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2022年3月11日 みやぎから、

2011年から11年が経った3月11日の朝。
僕はいま仙台のカフェでこの文章を書いている。

ちょうど一週間前の3月4日、書籍『みやぎから、』が発売された。

同時開催の写真展(仙台PARCOさん)のスタートからも一週間が経ち、ようやくさまざまが落ち着いてきたので、この大切な日に、今回の書籍について伝えておきたいことを書こうと思う。

僕にとって『みやぎから、』のはじまりは間違いなく東日本大震災のあった2011年だ。当時僕は、のちに嵐のニノが主演を務めることになる映画『浅田家!』の原案『アルバムのチカラ』(文:藤本智士/写真:浅田政志)の取材で東北沿岸部に訪れており、写真家の浅田くんと2人で幾度となく被災地に向かい、津波で流されてしまった泥だらけの写真を洗浄して乾かして持ち主のもとに返却するという写真救済活動の取材やボランティアをしていた。

また僕が一番最初に泥掃除のボランティアをさせてもらった宮城県の松島で、休憩がてら、町を散歩していたときに見つけたのが二八屋物産店というこけし屋さんだった。津波を被ったこけしたちが散乱するなか、そのこけしを買いたいと申し出たところ、工人の直二郎さんが、海水に浸かっちゃったからあげるよと言ってくれて、それでもなんとか買わせていただいたことをご縁に、その後、『文藝春秋』で取材させてもらうなど、お付き合いが続いている。

二八屋の本村直二郎さんは残念ながら昨年お亡くなりになってしまった。

そんな2011年の夏、「自分達にも何かできることはないか? と、うちの若い俳優たちが考えていて」と事務所の方にご相談いただいたことから、上述の写真洗浄の現場に足を運んでくれたり、こけしの絵付けをしてくれたりしたのが、健くんや神木くんだった。

その後、健くんとは、熊本の震災時に復興の一助になればと『るろうにほん 熊本へ』という書籍を一緒に作らせてもらった。

僕にとっては健くんとの初めてのお仕事だったけれど、制作にあたって彼が一番大切にしていたことが、取材先のみなさんの気持ちであることに驚いた。20年近く地方取材を続ける僕としては、その大切さを僕が言葉にして伝えるまでもなく、自然と理解していることに心底感動した。特に「復興支援」や「協力」というアクションは、わるぎなく、上から目線になってしまいがちだ。しかし、その地域で暮らす人々に対するリスペクトや、対等な関係性なしに、よい取材は絶対に出来ない。

僕自身、一度も東京に住むことなく、ずっと兵庫県に暮らしながら編集者という仕事を続けているゆえ、都会の人たちのちょっとしたふるまいや言葉遣いから、地方は都会よりも劣っているという前提を感じて辛くなることも多いなか、彼からはそんなことを微塵も感じなかった。だからこそ僕は、とても気持ちよくお仕事をさせてもらっている。

そんな健くんと神木くんの二人が、東日本大震災から10年という節目に、再び自分達に何かできることはないだろうか? と考えてくれたこと。そのことは、東北と関西との二拠点をベースに仕事を続ける僕にとって、とてもありがたく嬉しいことだった。

今回のような、ある意味で企画的に映るプロジェクトは、何かしらの外的要因や要望、組織的な思惑から立ち上がっていくことが多いけれど、ありがたいことに『るろうにほん 熊本へ』に続き、今回の『みやぎから、』も、そういう思惑とは別の、二人の純粋な気持ちから立ち上がったプロジェクトであるということを、今日という日に、僕ははっきり伝えておきたい。

もちろんそれは、彼らと二人三脚で歩みをすすめるマネージメントのみなさんの理解あってこそで、だから僕は事務所のみなさんのこともとてもリスペクトしている。正直、ここまで信頼して、方向性を任せてくれるお仕事はそうそうない。しかしその信頼は僕を奮い立たせてくれる。僕はなんとしても彼らの思いをまっすぐ届けたいと思ったし、彼らがその使命を果たせるなら全力でサポートしたいと思った。

結果、彼らは見事にその役割を果たしてくれた。『みやぎから、』を既に読んでくれた人はわかってくれると思うけれど、僕がこれまでに出会った、心からリスペクトしている宮城の人たちの魅力を、彼らは見事に引き出してくれた。

そもそも「みやぎから、」は出版にいたるまでがとても長く大変だった。本来ならば冬に実施する予定だった取材が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて春に延期。しかしその春もまた延期になり、最終的には、感染拡大が落ち着いていた夏になんとか取材をすることができた。こんな不安的な時期に、また取材日程が二転三転するなかでも、快く取材を引き受けてくださった宮城のみなさんには本当に感謝しかない。

昨日の朝のニュースで、岩手・宮城・福島の沿岸地域で暮らす1000人のかたにアンケートをとった結果、「震災の風化が進んでいる」と答えた人が63%にのぼった、というのを見た。

「みやぎから、」という書籍を出版したことの意味は、まさにそこだ。どうしたって抗えない風化を前に、本という活字メディアの強さを持って、なんとかくさびをうちたいと考えた。

ここで書籍冒頭の二人の言葉を抜き出してみる。

旅を終えた今、僕たちがハッキリと思うこと。
それは、10年というタイミングは区切りじゃなくてはじまりだということ。

『みやぎから、』佐藤健、神木隆之介(NHK出版)


2011年から11年が経った3月11日の朝。
僕はいま仙台のカフェでこの文章を書いている。

彼らの思いは伝わるだろうか。宮城に訪れ、復興を肌で感じる一方で、震災は続いているのだという事実も同じだけ感じられた旅だった。風化を憂う東北のみなさんのためにも、二人の思いが詰まったこの一冊をどうか手に取ってもらいたい。そしてどうか、俳優さんの本だとか、タレント本だとか、そういった先入観なしに読んでもらえたらと思う。今日という日に、まずは宮城から、そして東北へと思いを馳せてくれることを願っている。


ここから先は定期購読いただいているみなさんにむけて、藤本なりの宮城のおすすめスポットをご紹介。健くんや神木くんに関する記述はありません。

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