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【エッセイ】過去の私を振り返る

 さて、最近は読書感想文を毎日投稿し続けていた私だ。
 今日は残業だったうえに、帰ってからも予定があった。言い訳だ。しかし、今からではどうしても満足のいく新しい文章は書けない。
 そこでだ、過去の私に頼ろうと思う。過去の私が書いたエッセイを披露する。いかに、私が古来よりモテない人間を全うしてきたか理解してもらえるだろう。憐れめ、見損なえ、蔑め、この私を。それでも諦めないぞ。私はいつか絶世の乙女の手を握る。
 ひとまずは夢に逃げよう。逃げた先で右手は吉岡里帆、左手は内田有紀と手を繋ごう。それでは読者諸君、おやすみ。この先は過去の私を楽しんでくれたまえ。


消えたパフェ


 パフェの語源は、フランス語で“完璧な”という意味の「パルフェ(parfait)」だそうです。(まぁ、実際にフランスでパフェを頼むと、割とシンプルなアイスが出てくるみたいですが。)

 パフェが好きです。最近は少しご無沙汰ですが、幼い時は、家族でレストランに行くと、毎回親にパフェをせがんでいた記憶があります。
 幾層にも重なったムースやクリーム。その頂上に飾られた、色鮮やかなフルーツ達。一際抜き出た威厳を放つ、冷たいアイス。バランスを整えるように、全体をそっと包むホイップクリーム。なんだかんだで愛おしい、かさ増しのコーンフレーク……。パフェは、一つの容器に数多の幸福が詰め込まれた、正に“完璧な”デザートです。

 でも、たまに、パフェを眺めると辛くなる時があります。

 大学1年目の冬のことです。僕には好意を寄せている女の子がいました。バイト先で出会った子です。意識し始めて数ヶ月、ようやく二人で出掛けることができました。向かった先は、渋谷にあるロフトの2階に、期間限定で営業していた“BTS”カフェです。BTSは、世界的な人気を誇るK-POPアイドルで、その子が大好きなグループでした。僕は、この日のためにBTSを猛勉強しました。一切興味のないところから、全シングルのタイトルを言えるまでに。もちろん、全ては好かれたい一心です。

 店内は、少し薄暗く、お洒落な世界観が演出されていました。BTSの曲がフロア中に響き渡っています。案内され、対面で席に着くと、その子は言いました。

「今日は、いっぱい食べよう!」

「そうだね!」

「注文しちゃっていい?」

「いいよー。」

私は軽く承諾しました。

 店員を呼ぶと、その子が注文し始めます。

「カレーと、ホットサンドと、ハンバーガーと、ラザニアと……」

——あれ? 待って。これ、メニュー表の上から順番に読み上げてるな。

「あと、アフォガードと、パフェください!」

——全メニュー頼みやがった……。
——え、待って。やばくない? これいくらになるの。
——全部食ベ切れると思ってんのか、こいつは。

 正直言って、大パニックです。
全12品、総額は1万5千円でした。百歩譲って金銭面は気にしないけれど、食べきれるのかという問題があります。

「大丈夫? 全部食える?」

「え? 食べてくれるんでしょ?」

——なんて横暴な女だ。

 結局、8割近く僕がいただきました。小さい二人用のテーブルに、あんなに料理が乗っているのは初めて見ました……。
 ようやく、一通り食べ終えると、最後にパフェが登場です。

「パフェって別腹だよね!」

——その別腹は俺が作った事を絶対に忘れるなよ。

 そうは思いつつも、確かにパフェは別腹です。一口食べると、満腹だったはずの体に、甘美なデザートがひんやりと染み入ってきました。二人でひとつのパフェを、スプーンで掬いながら崩していきます。目の前には、美味しそうにパフェを頬張る顔がありました。不覚にも、やっぱり可愛いと思ってしまいます。

——あぁ、それでも結局、この子が好きなんだよな……。

男である僕が言えます。男って馬鹿ですね。まぁ、こんなの僕だけかもしれませんが。後日、分かっていたけど振られました。

——あの努力は何だったんだろう。

 今はもう、あのパフェの色も味も、何も覚えていません。残っているのは、地獄のような品数の光景と、あの子のために藻掻いた記憶。
 いつかはパフェが似合う男になりたいものです。

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