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護られなかった者たちへ

タイトル:護られなかった者たちへ
著者:中山七里
出版社:NHK出版

東日本大震災から4年後、宮城県警本部に保険事務所課長である三雲忠勝が古びた入居者のいないアパートで餓死しているのを発見された。
誰もが口をそろえてお人よしと話すほどの人物が、なぜ殺されなければいけなかったのか。三雲の部署は生活保護申請を行う部署であり、毎日絶えず申請を求めて貧困者が訪れる。
三雲を殺した犯人を捕まえるべく、笘篠刑事が調査中に見たのは、不正受給の問題に隠れて苦しむ護られない者たちの存在だった。
2人目の犠牲者である城之内と三雲の共通点を探していた笘篠は、8年間の服役を経て仮出所してきた利根勝久だった。笘篠は蓮田とともに利根の行方を追うも…。

生活保護の問題は、現在もたびたび話題となっており、現在の生活保護受給者は200万人を超えている。
不正受給だけでなく、本当に必要な人に行き渡らず、餓死してしまうといったニュースもよく聞く話だ。あまりにも悲惨な事件に、SNSでは事件があった場所の保険事務所をやり玉に挙げることも多いが、彼らは厚労省の指示通りに動いている公務員に過ぎない。

生活保護も予算の中で申請を通す必要が出てくるので、必要な人でもあの手この手の理由をつけて却下せざるを得ないというのが現状となっている。

本書では、10年以上も連絡がつかない弟がいるならその人と連絡をとって養ってもらえ、通帳の中身が入ってなくてもどこかにあるだろうから何とかしろ、足が不自由でもなんとかして仕事を探せばできるだろうなど、理不尽と悪魔の証明を駆使して却下しているのが現状。
不正受給で生活保護を受け取っている者たちは、あの手この手で法の穴をかいくぐっている。

書類自体も記入欄が信じられないほど細かく、本当にどうにもならずに申請に来た、高齢者にとっては書き損じはNGだなんて言うのはあまりにも酷と言える。この高齢者は人様のお金で生活をさせてもらうなんて申し訳ないというような考えを持つ、大変謙虚でつつましく我慢強い人たちだ。

一方で、保険事務所の三雲たちをぶん殴って8年も服役していた利根は、刑務所の中で『税金で』三食食べて布団の中で8年間暮らしていた。
日本の法を犯しているはずの、殺人犯でも強姦魔でも、窃盗でも放火でも全て等しく刑務所の中の者は税金の恩恵を受けている。

一体、この違いは何なのだろうか。生活保護も刑務所も、どちらも税金なのだ。本書を読んで、私は本格的に法の下の平等とは一体どういうことなのかがわからなくなった。
本当に悪いのはどこなのかは明らかなのだが、あまりにも存在が大きすぎる。

話の最後では、笘篠は利根とともに、利根が住んでいた塩釜の某所に訪れる。そこは、貧しい生活保護世帯が集まる地域だった。
法を犯したものを逮捕する笘篠刑事も、生活保護を申請手続きを却下、受理する三雲も、税金で食べて税金の中で仕事をしていることは共通している。
どの仕事も、最後にOKを出すのは先入観にまみれた人間であることも、話の中で織り込んである。

映画も良いと言われるこの作品、中山氏お得の大どんでん返しも最後の最期で健在。最近は単行本にもなっているので、購入もしやすいかもしれません。

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