消費税輸出戻し税のパラドックス

この記事はあくまでも「あり得ない想定」を置いた上での「頭の体操」です。実際の消費税は常に公平公正であり、輸出戻し税による不当な利益なんてあるはずがない、とみなさんおっしゃっているのできっとそうに違いありません。ですよね?

①国内も輸出先も消費税0%

まず、初期状態としてこのような状態を置きます。企業Aが製造した原料を企業Bが加工し、企業Cが国内向けと海外向けに販売しています。消費税はどちらの国も0%です。何という平和な世界。

(国内)
   A→B→C
価格 100 150 200←市場価格
利益 100 50 50
(輸出)
   A→B→C
価格 100 150 200←市場価格
利益 100 50 50

②国内のみ消費税25% 全額転嫁

次に、国内のみ消費税25%を導入します。また、企業は消費増税分を全額価格に転嫁できるものとします。これは、消費税制度が本来想定している姿です。この場合、消費税を負担するのは消費者であり、企業の利益はそのまま維持されます。戻し税も見事に機能していることに注目してください。消費者への負担は大きいですが、一応公正な制度になっているように見えます。

(国内)
   A→B→C
価格 100 150 200←市場価格
税込 125 187.5 250
税額 25 12.5 12.5
利益 100 50 50←利益は①と変わらず
(輸出)
   A→B→C
価格 100 150 200←市場価格
税込 125 187.5 200
税額 25 12.5 -37.5←これが「戻し税」
利益 100 50 50←利益は①と変わらず

③国内のみ消費税25% 全額転嫁できず

ここからが本番です。消費増税分を全く転嫁できない場合を想定してみましょう。3つの前提を置きます。前提1と前提2の元では、消費増税分は全く転嫁できなくなります。前提3は前提2と表裏一体です。

前提1 全ての取引は市場価格で決まる
前提2 消費増税は市場価格に影響しない(※1)
前提3 戻し税は市場価格に影響しない(※2)

※1 すなわち、消費増税による供給曲線の上シフトが起こらないという想定です。これ自体はあり得ない想定ですが、仮に供給曲線の上シフトが起こったとしても、市場価格に消費増税分が完全に転嫁されることはありません。完全に転嫁されるのは需要曲線が垂直であったか、供給曲線が水平であった場合だけですが、これもまたあり得ない想定です。なので、実際にはこの両極端の中間になります。
※2 こちらは供給曲線の下シフトが起こらないという想定です。

このような前提を置いた場合、市場価格が維持されるために、国内では企業の利益が均等に減ることになります。一方で、輸出では企業ABの利益が減り企業Cの利益が増えるということが起こります。

(国内)
   A→B→C
価格 80 120 160
税込 100 150 200←市場価格
税額 20 10 10
利益 80 40 40
増減 -20 -10 -10←利益が均等に減っている
(輸出)
   A→B→C
価格 80 120 200
税込 100 150 200←市場価格
税額 20 10 -30←輸出戻し税
利益 80 40 80
増減 -20 -10 +30←企業ABの利益が減り、企業Cの利益が増えている

なお、このケースにおいても、消費税および輸出戻し税の計算は極めて公正であり、どこにも矛盾は見つかりません。にもかかわらず、企業Cだけが消費増税前後で利益を増やしているのです。これはあくまでも市場価格に従った結果であり、下請け企業への値下げの強要などを必要としません。

問い

さて、ここで考えた②の想定も③の想定もどちらもあり得ないものです。そして現実社会は②と③の中間に位置するはずです。それでは、現実社会においてはどのようなことが起こっていると予測できるでしょうか? ぜひ考えてみてください。

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