資本(の)生産性、資本コスト、そして超過利潤!

ROE と ROIC、ROIC と ROA、ROA と WACC の各々の 関係がどうなっているかを見ています。我々は頻繁に様々な会社さんに対してこの関係を当てはめてみ ますが、余剰資産が大きい会社は ROIC と ROA の差が広がり、全くレバレッジがかかってなければ ROIC と ROE は全然変わらなくなります。このあたりの関係性を見た瞬間に、この会社はどのぐらい バランスシートをコントロールできている会社か、というのがリトマス試験紙的に分かります。

「成長」についての大変重要な指摘です。

でも今、 超過利潤も出せてない会社が成長するとどうなるかというと、逆に価値を毀損するスピードが高くなり 加速的に価値を破壊するというのが、大変残念ながらこの金融理論のABC です。
折れ線グラフがいわゆるリターン・オン・インベストメントで、投資をしてそこ から上がってくるリターンですが、これも実は昭和 55 年のときから右肩下がりです。もちろん成長したい。成長したいから投資をする。投資をするけどそこから利益が全然上がらない、ということになり ますと、まさに資本の生産性が下がっていることになってしまうわけです。

「昭和 55 年のときから右肩下がり」

これ、結構、衝撃的だと感じませんか?


続いて、会社が持っておくべき、手許現金のお話。

そんなビジネスで我々が持つべき現金水準をどう考えているかというと、一つの投資先の社長に教わ った考えでして、その会社は比較的現金を持ってらっしゃいました。一体、幾らが最低現金水準だろう かという話をしたときに、その経営者の方が見事におっしゃったのが、中神さん、2 年分の人件費だけ を持たせてほしい、と。

個人投資家の間で時に話題となる、いわゆる「生活防衛資金」と似ているかも、って感じました。

どれが良いロジックなのかは分かりませんが、大事なことは、思考停止をしてとにかく危機が来るから貯めておくとか、大規模な投資資金が必要になるかもしれないから貯めておく、ということではなく 皆さんなりのロジックを持って最適な現金水準というのを固めていただく必要があります。

株主還元、配当、自社株買いについて。

会社は本当に千差万別なはずで、業界も違えば業界の中のランキングも違います。そこ では見えている事業機会、見えてない事業機会、ばらばらなはずです。日本ではなぜ皆 3 割なのでしょうか。絶対におかしいと思います。そんなことで企業経営がうまくいくのか。企業間競争を勝ち抜いて いけるのか。私は横並びでそういうことができるとは思いません。

みさき投資さんの対話の事例もお話しされています。

皆さんの会社の事業を評価するときにも、この資本コストが大事ではないか、ということを丁 寧に一個一個やっていきます。こういったものを丁寧に資本コストを推定していった上で、先ほどから 申し上げている価値、価格じゃなくて価値は一体幾らなのかというものを、事業セグメントごとにやっ ていきます。価値というのは、今出ている売り上げとか今出ている利益が絶対だとは考えていません。 事業は良いときもあれば悪いときもあるわけです。この事業が巡航速度で出せる売上額は幾らぐらいな のか、巡航速度で叩き出せる利益額はどれぐらいなのか、キャッシュフローでみるとどのぐらいなのか、 というものを求めます。これを先ほどから算定した資本コストで割り引くと、このぐらいの価値は絶対 にあるはずではないか、というのを足し合わせていくのが全体の企業の価値ということになります。

バフェットさんのこの言葉も出て来ました!

価値と価格は別物だ。価格はあなたが払うものであり、価値はあなたが手に入れるものだ。何故それを一緒にするのか


非常に読み応えのある講演録でしたから、ナマで聴いてみたかったと強く感じました。

この講演録を読んで感じるのは、その内容、質が担保されることが前提ですが、投資家と投資される会社との対話が豊かなインベストメント・チェーンを醸すためには不可欠である、ということです。対話の内容、質を担保するためには、長期的な目線で向き合える投資家が増えてくることも非常に重要です。高い質の対話をどうやって増やしていくか、私は、骨太のアクティブファンドを育てていくことがその解決策の一つになるものと考えています。みさき投資さんのファンドは機関投資家向けのみなのが残念。長期的な目線で会社と質の高い対話を目指すファンドマネジャー、投信会社がもっと増えてほしい、そう強く思います。

中神さんの講演録とプレゼン資料です。


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