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そしてどの木もいなくなった….(エキセントリックなご近所さんの話)

変なタイトルですが、アガサクリスティの小説「そして誰もいなくなった」にかけてみました。

彼女の小説のようにハラハラドキドキする話ではありませんが。

もう引っ越してしまいましたが、我が家の斜向かいにかなりエキセントリックな性格の女性が住んでいました。ここでは仮にカレンさんと呼んでおくことにします。

いや、エキセントリックなだけではなく意地悪で詮索好きで、暇さえあれば歩道に面した窓からオペラグラスで外を監視していました。 というより、それが本業で暇な時間に家事などをやっていた…と言った方が正しいかもしれません。

監視するのは歩道を歩く人々や、彼女の家のお向かいさん宅、お向かいさんの隣の家、斜向かいの家(我が家)、我が家のお隣さんなど。

アメリカには緊急を伴わない苦情専用の電話番号 311 があるのですが、その番号に通報するのが趣味だったようです。 我が家から2件先のお隣さんが賃貸住宅だった時、伐木された木が薪状態になって前庭に並べたあった事があったのですが, それを見たカレンさんが「借主が勝手に伐木した」と大家さんに通報してしまった事があります。実は大家さんが業者に頼んで伐木したのですが。

また、近所の放し飼いの猫が彼女の家の敷地に入って来るのをひどく嫌い、裏庭に「猫罠」を仕掛け、「罠にかかった猫は311に通報して連れて行ってもらう」と近所の人達に公言していました。

15年ほど前のある日の事。 カレンさんは「テキサスの自然を取り戻そう!私たちが住む住宅地を緑豊かにしましょう」という自分勝手な大義名分を掲げて、歩道に面した我が家の庭と、我が家の両隣の庭にテキサスマウンテンローレルという植物の苗木を植えてしまったのです。

この植物はテキサス人から愛され、気候に合っているので水やりをする必要もない上、春には美しい大ぶりな豪華な花を咲かせます。

彼女から勝手に苗木を植えられてしまった3軒の家は、いきなりテキサスマウンテンローレルの木を育てる事になってしまいました。 しかし、カレンさんとは揉めたくないし、美しい花を咲かせる木だし、我ら3軒は彼女の傍若無尽な行いを甘受するすることにしました。

さて時は経ち、3軒の家のテキサスマウンテンローレルはスクスクと育ち、かなりの大木になり、毎年美しい花を咲かせるようになりました。カレンさんはさぞ満足だった事でしょう。

しかしながら、その後も傍若無尽で「自分勝手な善意の活動」を続けていたのでカレンさんは近所の人たちからどんどん嫌われ、孤立するようになってしまい、7年ほど前に他州に引っ越してしまいました。

2019年の夏の事です。 私が我が家の前庭の中央あたりでしゃがんで黙々と雑草取りをしていたら、爆音のような音に続きバリバリという轟音が聞こえたので振り向きました。

どこぞの車が猛スピードで我が家の庭に突っ込み、郵便受けをなぎ倒した瞬間でした。郵便受けはかなり頑丈に出来ているタイプの物でしたが、まるで細い針金のように支柱がぐにゃりと折れました。その後車はテキサスマウンテンローレルの木に激突しさらにバリバリと木をなぎ倒し暴走を続け、隣家との境界あたりでやっと止まりました。


その恐怖の瞬間を目撃した私は、全身の血の気が引き気絶しそうになりました。もし私が木の下あたりで草むしりをしていたら? そう想像して再度倒れそうになりました。

スマホを見ながらのながら運転が原因でした。

我が家のマウンテンロールはその日に消滅しました。

それから3年が経った2022年の10月。 我が家の左隣の旦那さんがテキサスマウンテンローレルの木を斧で切っているのを目撃しました。少し驚いたのですが、事情を知りたかったので、「精が出ますね」と声をかけたら「2月の寒波で半分枯れてしまったので伐木する事にしました」と。

左隣のマウンテンローレルも消滅しました。

そして。 右隣のお隣さんのマウンテンローレルも消滅していました。 右隣のお隣さんの木は健康そうだったのですが、芝刈り作業に邪魔になるからでしょうか。

「そしてどの木もいなくなった…」

風の便りによると、カレンさんの旦那様は去年亡くなったそうです。 物静かで穏やかで、ホカッチャを焼くのが上手な方でした。 何度かいただいて食べた事があります。

もしかするとカレンさんも….と不吉な事を考えてしまいましたが、お元気に暮らしていてほしいものです。

写真の手前に写っている花が、在りし日の我が家のテキサスマウンテンローレルの花です。写真の奥に見えるのは左隣の家のテキサスマウンテンローレルの木です。 今は両方消滅しました….。

諸行無常也。

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