転職のハードルが低いのは不幸だ。

以前どこかの記事で読んだ内容だが、求人媒体や人材紹介サービスの普及、人手不足による売り手市場によって、転職のハードルは一頃よりも著しく下がった。最近は、スマホの普及でそれが尚更加速している。

不当な労働条件で働かされている人にとって、新しい職場に投げやすくなるのは良いことだし、マクロの視点では人材の流動性が高まるのは良いことだと思う。ただ、個人というミクロの視点で見ると、必ずしも幸せなことではない。


仕事をしていれば、上手く成果が出せず、壁にぶつかって悩む瞬間が必ずある。成果が出せない理由は大きく分けて、①能力(Capability、ケイパビリティ)、②立ち位置(Positioning、ポジショニング)、大きく分けてこの2つに分かれる。

一般的に、能力を高めるのは時間が掛かり、じわじわと成果を変えていくのに対し、立ち位置を変えるのは時間が掛からず、戦況をスマートに激変させることが多い。だから、立ち位置を変える方が華々しい解決策に見えがち。

ところが、誰にとっても一定の効果をもたらす分、立ち位置を変えるのは他の人にも追随されやすい。そのため、時間とともに華々しい成果はしぼんでいき、元の状態に戻ってしまうことも多い。永遠に効果の続く魔法の杖ではないのだ。

一方、能力を高めるのは地味な取組みだが、時間を掛けて積み重ねたものは他人から簡単には真似されない。何だかんだ言っても、長期的に能力を高めることからは逃げられない、というのがキャリアを考える上での帰結だ。


求人媒体や人材紹介サービスがガンガン宣伝されている状態では、転職のハードルはかなり低く感じられるので、本来必要なのは能力を高めることであっても、つい魔法の杖を探す気持ちで、立ち位置を変える方を選びやすい。

スポーツ選手で例えれば、トレーニングで筋力や基礎体力を高めなくてはならない選手に、新しいウェアやシューズの宣伝が付き纏っているようなもの。繰り返し言われ続けると、人の集中力は途切れて、安易な方法を味見したくなるものだ。

能力と立ち位置のどちらが問題なのかは、顧客や先輩からのフィードバックを受け止め、自分自身で判断しなくてはならないが、立ち位置を変える宣伝が鳴り止まない状態では、能力を磨くことに集中できないのも無理はない。

若い世代の後輩たちには、能力を磨くことに真摯に向き合っていける環境を、何とか用意してあげたいなと思う。


ちなみに、今が立ち位置を変えるべき時期かどうか、判断するためのチェックリストの記事は以前書いた。こうして自分の考えをまとめておくと、自由に掘り返せるから便利ですね。



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