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おじい

今日もFOX STUDIOの仕事が終わった…とお片づけをしていた。

あるセットの製作中で、俺らの部署はあちこちを工夫を凝らして塗り塗りしてるもんで、刷毛やら意味不明な着色塗料やらをしまっていた。

セットの中は混沌とていて、音楽がなりっぱなしの中、違う部署の者共はずりずりやったり、ダンダンってやったりしていている。

と、俺らが片付けている7,8m向こうに、組み立て部所属のおじいさんが片付けを始めたのが目に入った。くしゃくしゃの帽子(前にひさし)を斜めにかぶって、汚いつなぎを着ている、いかにもこの道40年!とか言いそうなおじいだ。

俺は構わず自分の片付けを続けていたのだが、おじいの方角から音が聞こえたので再びふと視線を投げた。

するとどうだろう。細いホースの先を自らに向け、ひょいひょい踊っているではないか。

少なくとも俺にはそう見えた。

そのホースはエアー釘打ち機用のもので、たどっていくと八岐大蛇よりもマタの多い分岐があって、あっちこっちに伸びて、大人数で作業ができるようになっているんだが、そのひとつをおじいがつかんで、自らに空気をあてているのだ。

そう、おじいは、粉まみれ、おがくずまみれでの作業のあとにエアーで全身シャワーをしているのであった。意外とおしゃれなおじいである。

しかし右でホースを持って左の腕やわきの下にあてているときは左の足がひょいとあがり、反対の手に持ち帰ると今度は反対の足があがる。
それはまさに古来から存在する原始的といえる踊りと言えなくもないではないか?

それがあっちで鳴っている音楽と全くあってないところが疑問だが、もしかして、おじいはたった一人のアジア人の俺を笑わせて和ませてくれようとしているのか?大男のオージーの猛者たちの中で果敢に戦う東洋の黒豹の心をなぐさめてくれているのか?

一通り身体シャワーが終わったそのとき、クライマックスがやってきた!

おじいは微塵の躊躇もなく、そのホースの先を下から顔方向に向けた。

ぴゅーーーーん、くるくるくるっーー!

あーーーーーーーーーーーっ。

ひさしに風を受けた帽子は後方へ見事な回転で飛んで行き、
おじいの見事なつるっぱげだけがそこに残された。

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