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【ゲーム分析】清水エスパルスvsジュビロ磐田 トレーニングマッチ 2020/3/28


Jリーグの中断を受けて、清水エスパルスとジュビロ磐田のトレーニングマッチがDAZNで放送されていました。本記事ではそのゲーム分析を紹介します。

システム

ジュビロは4-4-2のフォーメーションで、昨シーズンと同じ陣形を採用しています。ビルドアップの際に上原選手がDFラインに落ちてサポートをとり、それに応じて両SBが高い位置をとるため、攻撃時は3-5-2に近い状態になることがあります。

一方のエスパルスは4-3-3のフォーメーションが予想されていましたが、3-4-3を基本としたフォーメーションで、守備時は両WBが下がって5-4-1を形成します。この試合では、3-5-2に近い状態でビルドアップを行うジュビロに対して前線の枚数を噛み合わせにいったため、そのまま3-4-3もしくは5-2-3のような陣形をとることがありました。

前半開始〜

前半の立ち上がり43秒でジュビロにファーストシュートが生まれます。早い段階でジュビロは自チームの狙いからフィニッシュにまで持っていけたという印象です。

ジュビロは上原選手がDFラインに落ちてビルドアップを助けることで、両SBに高い位置を取らせていました。それに伴い両SHは中にポジションをとり、中盤(図の黄色のエリア)に数的優位の状況を作り出していました。

中盤で作り出したフリーの選手に対してパスをいれて前をむかせる
フリーの選手が2列目から飛び出してDFラインの背後を狙う

ジュビロはこの2つを狙いとして前半は取り組んでいたように見受けられます。特に左サイドの大森選手はピッチの内側でプレーする回数が多く、エスパルスは大森選手のマークを掴み切れていませんでした。        

ファーストシュートのシーンでは、中盤でフリーになった松本選手が小川大貴選手へのパスコースを気にして前にでた六平選手の背後を取る形で抜け出し、クロスをあげたプレーが起点となっています。その後クロスのこぼれ球を回収し、最後は大森選手がシュートを打ちますが、この時の大森選手も中盤での数的優位によってフリーとなっています。

一方のエスパルスは、竹内選手がDFラインに近い位置でサポートをとり、もう1枚のボランチの中村選手が少し前にサポートを取る形で、両WBと合わせて菱形を形成していました。

ジュビロの2トップに対してボランチと3CBで数的優位を作ることによって、安定したビルドアップでジュビロ陣内までボールを運ぶことができていました。状況によってはジュビロのSHがエスパルスのハーフDFまでプレスに行くシーンがありましたが、この場面でも開いたWBがフリーになるため、エスパルスはビルドアップの段階では常に局面的な数的優位が作り出せていました。

攻め切れないエスパルス

エスパルスはビルドアップの段階では数的優位を作り、的確にボールを前進させることができていましたが、アタッキングサードからの崩しに課題があるように感じました。ジュビロは相手のビルドアップで1列目のプレスが剥がされた時に、2列目と最終ラインで4-4のブロックを敷いて対応していました。この段階で最終ラインはペナルティエリア付近の高さまで後退し、2列目もそれに応じてライン間のスペースを消していたため、エスパルスはブロックの外側でボールを回す時間が多く、結果的に自分たちのミスでボールを失う場面が多くありました。4バックに対して3トップを採用しているため、システムの噛み合わせとしてはポジション間に位置取りができる配置になっていますが、前線の3枚に背後への動き出しがないため、ライン間のスペースが狭く、ボールを通しても2列目のプレスバックを受ける形になっていました。特に34分の攻撃では、背後への動き出しがないことで、前向きでボールを奪われ、カウンターのピンチにつながっています。

相手の狙いを逆手にとるジュビロ

ジュビロの前半の戦いはまさに相手の狙いを逆手に取るものでした。ハイラインを敷いて前線3枚でプレスをかけるエスパルスに対して、必要に応じて大森選手がボランチのポジションをとり、山本選手と2人でビルドアップを助け、数的優位の状況である中盤まで上手くボールを運んでいました。エスパルスは内側でプレーする大森選手にWBの奥井選手がついていくのか、ボランチにマークを受け渡すのかがはっきりせず、前線で3枚がプレスをかけているものの、中盤でフリーの選手がいるため、連動したプレスができない状況になっていました。奥井選手はLSBの宮崎選手が高い位置をとっているため、そのまま大森選手にマークにつくと、サイドがフリーになりプレスを回避されてしまいます。一方でボランチの2人は、内側でプレーする両SHとボランチの山本選手の3人をケアする必要があり、フリーの選手が生まれてしまうという状況です。

守備においては、4-4-2に対して配置の優位性が高い3-4-3に上手く対応していました。SHの選手がハーフスペースにポジションをとるWGへの縦のパスコースをケアしながら、最終ラインとの距離感を適切に保つことで、アタッキングサードで中に縦パスが通るシーンを作らせていませんでした。これによってエスパルスは横パスの回数が増え、カウンターのチャンスが随所に見られました。先制点も前向きのボール奪取から背後に抜け出した小川航基選手にパスが通って最終的にはキーパーと1vs1の状況からゴールが生まれています。

ハイラインを敷いて前線でボールを奪いたい
DFラインから細かくパスをつないでボールを保持しながら前進したい

このエスパルスの2つの狙いを上手く逆手にとってジュビロはチャンスを作り出していました。

前半のポイント

前半を各チーム攻撃と守備の2局面から簡単に振り返ります。

ジュビロ磐田【攻撃】
中盤での数的優位を活かした背後へのボール供給
カウンターの質の高さ。特にハイラインを敷くエスパルスのDFラインに対する小川航基選手の動き出しは秀逸でした。

ジュビロ磐田【守備】
前線の噛み合わせをどのように解消するか
左右にボールを展開され、スライドが間に合わない時にSHのポジショニングがずれるとハーフスペース、サイドの広いスペースを狙われてしまう

清水エスパルス【攻撃】
数的優位を活かしたアタッキングサードまでの前進
アタッキングサードからのインテリジェンスの不足
DFラインの背後へのアクションの不足

清水エスパルス【守備】
中盤での数的不利をどのように解消するか
内側でプレーするSHを誰が捕まえるのか
プレスを剥がされた時のDFラインのアクションの不足。(簡単に背後を取れれるシーンが多い。)

後半開始〜

後半では各チームがどのように前半のポイントを修正してくるのか、戦い方にどのような変更を施すのかを中心に見ていきます。
※この段階でスコアは1-0でジュビロがリードしています。前半終了間際にエスパルスのファンソッコ選手が負傷交代し、エリック選手が途中出場しています。

修正の見られない守備

両チームともに後半開始直後のプレーでは守備に関する修正は見受けられませんでした。
エスパルスは51分に中盤でフリーになった大森選手に縦パスが通され、DFラインの背後へスルーパスを供給されています。
一方のジュビロも、56分に左右にボールを振られてスライドが間に合わずに生じたDFラインのポジション間の背後にボールが供給されています。

変化の時間帯

58分に小川航基選手がネトヴォルピ選手との接触による負傷で、山田選手と交代したことで、試合の流れに変化が生まれます。
前半と同様に中盤の数的優位を活かして攻撃を組み立てていたジュビロでしたが、中盤から背後へのパスコースとしてターゲットになっていた小川航基選手が交代し、足元でのプレー選択が多い山田選手が入ったことで、縦への速さは失われたもののボールを保持する時間が長くなりました

一方のエスパルスも、カウンターを受ける回数は減ったものの、ボールを保持される形となったため、5-4-1で自陣にブロックを形成します。前半に比べてボール保持率は下がりますが、自陣で守備をする人数が増えるので、守り自体は安定していました。しかし、前線の1トップの脇に大きなスペースがあるので、前半のジュビロのようなカウンターにはつながっていませんでした。

流れを変える得点

前半とは異なり、ジュビロがボールを保持する展開が続く中で試合展開が動きます。ジュビロは後半開始からプレスの開始位置を前半よりも前に設定していたため、ビルドアップに対するプレッシングでハーフDFまでSHがプレスをかけて前線を噛み合わせに行くシーンが多くなりました。それに伴い、SBは外にポジションをとるWBに対してプレスをかける準備をしていました。ここで前半と異なる動きを見せたのは中村選手です。前半は竹内選手がDFラインの近くでサポートを取る形で菱形を形成していましたが、ジュビロのプレッシングを見て、中盤のハーフスペースにポジショニングしてビルドアップを助ける動きを見せます。これによって、前方のハーフスペースにポジショニングするWGへの縦パスの供給回数が増えていきます

64分にこの流れからエスパルスはジュビロ陣内に押し込み、サイドのクロスから同点弾を決めます。ジュビロにリードされた状態でボールを保持されるという悪い流れを断ち切るゴールになりました。

攻めきれないジュビロ

トップの三木選手とルリーニャ選手が交代し、さらに後半に小川航基選手と交代した山田選手がトラブルで伊藤選手と交代して大森選手とポジションチェンジをしたことで、前半のジュビロとはスタイルが変わります。

前半のエスパルスと同じ現象がジュビロに起こり始めます。背後への抜け出しを頻繁に行っていた三木選手と小川航基選手が交代したことで、中盤での数的優位を活かしてボールを保持することはできるものの、アタッキングサードからの崩しに決定打がないままボールを回す展開となります。

幅を使い始めたエスパルス

攻めきれないジュビロに対してエスパルスは幅を使った攻撃でチャンスを増やしていきます。前半はビルドアップの段階でジュビロの前線に対して数的優位の状況だったため、簡単に1列目を剥がすことができていましたが、ブロックを敷く2列目以降を崩すことができませんでした。しかし後半に入り、ジュビロ磐田が前線の枚数を噛み合わせてプレスを強めてきたことによって、ビルドアップの段階でボールを左右に動かす必要が出てきました。一見難しい状況を強いられているように思いますが、ビルドアップの段階でボールを左右に動かすことによって、ジュビロはスライドを強いられることになり、1列目のプレスを剥がして前向きにボールを持てればポジション間にスペースが存在するという状況が多くなりました

試合を動かすカウンター

後半79分に試合が動きました。それまでブロックを敷かれて攻めきれない状況が続いていたジュビロがボールを失い、エスパルスにロングカウンターを受けます。このカウンターに応じて2列目、最終ラインも前進し縦へのスピードを上げましたが、センターサークル付近でボールロストし、逆にカウンターを受ける形となります。ジュビロは前進したエスパルスの背後にロングボールを供給し、逆サイドに展開したところからクロスをあげ、最後は伊藤選手がフリーでヘディングシュートを決めました。
結果的にジュビロは2点目もカウンターの流れから得点を奪う形となりました。

背後への飛び出し

終盤にリードを許したエスパルスは得点を奪いに行くために前線からのプレスを強めます。85分に足元のパスコースを消してロングボールをカット、中盤の竹内選手がSBの背後へ飛び出し、スルーパスを受けます。DFラインから中盤を経由して前線までボールを運ぶ過程において縦パス2本でシンプルに背後を狙ったシーンは少なく印象的でした。SBの背後をカバーしにポジションをでたCBの穴を埋めるために上原選手がカバーに入って空いたバイタルエリアに後藤選手が飛び込んでゴールを決めました。

ここで重要なのは、背後へのアクションとシンプルに縦を使って相手陣の深い位置をとったことです。ビルドアップのロングボールをカットされ、ショートカウンターを受ける形となったジュビロには、2列目の選手が戻る時間を作る必要がありました。しかし、竹内選手に深い位置で背後をとられたことで、速いスピードで攻撃が展開されます。カバーに行った選手のスペースは空いてしまうので、さらに隣の選手がカバーに入る必要がありますが、縦パス2本で深い位置をとったことで、エスパルスの2列目の選手は最終的にシュートを打たれるバイタルエリアまで戻る時間がありませんでした。

さらに90分にビルドアップから金子選手の背後への飛び出しによって追加点。3-2でエスパルスの勝利で試合を終えました。

試合総括

メンバー交代や得点の動きによって、試合展開が大きく動く魅力的な試合でした。お互いにスタイルを存分に出す中で、ピッチでプレー選択を行う選手が“その時その場所に誰がいるのか”をしっかりと意識していたように思います。特にジュビロは小川選手と山田選手の交代によって戦い方に変化が見られました。結果的にエスパルスに対してどちらの戦い方が有効だったかという話ではなく、選手のプレー選択の中にチームとしてのプレーモデルと、そこに付随する選手自身の能力、役割が共有されているということに魅力を感じました。
エスパルスとしては、前半の課題だった背後への動きだしという点が後半で改善され、それが結果的に得点につながったところを見ると、今後のシーズンでもさらにレベルの高いサッカーを構築する伸び代のあるチームだと感じました。
Jリーグの再会を楽しみにしています。


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