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リモート化に消極的なニュース情報番組の“感度” って、どうなの?


家からテレビ局まではるばる外出してきた出演者たちが、「外出を控えよう」と視聴者に呼びかける。この奇妙な光景に、今変化が進行中だ。
こういう移行期には、番組ごとの“感度”の差が見えてくる。


モーニングクロスのチャレンジに、エールを!

今朝から、TOKYOMXテレビのニュース情報番組『モーニングクロス』が、とうとうコメンテーター全員リモート出演に切り替えた。
今後当分は、リモートが使えない等でスタジオを希望するゲストさんを除いては、在宅出演を原則にするという。

スタジオには、堀さん&宮瀬さんのMC 2人がぽつんと座っているだけ。生中継にお金をかけにくい、決して予算潤沢とは言えないであろう番組(失礼!)が、一般企業がリモート会議などで使用するのとおそらく同等のツールでこのチャレンジに踏み切ったことに、私はテレビの前で拍手した。

初の試みで、音質が悪かったり途中で一瞬ゲストの音声が途切れたりといった不具合はあったが、トーク内容のクオリティに影響はなかったし(そこが肝心!)、不具合もまたリアリティーだ。明日以降の放送で、そうした課題を徐々に改善していく試行錯誤のプロセスまで、そのまま見せてしまえばいい。
リモート会議などがなかなか円滑にできず、やっぱり我が社にはこの方法は無理なんじゃないか…と頭を悩ませているたくさんの企業にとって、それは改善努力の同時進行型お手本になるかもしれないではないか。

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頑張れ 田崎さん、玉川さん! だけど、なぜスタジオに…?

対照的に、いまだにスタジオにやたら人が並んでいるのが、テレビ朝日『モーニングショー』だ。今朝も、コメンテーターやゲストのリモート出演は一部だけで、MCもレギュラー出演者も解説者も、間隔こそ開けているものの、わざわざ外出のリスクを犯して六本木のスタジオに参集していた。
一体なぜなんだろう???

放送の内容的には、私は今のところコロナ報道に関しては、この番組が好きだ。我が白鴎大学の岡田晴恵教授の解説も丁寧だし、何よりいいのは、政治ジャーナリストの田崎史郎さんが生出演して、政府側の考えをたっぷり解説してくれるところ。
しょっちゅう炎上はしているけれど、その考えが是か非か、妥当か否かにかかわらず、とにかく《政府が何を考えてこういう政策判断をしているのか》の一端を代弁して、考える材料を提供してくれる人が存在しているのは、率直に評価できる。

そして、レギュラー・コメンテーターである玉川徹さんが、その田崎さんの解説に対して全く遠慮なく突っ込んでいくところも、素晴らしい。
田崎さんは他局の番組にも出演しているけれど、ここまで共演者がしっかり疑問をぶつけている所は、他にない。せっかく生で対話しているのだからもっと斬り込めばいいのに、と歯痒くなる番組がほとんどだ。

どうか田崎さんには、どんなに突っ込まれても、めげずにモーニングショーに出演し続けていただきたい
もちろん番組サイドとしては、こうして激論が展開すればするほど視聴率的にも旨みがあるだろうし、政府筋から水面下で内容面のクレームをつけられても「ちゃんと田崎さんを出してますよ」と弁明できるのは大きな防火壁になっているはずだ。だから、番組側から田崎さんへの出演依頼を止める事は考えにくい。田崎さんご自身が、応援団の後押しを上回る逆風に嫌気がさしませんように!と願うばかりだ。

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… で は あ る の だ が 、《この議論が、同じスタジオ空間にいなければ成立しないのか》と考えたら、25年にわたる報道系生番組出演体験に照らして、「これはリモートでも成立する」と私は強く思う。

もちろん、対面に比べて熱量は上げにくいだろうし、目配せやカンペなども使えないから進行が若干ぎくしゃくする事はあるだろう。羽鳥MCには、今以上の力量が求められることになる。画質や音質も、今までの地上波クオリティーにこだわるならば、落とすことに抵抗はあるだろう。

しかし、それらの難点は回数を重ねていけば、慣れと工夫によってかなり改善できていくはずだ。もちろん今と同等のクオリティーまでは望めなくても、トークの質を維持する事は、できるはずだ。(モーニングクロスが、明日以降それを示してくれるに違いない。)

品質にこだわるあまり、大勢が居並んだスタジオで「外出は8割減らしましょう」と呼びかけ続けている滑稽さに、早く番組は気づいて欲しい。あの巨大なフリップは視覚的にわかりやすくて意味があるから、あれをめくるために羽鳥MCやアナウンサーなど1〜2人がスタジオにいれば、それで充分だ。

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報道人は“自分ゴト化”が苦手。それには、わけがある。


視聴者に向かって呼びかけている事を、自分たちが実行できていないーーーという、報道番組出演者のこの他人事感覚。
私自身がその世界にずっといて身に覚えがあるから言うが、実はこれは、プロ意識の副作用なのかもしれない。

私も、青二才の報道アナとして現場を駆け回っていた頃、先輩によく言われた。「記者たるもの、取材している出来事に自分を没入させず、常に一歩引いて客観視していなければだめだ。」
プロとして日々これを自分に言い聞かせながら仕事をしていると、目の前の出来事をなるべく自分ゴト化しないようにしよう、という心理が作動してしまうのだ。

だから今、外出自粛を呼びかける彼らを言行不一致だと責めるよりは、「普段はそういう態度でいてくれる方が良いけれど、今は心構えを変えませんか」と説く方が、説得力はあるかもしれない。「社会の一員意識が薄い!」などと視聴者サイドから叩いても、おそらく内心「俺たちの仕事には使命があるんだ!」と反発するだけだろうから。

その通り、使命はある。でも、テレビ報道関係者の皆さん。今は、「その使命を遂行するためにこの外出は絶対に必要か」と検討してみる視点を、1回1回持ってもらえませんか。


一律ではなく、《いろんな形》を試していこう。

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第3のパターンは、フジテレビの『とくダネ!』
先ほどモーニングショーのところで私は「MCがスタジオにいれば充分」と言ったが、この番組はなんと昨日から、当のMCの小倉さんが、自宅からリモートで進行を担っている。

この記事の一番上のタイトル画像の右半分は、同番組にかつて出演していた笠井信輔さんの今日のブログからお借りしたものだが、本当にご自宅の小倉さんとスタジオの古市さんが同じ場に並んでいるように錯覚してしまうほど、違和感がない。

このチャレンジには、脱帽だ。私の硬い頭では、 MCまでがスタジオにいない番組と言うのは、想像が及ばなかった。見事だと思う。
この先さらに習熟していったら、ついにはスタジオ不要のニュース情報番組が実現してしまうのかもしれない。

このコロナ禍は、本当に不幸な出来事だ。だが、こうして今までの常識をやむを得ず捨てさせられることで、何かがポスト・コロナ社会に生まれ出ずる可能性を、私たちは諦めてはいけないのだろう。

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