子どものマネは社会性の基盤になる
前回の記事では、子どもは大人の言うことを聞くのは苦手な一方で、マネをすることは得意ということを書きました。
今回はその延長の話で、マネ、つまり模倣することは、社会性を獲得する基盤である、というお話です。
人は誰とも接することなく生きて行くのは難しく、誰かと関係性を結ばなければなりません。
大きな社会を考えると現代社会とか日本全体とかいった社会になりますが、小さな社会という意味では家族というのも社会の単位になります。
その上で、誰かと関係性を結び、交流するために必要なのが社会性です。
生きて行く上で必須の能力とも言える社会性を獲得するために、模倣という能力がいかに必要なものなのか、考えていきたいと思います。
今回の記事を読むと、
●社会性の基盤に模倣が必要だということがわかる
●マネをするという子どもの能力の重要性が再認識できる
●マネをするために必要な神経基盤が少しわかる
マネするために必要な神経基盤
大人のマネをする際、頭の中ではどのようなことが行われるのでしょうか。
大人の動きを見た子どもは、その視覚情報を頭の中で自分の運動に変換し、運動を実際に行います。
この変換ができるためには、自分と他者とを同一視して目の前の大人のマネをするという自動的な模倣が行われるシステムが関与するとされ、like-meシステムと呼ばれます。
like-meシステムに基づく模倣は、乳児期初期からみられる自動的な模倣であると言えます。
赤ちゃんが大人の意図を全く理解していなくても、マネができるというのはこのシステムに基づいているわけです。
意味もわからず、こちらの「バイバイ」と手を振る動きをマネるというような場合ですね。
一方、自分と他者とを区別し、相手の意図を読み取るときに働くdifferent-from-meシステムと呼ばれるものもあり、こちらは心の理論にも関わるとされます。
different-from-meシステムに基づく模倣は、大人の意図を理解した上で行われる模倣ということになります。
大人の意図を理解できるようになると、「バイバイ」と手を振る動きに含まれる抽象的な意味を読み取り、「お別れのときに手を振る」ということが理解されます。
このようなことが可能になってからの模倣では、動作をただマネするのではなく、そこに意味や意図をもってマネすることができるようになるわけです。
心の理論
先程、different-from-meシステムは心の理論にも関わっているということを書きました。
心の理論とは何でしょうか。
この心の理論とは,外から見えない他者の心を推測して,その他者がどのように考えるか,なぜそのような行動をするのかを考えることができる能力を指す。
(大城昌平・儀間裕貴編:子どもの感覚運動機能の発達と支援 発達の科学と理論を支援に活かす, p105, 2018)
心の理論が発達していることを確かめる方法として、「サリーとアン課題」というものが有名です。
サリーが自分のカゴにしまった物を、サリーが見ていないときにアンが別の箱にしまってしまいます。戻って来たサリーはどこを探すでしょうか?という問題に答える課題です。
子どもが自分の視点でしか物事を考えることができなければ、箱を探すと答えてしまいます。
しかし、サリー(他者)の視点や思考というものを理解できていれば、カゴを探すと答えることができるのです。
これが、他者の心を推測し、その思考や行動の理由を考えることができる、心の理論というものです。
先ほどのdifferent-from-meシステムでは、自分と他者とを区別することが可能となります。
自分と他者とを区別することができなければ、他者の意図を読み取り、他者の視点に立って考えることはできません。
ゆえに、different-from-meシステムは心の理論に関わるとされているのです。
模倣ができるから社会性を獲得できる
ここまで見てきたように、模倣には自動的な模倣と、相手の意図を読み取った上での模倣があります。
社会性に深く関係するのは後者の模倣であり、円滑な人間関係を構築するためには相手の意図を読み取り、何を考えているのか、なぜそのような行動をするのかを考え、理解することが必要であるからです。
子どもは親や周囲の大人のマネをすることを通して自分と他者との違いを理解し、相手の意図を読み取ることを学んでいきます。
社会性を獲得するために、子どもが繰り返すマネ=模倣はとても重要なものなのです。
まとめ
今回は、子どもの得意なマネ=模倣は、社会性を獲得するために重要な能力であるということを書きました。
模倣には2種類あり、自動的な模倣と、相手の意図を理解した上で行う模倣とがあります。
特に後者は相手の心や思考を理解するための心の理論と関係しており、これが社会性を獲得する基盤となるのです。
何気なく遊んでいる中でのマネという行為が、実はその後の人生で必要不可欠となる能力の獲得に結びついているのですね。
もっと学びたい方へ
子どもの感覚運動機能の発達と支援 発達の科学と理論を支援に活かす
本記事で引用した書籍です。子どもの発達について、網羅的に書かれています。
前半は発達について、後半は疾患についてという構成になっています。
専門書ですが、子どもの発達支援に関わる方は必読だと思います。
おわりに
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