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roombooks
2016年3月26日 22:30
その昔、東京は板橋区の外れ。赤羽駅に程近い、北区との境に位置する丘陵地帯には、貧乏人の巣食う長屋の屋根やら、赤茶色のあばら家が折り重なっており、それらが陰鬱としたモザイクを描いて丘を覆い尽くす様は、夕暮れになると、まるで鱗だらけの半獣が、街中に蹲っているごとく見えたりもした。 そんな小高い丘の背に建つ、一風変わった建物に住んでいたのが、もう数年程前になる。 私自身、元来飽きっぽく、この歳
それは、墨汁を垂らした水の中を歩いている様な、濃厚で、まるで先の見えぬ夜だった。 何時の間にか月も隠れ、雲が出ているのか、真っ暗な夜空には一欠けらの光すら無い。そんな闇夜に包まれた路地裏を一人歩いていると、自分の靴が石畳の上を擦る、あの耳障りな音だけが嫌に辺りに響き、私は、厚手の上着を羽織った身体を縮こませながら、得に何の当ても無いのに、とぼとぼと夜の徘徊を続けていた。 何時の頃からか始ま