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キャリコン的ジョブ型雇用論(1)

おつかれ様です

ザ・日本型雇用慣行であるメンバーシップ型の課題が言われるようになって久しく、ジョブ型雇用制度を導入する企業も増えてきていると思います。また導入までいかなくても「人事制度はこのままではダメだ、改革が必要だ!」と考えている経営者、人事労務部門の方も多くいらっしゃると思います。

ここでは『人事の経済学』鶴光太郎著のレビューという形でジョブ型雇用制度について考えていきましょう。本書は慶應大学商学研究科教授でオックスフォードで経済学PhDの著者が経済学のロジックで人事制度を分析している点が大変ユニークであり、科学的、実証的、理論的なフレームワークは極めて説得力のあるものです。
会社の中において経験や勘、度胸も大事ですが、このようなアカデミックな研究をベースに人事制度を考えることは有益だと思います。

本書の狙いですが「ジョブ型・メンバーシップ型」という言葉には多くの誤解が学会、ジャーナリズムに存在し、その結果企業の経営側や人事労務部門が混乱しているため平易に解説する必要を感じたからとのことです。

狭義のジョブ型と広義のジョブ型

鶴光さんによると労働政策研究・研究機構所長、濱口桂一氏が初めてジョブ型という言葉を使ったとのこと。濱口氏の定義では、職務、勤務地、労働時間のいずれもが限定されていることとされています。これを狭義のジョブ型とします。一方で鶴光さんは広義のジョブ型として、職務、勤務地、労働時間のどれかが限定されている雇用形態と定義します。確かに普通にジョブ型という言葉を聞くと、仕事内容が限定されていると考えますが、仕事内容を職務と勤務地、労働時間に分解してある程度柔軟な幅でジョブ型を考えようということです。

ジョブ型は最新の考えではない

なんとなく、日本的雇用形態=古い、欧米のジョブ型が最先端!と思いがちですが、鶴光さんによるとむしろジョブ型の方が歴史的には古いタイプの雇用システムなのです。チャップリンの映画『モダンタイムス』では工場で単純作業をする労働者が登場しますがあれこそ、ジョブが限定されているという点でジョブ型雇用なのです。したがって工場型資本主義の初期に生まれた古い雇用形態です。例えば現代のアメリカのハイエンド幹部は日本の無限定社員のように長時間労働をしていたりジョブの幅も広い、欧米でも職務のブロードバンド化という流れで単純なジョブ型からクロスファンクションを重視する流れもある。

とはいえ、ジョブ型雇用へのシフトが必要な理由

上記の例からも、「ジョブ型が最新で良い考え」、「メンバーシップ型が古くてダメ」という単純思考から脱却すべきと豊富な実証研究を挙げながら解説されます。
どのような制度でもメリット・デメリットや、社会・文化的な文脈があり最適なチューニングが必要であると鶴光さんは主張します。では、上記を踏まえた上で広義のジョブ型へのシフトが必要である理由はなんでしょうか?
(1)マクロ経済の環境変化
 経済成長率の低下、不確実性の増大、多様性の時代
(2)労働力をめぐる環境変化
 少子高齢化により女性、高齢者、外国人の労働参加が必要である
(3)資本をめぐる環境変化
 人的資本、無形固定資産の重要性
(4)テクノロジーをめぐる環境変化
 テレワーク、ICI、AIなど

このような時代に、企業はどうあるべきか、従業員はどうあるべきか、それをまず考えた上で最適な人事制度を考える必要があります。その点でいうとザ・日本的雇用制度のメンバーシップ性には限界があり、改革が必要であることは間違いありません。

日本的雇用システムの特徴

ここで日本的雇用システムの特徴として挙げられているのが、①長期雇用、②後払い賃金、③遅い昇進になります。
それぞれは関連しあっており、新卒採用されてから定年までずっと会社に所属する前提で、賃金は成果とは完全に連動せず低く抑えられ退職金で人生トータルの帳尻が合う制度。また入社から10年、15年は大きな昇進がなく階段状に上がってゆくシステムがいわゆる日本型雇用制度の柱です。
しかしながら、上に書いた4つの環境変化により現行制度は制度疲労を起こしているのです。
以上今回は一旦本書の前半部分を紹介をしました。次回は実践編としてどのように広義のジョブ型を企業に導入してゆくのかという議論になります。

(次回の記事に続く)

キャリコン的感想
最後にここまでの議論についてのキャリコン的感想、雑談しましょう
まず個人的に経済学のフレームワークは好きで、素人ながらあれこれ読んできました。20年くらい前でしょうか飯田泰之『経済学思考の技術』とかクルーグマンの一般向け本などを読んで経済学の面白さに目覚め、一般向けではありますがマクロ、ミクロ教科書を読んで勉強していた時期がありました。
経済学の考えはロジックとか実証データ、ロジックを大事にします。それだけに経済学者は心が冷たい人、、みたいに思われるかもしれませんが科学として物事を眺めるレンズとしてとても有効だと思います。例えば、消費者金融の高金利が問題になった時に弁護士や人権団体の弱者救済アプローチももちろん大事なのですが、経済学者は「人権」や、「弱者」という概念は一旦横において、市場メカニズムが最適になる金利水準とか、貸す側、借りる側のインセンティブを考慮し制度設計を考えます。人権的な温かいアプローチと経済学的クールなアプローチの両面あると良いですね

人事、キャリアの分野では経営学や組織論が中心的でありそういった書物も読んできましたが、本書は経済学というレンズでジョブ型雇用制度を分析しているということで興味深く読んでみました。
人事の経済学という分野は、キャリア、人材界隈ではまだあまりメジャーではないかもしれませんが今後は制度設計上必須となってゆくのではないかと思います。
キャリコンとしても人の働く意味、やりがいなどの「温かいアプローチ」と、経済学的「クールなアプローチ」の両面を武器にできると良いと考えています。

ではでは

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