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生活に寄り添ってくれた音楽たち/あの日は真夏日じゃなかったけれど

2年くらい前、僕は今より人生に対する絶望感がかなり強かった。仕事をするにも毎日不安に駆られながら「この仕事向いてないよ」と毎日心の中で呟いていた。どうにか一日無事に終わったと安堵しては、帰宅してからどっと疲れてしまうような日々が続いていた。当時同じ職場に居た先輩にキツイことを言われて涙を堪えるのに必死になった日もあった。この仕事を定年まで続けていく自信がない。漠然とそんなことを思いながらもどうにか毎日出勤していた。

ロックバンドの『くるり』を一番長い時間聴いていたのはこの時期だった。精神安定剤に頼るように四六時中、とにかく聴き続けていた。
仕事も恋愛も何も上手くいかないな。そんなぶつけようのない悶々とする気持ちを抱えながら生活している中で、休みの日にくるりを聴きながら散歩をするのがマイブームだった。その時だけは気持ちが落ち着いたし何より心地良かった。

くるりが主催する音楽イベント「京都音楽博覧会」に初めて参加した。それまで2年間はコロナ禍のためオンラインでの開催だったが2022年にようやく野外での開催が実現した。
その日は1日中雨が降り続け、初めての参加だったので不安もありつつも手探りで楽しんでいた。くるりの出番が近づくと、僕はステージ近くのスタンディングエリアまで移動した。空はすっかり暗くなり、周りはレインコートやポンチョを着た人たちが、肌寒さを耐えるようにステージを見上げていた。
一曲目はしっとりとした静かなイントロからスタート。「次の真夏の話さ」と岸田さんが歌い始めた刹那、僕は下を向いて静かに号泣してしまった。そこからはあっという間だった。

いつだっか、母に「夏の匂いって何を連想する?」と聞かれたことがある。音とかなら蝉の声とか風鈴とか色々あるけど、匂いだと海の潮風の香りとか飲み物か食べ物に限定されるなぁと思ったので、僕は「サイダーかな…」と答えた。母が何と答えたのかはもう忘れてしまった。

「好きだな 夏の香り」と歌う岸田さんは何を思い浮かべたのだろう。誰もが季節の好きな香りを感じながら健やかな日々を過ごしていってほしいなと思う。

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