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もし妊娠した時に『責任はとる』って言われたらどう思う?

なんとなく高校時代の思い出話を一通り話したが、明美と優和が絶交した時以降のことについては一切触れなかった。
正人と優和のことにも話は及ばなかった。
それは意識してそうなったわけではない。
自然とそれ以外の話題で夢中になっただけとも言えた。


明美はただ懐かしさに想いを馳せていた。
明美はやっぱり優和が好きだった。
明美はずっと自分のことをイジメようとした優和を信じたくなかった。
そしてそれでいいと確信した。
いま目の前にいる優和が優和なのだ。
すごく話心地が良かった。
優和はいつもそうだった。
話を聞くのが誰よりも上手で、話も誰よりも分かりやすく話してくれた。
時折、不安そうに見える姿が気になったが、それは子どもを気遣う母親っぽさがそうさせているのかもしれない。
母親らしい温厚さが一層優和の魅力を引き立てているように見えた。


明美は自分の危なっかしさを自覚していた。
他人からは、よく抜けている割には警戒心が強いと言われるが、明美からしたら、抜けているからこそ、人一倍気を付けているといってもよかった。
それでも、人が良すぎるところがあって、度々嘘でも信じてしまうことがあった。
真面目な性格もあって、その度に反省はしたが、それでもまた嘘を信じてしまっていた。
だから明美からしたら、物事を常に冷静に捉えられる優和が頼りがいがあって、尊敬していた。
母親になってその頼もしさがより厚みを増しているように感じた。




明美は自然と自分の不安を打ち明けたくなっていた。




「もし妊娠した時に『責任はとる』って言われたらどう思う?」




この質問こそ、優和に聞きたいことだった。
明美にとって、正人が優和と浮気をしていないということが全てだったが、なぜ正人がそんな言動をするのか理解できなかった。
正人自身に直接聞けばよかったが、なんとなく軽率に聞けるような話じゃないような気がしていた。
この問題は優和なら応えられる質問だと思っていた。
明美は前向きに正人との将来を考えたかったのだった。



優和は、勇がジュースを飲み干し、ストローの袋で遊びだしたことに気を取られているように見えた。
でも確かに明美の質問は耳に入っていた。
勇が完全に自分の世界に入っていることを確かめ、大人の話に全く興味を持っていないことを確認すると、改めて明美を見た。
明美の手を取り、握った。




「心配しなくても大丈夫。正人は父親になることを恐れているだけだから」




優和はそれ以上聞いてほしくないとでも言うように明美を説得するように微笑んだ。



「このカフェの雰囲気も好きだけど、今度もしよければ明美のお家にお邪魔してもいい? 本当は家に招待したいところなんだけど、家が狭すぎて、家だとゆっくりできないから」




それは、次に会う時にこの話をしようという誘いに聞こえた。
子どもがいる前だと話せない話なのだろうか。
明美は優和の言葉からただならぬ意図を悟った。


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