連作30首「錆びる」

第62回短歌研究新人賞応募作品「錆びる」です。



これは自戒 舗装されていない道をわざと選んで揺れる自転車


用のない団地の間を駆け抜ける誰も助からないスピードで


店内はビニールハウスのように人 人 人 古本買取の曲


昼間から足が痺れるまで立って救った世界を棚に戻せば


聖剣を抜くと銃刀法違反 殴られる前に殴ってはだめ


この胸に輝く高貴な金属は腐食しないはずなのにざらつく


金プラチナ高価買取 俺は金色を模倣しているだけらしい


筆算ではじき出されたあまり1となって人混みをすり抜ける


ショッピングモールにゾンビが出てこないもしかして俺がゾンビなのか


キスをするぐらいの距離まで親密にならないと開かない自動ドア


駅前のたこ焼きが可も不可もなくたこ焼きの意味という味がする


公園で将棋を差す老人たちの声を聞く機能を持つベンチ


知り合いや親に遭遇しないよう道を選んでいるロスタイム


おはなしのくにの国境検問所 この身分証では通れない


黙々と誰にも見せない文章を書き続けて見逃す物語


殺される予定の登場人物を作れば神に目をつけられる


言ってほしいことしか言わない人がほしい 奴隷専門店は地下かな


図書館に漂う独特のにおいその一端を担う虫になる


コーヒーと一緒に駅の植え込みで張り込みみたいに食べる菓子パン


家族にはバイト、バイト先には風邪と言って肩書きを消している


風邪を朝霜に例えた友人は製薬会社に受かったらしい


ぬかるみは深く民間療法に頼って悪化した道を行く


環境が整えばやるはずだったなどと被告は主張しており


無駄にした学費によって手に入れた抽象的で大きめのごみ


叙述トリックにより自分が特別じゃないと判明する午前二時


きみのことを想うと きみって誰だ 俺は誰のために歌わされているんだ


その嘘も無駄な会話も未来には影響しない蝶の羽ばたき


若くして死んだ詩人じゃあるまいし悲しいときは悲しいと書く


夢の端 お時間十分前ですが延長はよろしかったでしょうか


もうこんな筆なんて折ってしまえばいいのに間違えて祈ってしまう

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