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そんな感傷的な思いを脳から消すために チャツウッドの街にでた。

ナイキのオーダーメイドのシューズをなくした。

ジムに置き忘れたのを誰かが持って行ってしまったのだろう。
レセプションにいってもそんな忘れ物は届いてないと言われた。

何回も履かないうちにだったからとても残念だ。
まあ、ほかの誰でもない自分が悪いのだ。
縁がなかったと考えるのはポジティブ過ぎる。

仕方がないから古いシューズでのボディコンバットのあと、
サウナに入って、シャワーを浴びて、
髪の毛を乾かそうといつもの鏡のところに行く。

と、鏡の前の台の上にくしゅっとなっているブリーフが一枚。
熟したレモンの果汁からほとばしるビタミンCが
たっぷり濃厚に沁みこんだような黄色のブリーフ。

汗なのか水なのかグショグショなのだ。
疑問はすぐに解決したいタイプだが、
つまんでその匂いを嗅ぐのは気が進まない。

おまえが悪いわけじゃないんだよ、ごめんな。
とブリーフに言い訳しつつも、
視界に入らないようにしてドライヤーで髪を乾かす。

さんざん汚い陰部をあてこすられたあげく、
ぐしょぐしょのまま主人に置き去りにされたブリーフ。
見ず知らずのおっさんには存在を消そうとされて、
気の毒なことこの上ない黄色のブリーフ。

あ、と思う。
主人の香ばしい足を突っ込まれて、しかも離れられないように縛られながら
運動で徐々に汗が移っていく恐怖に耐えていたナイキのシューズ。
解放されたかったのかな。
気の毒だったな。

そんな感傷的な思いを脳から消すために
俺はその足でチャツウッドの街にでた。

チャツウッドのモールでは木曜日と金曜日に屋台が並ぶ。

そこでは威勢のいい、おにいちゃん、おねえちゃんが、
黒のTシャツと絞り鉢巻でたこ焼きを売っていた。
「あ~りがとお~ござっしたぁ」と いう日本語が
夜の雑踏で一際カッコよく響いていた。 

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