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やりたいことの『本質』と、挫折しないための『選択肢』の話


 これは、「自身が人生の中でやり遂げたいことの本質と、仕事の関係性」についての話です。

 何となく生きていくには残された時間があまりにも長い人生の中で、どうやって「やりたいこと」を見つければいいのか、その方法をちょっとした物語形式で紹介してみたいと思います。

受験を控えた将来に悩む2人の高校生の男の子が登場します。

少し物語形式で助長に感じるかもしれませんが、そっちの方が読み終わった時に感情的な納得感があると思うので、あえて物語にしています。

 時間があるときに気楽に読んでいってください。



 まず、設定ですが、あなたは高校三年生の男の子です。(女の子でも問題ありませんが、一応男の子の設定で会話等は進めていきます)

 クラスには仲の良い友人、友樹君がいます。
 彼はとても温和な性格をしていて、昔誰にも言えなかった悩みをカウンセラーの先生に相談して心が軽くなったことをきっかけに『公認心理士になりたい』という夢を持っています。

 彼は文系で、本を読むことがとても好きです。
 趣味は読書と絵を描くこと。猫を飼っています。人と話すことは得意ではないけれど、特段問題がある訳ではないという感じです。

(心を開いた人には普通に話しますが、初対面は少し苦手です)

 服装も派手なものというよりは、穏やかな色や柄のものが多いです。

 髪はスポーツマンのような短髪ではなく、かといって校則に引っ掛かるような長髪でもない、普通の髪型。

 あなたと友樹君は、たまに休日に一緒に出掛けて本屋を散策したり、公園で軽く遊ぶような仲です。そこで将来の話になりました。

 そろそろ受験が迫っていて、いつも通っていた紀伊國屋書店で参考書のコーナーに寄り、そこで進路についての話をします。




——いつも通っている紀伊國屋書店にて




「友樹ー。大学、どこ受ける?」

 物理の参考書を手に取ってぱらぱらと捲りながらあなたは友樹君に話しかけました。

 隣の文系科目の参考書が陳列してある棚で世界史の参考書を散策していた友樹君は、本をぺらぺらと捲りながら返事をします。

「うーん、なるべく地元を離れたいから、関東の方にある国公立ならどこでもって感じかな。私立じゃなきゃ学費もそこまで高くないから、一人暮らしもさせて貰えるみたい」

「そーかぁ。俺どうしようかな」

「どこで悩んでるの?」

「俺はやりたいことがないんだよ。だから、大学も学部も決められない」

「そうか。でも、理系ってだけで就職とか安全なイメージあるけどな。何が悩みなの?」

 目の前にある化学や生物、物理の参考書を眺めてみます。大学生になって、社会人になって、自分は将来何をしたいのでしょうか。

 皆目見当が付きません。勉強をしなければいけないということは分かっていますが、目的意識が薄いため、あまり意欲が湧きません。

 進学、就職、結婚、趣味……自分は何を選べばいいのでしょうか。

「やりたいことがないんだよ。このまま流されるように生きていていいのかなってたまに不安になる。漠然と生きていってもいいと思うし、そうやって生きていけないかと言えば不可能ではないと思う。でも、ぼーっと生きていくには人生余ってる時間が多すぎると思う」

「確かにね。え、じゃあさ、今あえて選ぶとしたらどことかあるの?」

「地元にある大学に進んで地元の企業に就職するか、あえて県外に出てみるかぐらいしか考えてないよ。みんな、何が楽しくって学校行って勉強してんだろうな」

「まぁ確かに。世間的に義務とされてるけど、学校でやる勉強なんて結局どこに使うのか分からない物ばっかりだしね」

「ずっと中学生ぐらいから『君のやりたいことは何だ』『将来の夢は何だ』って迫られるけど、本当に何もない。あえて俺がやらなきゃいけないことなんて、何もない気がするし。俺じゃなきゃいけない仕事なんて、一つも無いような気がする」

「うーん。難しいところだよね」

 少し、友樹君が言葉を濁しています。

 彼は、中学生の頃からずっと、『心理カウンセラーになりたい』という夢を持っていました。そして、最近は国家資格として『公認心理士』というものが出てきて、今はそれを目指しているようです。

 まずいかな、とは思いつつ、あなたは彼にこんなことを言います。

「こんなこと言っちゃいけないかもしれないけれど、俺は友樹が羨ましいよ。やりたいことがずっとあってさ」

「そうかな」

「そうだよ。やりたいことを見つけられる人なんて、そうそういないぜ。立派な夢じゃないか。『公認心理士になって多くの人を救いたい』なんて」

 彼が少し表情を濁しました。手に取っていた本をもとの位置に戻し、少しどことなく目線を泳がせて何やら言おうとしています。

「どうかしたの?」

「僕も公認心理士についていろいろと調べたんだけれど、最近凄く不安なんだ」

「え、どうして?」

「公認心理士になるには、とても時間と労力がいるんだよ」

「国家資格だよね? そりゃあそうだ」

「そうなんだよ。それは尊いことなのかもしれないけれど、そこが不安なんだ。たくさんの時間と労力をかけて目指したら、もう後には引けない気がする。そこで十年くらい経って『やっぱりこの職業は自分に向いていなかったかも』ってなるのは、嫌だなって思って」

「あぁ、確かに。『やってみなきゃ分かんないだろ』って言ってその悩みを一蹴することは簡単だけど、本人からしたら一回しかない人生それでいいわけないよな」

「そうなんだよ。今受験というタイムリミット付きで決断を迫られて、凄く今動揺してる」

「そっか、そんな悩みがあったのか。俺はずっと友樹のこと強い奴だと思ってたけど、そういう弱い部分もあるんだな。あ、ダサいって言ってるんじゃないよ。そんなこと言ったら俺はどうかしちまいそうだ」

「悪口で言ってるんじゃないことぐらい分かるよ」

 友樹君は本棚を眺めながらふふっと笑いました。

「公認心理士になるには何をしなくちゃいけないの?」

 彼は付いてきな、という合図をして少し離れたところにある資格試験の参考書のコーナーへ向かいました。そして、棚の中から『公認心理士になるために』という書籍をとって、それを開きながら説明を始めました。

「まず、公認心理士になるためには、大学で心理学を学べる学部に進学して、指定の科目を履修する必要があるんだ。それで大学院まで六年間勉強して、その後国家試験を受ける必要がある。そうして六年以上もの長い時間をかけて合格出来たらやっと病院で研修が始まる。その後ようやくカウンセリングができるんだ」

「うわ、大変だな。俺は大学がどうのこうの言ってんのに、大学院まで行かなきゃいけないのか。凄くまっとうな道な気もするけど、大変そうだな」

「そうなんだよ。確かに、真っ当な道であることは確かだし、公認心理士自体は素晴らしい職業だと思うんだけれど、カウンセラーになって一日に対応できる人数には限りがあるし、年収も現状そんなに多くはない。見てくれよ、平均年収がそれほど高くないんだ。裕福な生活はできない。別にそれほど物欲があるわけじゃないけど、現状何かお金が必要になる場面があったときに、何もできなくなる。それに、精神疾患の治療に携わる人は、患者さんの負のオーラに毎日接しなきゃいけないから、その憂鬱なオーラに飲み込まれてしまう人もいるんだ。だから、本当にこの道でいいのかなって凄く悩んでる」

「なるほど。友樹にもそんな悩みがあったのか」

 ずっと目指しているものがある彼を見て、少し嫉妬心を抱いていたあなたでしたが、初めて友樹君の悩みを聞いて、少し驚いてしまいました。

 彼がまた話し始めます。

「何か具体的に追うべきものがあると、楽だと思う。どこかしらに向かって進んでいるという感覚さえあれば、とりあえず自分が前に進んでいるから落ち着くことが出来る。でもそれって、実は危険なことなんじゃないかなって思うんだ」

「というと?」

「ゲーテが言ったんだ。『人生とは速度ではなく方向である』って。どこか具体的な名前の付いた目標を見つけてそれに向かって進んでいれば安心できるけれど、それは凄く危険なことだと思うんだ。地図とコンパスを手に足元を踏み固めて歩くことは安全だけれど、肝心な目指すべき目標がどこにあるのか忘れてしまう。本当に辿り着くべき目標は空に浮かんでいるかもしれないのに。僕達は空を見上げるような余裕がない。息が詰まりそうだよ。それに、人生の方向を定めるにはある程度の試行錯誤が必要だと思うんだ。やってみなきゃ分からないというか。でも、僕達は体験よりも先に決断を迫られる。だから、もどかしいよ」

 彼は切なそうに棚に並んでいる本を順番に眺めていきます。

「僕らに分かる世界は凄く狭いからさ。安易に時間がかかる道に進むことを決めてしまうと、これで自分の一生が決まる気がして怖いんだよ。何かたくさんの仕事とか業界について知れる機会があるならいいけれど、そんなものないし。気が付いたら迷っている暇なく、僕ら高校生は勉強しないと受験に間に合わなくなってしまう。一度引かれたレールに乗ってしまったら、後は振り落とされたら人生終わりな気がして怖いよ。僕が小心者なのかもしれないけれど、実際これは大変な決断な気がする」

「確かに」

「僕はカウンセラーの先生にお世話になって回復した経緯はあるけれど、好きな作家さんの言葉やアーティストの言葉で励まされたりもしているんだ。さっきのゲーテの言葉もそうさ。彼らが何万人もの人に影響を与えているのを見ていると、『僕もこうなりたいな』ってたまに思うんだ」

「カウンセラーじゃなくて、アーティストになるっていうこと?」

「何万人もの人を前にステージで歌を歌うとかはできないかもしれないけれど、良い小説が書けたら、もしかしたらカウンセラーとして働くより多くの人を救えるかもしれない」

「確かに。友樹ずっと本読んでるもんな。作家とか向いてるかも」

「でも、本をたくさん読んでいることと、良い文章を書けるかどうかは全く別物なんだ。意外と作家が読んでる本の量は、本の虫に比べて少なかったりする」

「そうなんだ」

「それに、作家で食えなかったときに、安全策が無かったらとんでもないことになるだろ?」

「確かに。一生バイト生活になるかもしれないしな」

「仮にやりたいことがあったって、一体どれが自分に向いているかを試せる時間なんて、全くないから。困る」

「俺も何か体系的に世の中にある仕事とか全部少しずつ体験できるものとかが事前にあったらもう少し悩みも解決するのかもしれないと思うよ。俺も何か『これがやりたい!』というものを見つけられるかもしれない」

「あればいいのにね。大人になったらそう簡単に自分が進む道を大きく変えるなんてできないからね。勝算があるなら別だけれど。転職とかギャンブルみたいなものだってどこかで聞いた。合うかどうかはやってみないと分からないって。だから今この時期の選択が一番重要なものだと思うんだよね。でも、今の自分に自身が進む道に対して素養があるのかなんて分かりっこない。何だか安易に自分の道を決めている気がして、怖いんだ」

「そうだよなー」

「でも、現状カウンセラーになる以外の道は何があるか分からないから、どうにもできない。だから、とりあえず今は大学へ向けて頑張ってる。もちろん大学に入ってからもいろいろ挑戦できるんだろうけど、何だかもやもやするんだよね」

「確かに。俺もずっともやもやする。それに、カウンセラーの仕事って大変そうだよな。俺は実際に働いてるわけじゃないからどういうものなのか良く分からないけど」

「僕もカウンセリングを受ける側としてしか関わってないから、実際に働くのがどういうものなのかは分からない。それに、もともと自分がメンタルを病んでしまったからカウンセラーの先生にお世話になったわけで、実際に毎日のようにカウンセリングしてたら自分は飲み込まれてしまうんじゃないかなって思うんだ。他にやれることがあればいいんだけど」

「うーん、難しいなぁー。でも、友樹はやっぱり『傷ついた人の心の傷を癒したい』ってのが一番働くうえで重要なんだろ?」

「そうだね。だから、他に何かできることはないのか、埋もれてる可能性があるんじゃないかって、思ってる」

 目の前に広がっているあらゆる資格試験の参考書や、大学の過去問を眺めながら、目の前に広がっている選択肢が自身の進む道を塞ぐ要塞みたいに見えてきます。

 与えられた選択肢によって、自身が前に進めなくなっている——そういう恐怖感があなたを襲います。

「実際に、道を決める前に事前に自分に見込みがあるのか教えてくれるものが欲しいよ」

 友樹君が悲痛な声で囁きました。





 ——どうでしょうか。

 あなたはこの話を読んでみて、どう感じますか?


 友樹君が「カウンセラーになりたい」という夢をあなたに向かって語ったときに、「素晴らしい決断だ! 今すぐに勉強を始めたほうがいい」と思うでしょうか。


 私は、時期尚早な判断だと思います。
(と言っても、現状の社会の仕組みではそうせざるを得ないのですが……)

 もちろん、高校生の内は進路を決めなければならず、受験というタイムリミットがあるので、一番良さそうな選択を見つけたなら直ぐに走り出すべきです。しかし、本当に「心理カウンセラーになること」だけが、彼が取れる選択肢でしょうか?

 そして、友樹君は自身の人生をかけてやりたいことの本質が、『傷ついた人の心を癒したい』というものだと言いました。

 そうすると、いきなり心理カウンセラーを目指し始めるのは、時期尚早な決断だと思います。

 そのやりたいことの本質を突いた、彼(これを読んでくれているあなたや、世間の人々全員それぞれ)に合った仕事、やり方は他にいくらでもあると思うのです。

 人には、向き不向きがあります。
 やっていて楽しいものもあれば、そうでないものもあります。

 友樹君が言うように、作家になって人を励ますような物語を書いてもいいし、別の全く関係のない分野で有名になって、自分が励まされた曲や文章、考え方を発信することだってできる。

——もちろん、カウンセラーになることも立派な一つの選択肢。

 ただ、同じ目標を目指していても、切り口によって仕事の満足度は大きく変わってしまうかもしれない。別のやり方の方がもっと大きな成果が出せたり、過程そのものを楽しめるようなやり方があったかもしれない。


 しかし、現状大半の人達がこういった「人生で決断を迫られる時期」に、十分な判断材料なしに、半ばノリと勢いだけで決めた道で歩まざるを得ない環境に身を置かれていると思います。

 私は、これは凄くもったいないことだと思います。

 見えている世界が狭ければ、持っている経験の数が少なければ、そういった判断材料が乏しいまま人生の大半の時間をもっと工夫すれば輝けたかもしれない才能を潰してしまったまま悶々と生きているということが起きてしまうかもしれません。

 自分の中に燻っている才能を押し殺して生き続けるのは、もったいない。


 坂本龍馬の言葉に、「道は一つということはない。道は百も千も万もある」というものがあります。

——本質が見えてさえすれば、やり方はいくらでもあるのです。


 私達はこれまで、通り一辺倒な道しか見えてきませんでした。

 皆が行っているから学校へ行って、大学へ進学して、就職して、結婚して、子供を育てて、老後を穏やかに過ごして、寿命を迎える。

そうして社会が回っていく。

 しかし、他の選択肢が見えていれば、自分に合った、最も結果が出せる、そして自分自身が働いていて幸福になることができるものがあるかもしれない。

 彼らのような悩める若者や大人は沢山いるはずです。ただ、彼らは試行錯誤する機会が与えられていないだけなのです。

 もっと、輝ける。もっと、活躍できる。


 適材適所が為されれば、個々人の生活も充実しますし、社会全体の活気も溢れるはずです。働くことが苦役とされている現代の風潮を、私達は少しでも改善していきたい。



 自分の本当にやりたいことや、新たな可能性を見つけるには、試行錯誤しなければなりません。

 しかし、自分に他の可能性があることは、実際にいろいろなことを体験してみて、自身の才能を乱暴に掘り起こしていくことでしか実感できません。


※才能は開花を待つものではなく、たたき起こすものです。


 やりたいことの本質を見極めて、それを満たしてくれるものを選択肢として沢山出し、そこからは試行錯誤していきどれが一番自分に合っているのか考えていく。

 泥臭いですが、これが一番堅実かつ確実な道なのではないでしょうか。

やりたいことの本質が見えていれば、『挫折』というものがマイナスなことではなくなります。

別の選択肢に舵を切るチャンスになるんです。

膨大な選択肢を前にすると私達は動けなくなってしまいます。しかし、自身の過去を深掘っていく中で本当にやりたいことの『本質』を抽出し、そこにダイレクトにアプローチ出来る選択肢を絞っていけば、自分がチャレンジできる範囲が見えてくるのではないでしょうか。



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