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世界の美しい瞬間 3

3 Take Free!

わたしは、京都(だけではないのだろうけど)でよく見かける「ご自由にどうぞ」文化がなんだか好きだ。

持って帰らないと分かっていても、ちょっと通りすがりに見てしまう。

今の自分には不要になった、
または合わなくなってしまったものも、
他の名も知らぬ人々の中には、
まさに今要りますという人がいるかも知れない。

わたしの住む賃貸マンションのエントランスにも、
ごくたまに「ご自由にどうぞ」と、
小物が置いてある。
不要の手芸品などは、わたしも真剣に物色させていただいたものだ(結果もらわなかったけれど。)。

さて、わたしも季節ごとくらいに、断捨離欲が高まるようになった。
何年か前は、部屋の三方の壁が天井に至るまで物と欲に支配されていた……まさにカオス。
しかし、そこからなんとスッキリしたものだ。
自分の今に合った物を選び、手元に残すことで、本当に要るものが分かるのだ。
あのカオス部屋には二度と戻らない……と、この度も真剣に選び抜いた。

さて、ここに、三年前に買って、ほんのすこーしだけ使ったマスキングテープがある。
今見ても可愛いが、マスキングテープは他に1年使っても余る程度にはある……。

うん、わかった。全然気乗りしない。
この柄は今のわたしには合ってないのだな。
使っても邪魔なかんじがするもの。

とは言え、ゴミ箱に即シュートするには勿体ないと思った。

思い付いた。

遂に、わたしも例のアレを試すときが来たのだ。

わたしはマンションの住民の皆様(海外出身の方もいらっしゃるようだ)に伝わるよう、
「ご自由にどうぞ!Take Free!」と
マジックで書いたメモ用紙を貼ったビニール袋に
マスキングテープを入れ、エントランスに置いた。
誰か、ひとつでも持って行ってくれるだろうか、
明日までには。

どきどきとわくわくを孕んだ初挑戦は、
中学のとき、憧れた先輩の靴箱に初めて名前も書かずにラブレターを入れたみたいな気持ち(したことはないけど。)と似ている気がした。

そのまま外に出掛けたが、用事はわずかな時間で済んだので、すぐに引き返した。

と、わたしはエントランスで笑ってしまった。

もう、ないのだ!
わたしの出したマスキングテープが!!

え、15分くらいしか経ってないよ?

早い!!スッキリ!!!!!

わたしがきれいさっぱり何処かへお嫁に行ったマスキングテープの需要の速さに、
とても心から清々しい気持ちになった。
と同時に、
「ご自由にどうぞ」文化へエントリーできた自分に、やったった!!と笑顔になれたのだ。

どなたがもらって下さったのかは分からないが、
今もあのマスキングテープが、同じ建物のどこかのご家庭で活躍してくれているなら、とても暖かく、本望だなと思う。

このようなやり取りは、
じっと不要な物を握っておくよりも、
自由にしてあげることで、
自分の心も満たされ、何かの役に立っているのなら、
自己の所有と他の所有の境界線がほんの少し薄くなったようで、世界はひとつだなとちょっと思える。

Take free!(ご自由にどうぞ!)
というのは、その文字を書いた自分へも向けたメッセージかも知れない。

おかげさまで、

とても美しい気分を味わえた瞬間になったのだ。

ーーー次の、美しい瞬間へつづく

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