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介入方針がクライアントと食い違ったらどうすれば良いの?

理学療法士や作業療法士、言語聴覚士(以下、まとめて『療法士』)が介入を行う際、計画書を作成し、クライアント本人もしくは家族の同意の元で介入を開始します。

多くの場合すんなり同意していただけると思いますが、本当に本人は納得しているのでしょうか?

口に出さないだけで、クライアントは違和感や不満を持ってはいないでしょうか?

また、同意いただけない場合もあるのではないでしょうか。

このようにクライアントと療法士の間で食い違いやズレが生じたとき、どのように解決すれば良いのでしょうか?

実は、みなさんご存知のEBM(Evidence Based Medicine)で解決できる場合があるのです。

どういうことか、説明していきます。


EBMとSDM

EBM(Evidence Based Medicine)は、これを読まれている多くの療法士がご存知かと思います。日本語では「根拠に基づく医療」と訳され、その名の通り根拠に基づいて診療内容を検討・決定していきましょう、といった概念です。

では、SDM(Shared Decision Making)はご存知でしょうか?日本語では「共同意思決定」と訳され、今回のnoteの主題である『クライアントと療法士との間で介入方針を共有する』ということそのままです。

では、EBMとSDMはどのように両立できるのでしょうか?

ここで、EBMについて説明された論文の一部を引用します。

EBM は「臨床家の勘や経験ではなく科学的根拠(エビデンス)を重視して行う医療」と言われる場合があるが,本来の EBM は,臨床研究によるエビデンス,医療者の専門性・経験と患者の価値観の3要素を統合し,より良い患者ケアのための意思決定を行うものである.(中山健夫. 臨床研究から診療ガイドラインへ: 根拠に基づく医療 (EBM) の原点から. 日本耳鼻咽喉科学会会報, 2010, 113.3: 93-100.)

そう、EBMとは本来、『科学的根拠(エビデンス)』のみを判断基準にするものではないのです。

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『医療者の専門性・経験』に基づく判断を否定し、「それ、エビデンスあるの?」なんて言う人もいますが、EBMでは『医療者の専門性・経験』も重要な要素となります。

一方、『患者の価値観』も大切な要素の一つとされます。

ここまで書くともうお分かりかと思いますが、EBMには最初からSDMの概念が含まれていたのです。


SDMを実践するために

では、具体的にどのようにSDMを実践し、本来のEBMを実践していけば良いのでしょうか。

実は、SDMは方法ではなく、医療者の能力として提示されます。

次のようなものです。

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ここで私が特に重要だと考えるのは、1,5,6です。

1はSDMの基本ですが、『暗黙的参加』という文言が入っています。

人によっては医療者に従うことを是とし、自身の意見を抑制する方もいると思います。

そのような方でも、治療方針や医療者の説明が理解できていなかったり納得できていない場合、表情や行動に表れたりします。

患者さん・利用者さんがご自身の意見をハッキリと述べる『明示的参加』ができれば良いですが、それができない方には医療者がノンバーバルの情報から読み取り、『暗黙的参加』として意思決定プロセスに組み込む必要があると思います。

5と6も同様に、医療者が提案する治療方針への患者・利用者の理解の度合いや反応を確認します。

このように、SDMは『共同意思決定』のプロセスを明示しているのではなく、医療者側のスタンスや能力として記述されます。

私自身の言葉で勝手に言わせてもらうと、『医療者と患者・利用者は、人と人としての対等な関係性を構築し、コミュニケーションをとりながら、それぞれの立場で納得できる治療・介入方針を決定していく』ということになるのではないでしょうか。


まとめ

今回はEBMとSDMについて考えてみました。

意外と知られていないようですが、EBMは科学的根拠のみで方針を決定するものではありません。

『医療者の専門性・経験』と『患者の価値観』を加味しつつ、『科学的根拠』を示された治療法や介入内容(場合によっては示されていないもの)を選択していくことになります。

このプロセスは医療者の患者・利用者との関係性によって大きく異なり、決まった方法やプロセスとして提示することはできません。

我々療法士は常に患者さん・利用者さんの声に耳を傾けながら、また表情や行動からその気持ち・考えを読み取りながら、共同して意思決定を進めていく努力を続けなければなりません。

そして、療法士と患者さん・利用者さんの間で共同意思決定がなされた介入方針や内容は、そうでない場合よりも効果を上げやすいはずです。

あなたの目の前のクライアントは、今の介入方針に本当に納得しているでしょうか?

改めて考えてみると、これまでとは違う、より良い介入方法が見つかるかもしれません。



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