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【R07:WORKS】ベートーベンを軸にしたプログラムと『カジュアルに聴くクラシック音楽』の提案

フリーランスのチェロ奏者、山口徳花(やまぐち・のりか)とピアニストの伏木唯(ふしき・ゆい)によるアンサンブル、Duo Axia(デュオ・アクシア)。20年2月に予定している公演の内容や、ふたりが敬愛するベートーベンの魅力、日本とドイツにおける文化の違いなどを訊いた。

ベートーベンへの想いをこめたプログラム

20年2月、渋谷ホールにて公演を行うDuo Axia。演奏するプログラムは、どのように決めているのだろうか。

「今はベートーベンを軸に組んでいます」と伏木が説明してくれた。「いつか、ベートーベンが作曲した『ピアノとチェロのためのソナタ』の全曲演奏
会をやりたいっていう夢があるんです。全部で5曲、変奏曲も入れると8曲あるので、毎回ソナタか変奏曲を一曲ずつ入れるようにしています。2月の公
演では、ベートーベンの4番のソナタを演奏します」。

ふたりとも、最も愛する作曲家は?という問いに、ベートーベンと答えた。山口にその魅力を訊くと、「曲がものすごく完璧に書かれているんです。『楽譜』という形で残されている音楽に向き合えば向き合うほど、発見が尽きません。デュオの作品に関しては、常に緊密なアンサンブルが求められ
ます。本当に取り組みがいのある作曲家です」。

「もっと個人的な感情面から言うなら」と彼女は一旦言葉を切り、「後期の作品に顕著ですが、緩徐楽章(※編集部注:スローテンポの楽章)が、本
当に泣けるんです」。

「『不屈の芸術家』のイメージばかりが先行しがちなベートーベンの、内に秘めた繊細さや不器用な優しさに触れるたびに、心が揺さぶられます」。

伏木もまた、ベートーベンに思い入れがある。「演奏家は感情を音に表現します。聴衆として受け取る側も、音を通して色んな感情を受け取れるのが、ベートーベンの良さだと思っています。ピアノの曲は32曲あるので、コンプリートしたいです」。

セザール・フランクというベルギーの作曲家も好きだと言う伏木。「ドイツにもフランスにも住んでいた、両方の側面をもった作曲家です。ただ、ピアノの曲が3曲しかなくて。2月のリサイタルでコンプリートしてしまうのが、嬉しいけど寂しいです」。

「今回のプログラムは、ベートーヴェン、ドヴォルザーク、プロコフィエフといった作曲家たちの人生のターニングポイントにあたる時期の作品を取り
上げています。

誰でも多かれ少なかれターニングポイントとなる出来事を経験することがあると思うのですが、それは作曲家も同じ。新しい出会いや環境などが彼らの作品にどう影響を及ぼしたのか。私たちの演奏を通して、『国や時代が違っても、この人たちもこんなに人間臭かったんだな』ということを感じてもらえたら嬉しいです」。

伏木は、ポップスの音楽を引き合いに出しながら意気込みを語った。

「歌詞を聞いて感動するものがあるのと同じように、クラシック音楽にも、ハーモニーなどの『音』を通して心に響くものがあると私は思っています。

それを聴いている人に伝えられる、感動を与えられる音楽家になりたいし、そういうデュオでありたい。ぜひ聴きに来てください」。

若きクラシック演奏家たちの心をこめた音を、受け取りに行ってみてはいかがだろうか。

クラシックをより身近に、手軽に楽しんでほしい

日欧をまたにかけて活躍するふたりに、「日本での演奏とドイツでの演奏に違いはありますか?」と問うと、「違います」と即答された。

最も異なる点は『お客さん』だという。

「日本人は、やっぱり真面目ですね」と山口が言えば、伏木も同意する。

「ドイツだと、ジーパンにTシャツといったラフな格好で『さっきポスターを見たから、ふらっと来ました』なんて言うお客さんも多いです。日本では、事前にチケットを買って、スーツやドレスなどの改まった装いで来ないといけないと思われている方も多いですね」。

山口いわく、ヨーロッパでは日常にクラシックが溶け込んでいる。

「もちろん向こうでも、特に豪華な音楽祭やオペラの公演では、着飾って鑑賞に行く文化があります。だけど全体的にカジュアル。気持ちの面もそうです」。

プログラムの組み方すら違うという。「ベルリンでは現代曲をよく演奏します。お客さんも、斬新な響きの曲を聴いても驚かず、楽しんでくれます。日本では、現代曲はあまり歓迎されない雰囲気があって、プログラムに入れるのは勇気が必要です」。

たしかに筆者も、クラシックの演奏会のプログラムに見知らぬ作曲家の名前が並んでいると、チケットの購入を悩むときがある。『ベートーベン』や
『シューベルト』といった名前があると安心してしまうのは、固定化されたイメージのせいかもしれない。

「輸入されてきたものだから当然ですが、やっぱり歴史が浅いんですよね。少なくとも私たちの演奏会はジーンズでも大歓迎ですし、日本でも、もっとカジュアルにクラシックを楽しむ習慣ができればいいなと思います」。

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その最たるものが、少人数で演奏を楽しむ『サロンコンサート』という文化だろう。ヨーロッパでは当然のごとく根付いているが、近年、東京にもサロンホールが増えつつある。

ふたりが2月に公演を行う渋谷ホールや、三軒茶屋のサロン・テッセラ、桜上水のスタジオ・ピオティータなどだ。ポップスを志すアーティストがライブハウスに通うように、クラシックを愛する人々の演奏会も、あちこちで開かれているのである。

「もし、Duo Axiaの演奏を聴いて『いいな』と思ったら、次はどうすればいいですか?」と訊いてみた。

「まずはインターネットから入ってもらえたらと思います。YouTubeで『チェロ 名曲』や『ベートーベン 名曲』と調べれば、代表的な演奏を聴くことができます。そうやって自分が好きな楽器や作曲家や楽曲を見つけたら、さらに『演奏会 地域』というワードを追加して、コンサートを探してください。やっぱり、生の演奏ならではの感動を体感してもらいたいです」。

筆者が試しに調べてみたところ、大きなホールでの大御所の演奏会から、先に挙げたような小規模ホールでの若手の演奏会まで、無数の情報が見つかった。

山口と伏木自身も、HPやSNSアカウントを開設し、インターネットを活用しようと頑張っている。

「演奏家は、作曲家があって、楽曲があって、お客さんがいて成立します。どれだけ素晴らしい演奏をできるようになっても、お客さんがいなければ意味がありません」と伏木は言う。

「知名度と実力は必ずしも一致しないし、有名になることばかりを目指しているわけではありません。ただ、長く続けていくために、発信することは重要だと思っています」。

彼女たちの姿勢は、筆者が日ごろよく接するアーティストたちと、なんら変わるところはなかった。

人によっては、クラシック音楽すなわち『昔ながらの』『格式高い』といったイメージが固まってしまっているかもしれない。

しかし、クラシックもポップスも、そのほかのジャンルでも、『素晴らしい芸術』の素晴らしさに境界はない。あらゆる芸術がカジュアルに楽しまれる世の中になればいいのに、と思った。

text:Momiji

INFORMATION

2020.02.19(Wed) open 19:00 / start 19:30
Duo Axia デュオリサイタルvol.6

[会場] 渋谷ホール(渋谷区桜丘町15-17)
[出演] 伏木唯(ピアノ)、山口徳花(チェロ)
[料金] 一般¥3,500 学生¥2,000
[プログラム]
 ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ第4番
 フランク:前奏曲、フーガと変奏曲
 ドヴォルザーク:チェロとピアノのためのロンド
 プロコフィエフ:チェロとピアノのためのソナタ
[申込方法] 件名に「2/19チケット申込」と入力の上、希望券種・枚数および氏名を「duo.axia@gmail.com」に送信

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