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「幸せになる」も「自由に生きる」もタダの流行語 ~『スイスイ林の全力解決』 考察~


cakesの人気人生相談コーナーの2人がコラボして、同じ人生相談に答える企画「#スイスイ林の全力解決」を読んだら驚いた。両者が、真逆の答えを導いてるからだ!!!!

相談者は、シングルファザーの息子の子育てをしている(つまり孫育てをしている)50代男性。
彼の、
「息子に無理にでも再婚相手を見つけた方がいいか」
という相談に、
林さんは「Yes」と答え、スイスイさんは「No」と答えたのだ。
(もちろん両者ともこんな単純な回答ではないが)

スイスイさん


林さん

両方読んで、私としては完全に「スイスイさん大勝利だな!!!」と思った。

スイスイさん大勝利過ぎて、林さんに関しては、相談者の話を聞かず、吊るしにかかってる既製品の幸せを「ハイ、これが売れ筋ですよ」と手渡したようにしか思えなかった。つうか、自分が「結婚いいですよ~」っていう話をしたいがために、相談者さんをダシにしただけじゃない? エッセイとしては面白いけど、これ、人生相談じゃなくない? と思った。

(ちなみに言うと、私は林さんのnoteにドハマリして20~30時間くらいバックナンバーを漁ったことがある程度には林さんに肩入れしてる、のだが……)

一方、スイスイさんは、少ない相談文の中から彼の人格をおしはかり、精一杯オーダーメイドの幸せを作ろうと試行していた。遠隔地にいる相談者さんの全身のあらゆる個所を採寸(あるいは見込み採寸)した上での、最大限練られた回答に思えた。


というわけで、私にとってはスイスイさん大勝利!


……なのだが。

もしかしたら相談者さんは、林さんの回答を喜んで受け取るかもな、とも思った。
つまり、既製品の幸せを嬉々として受け取るかもしれないな、と思った。


というのも、オーダーメイドは、めんどいのだ。作る側のみならず、作られる側も。

■オーダーメイドの幸せを追求するのは、結構めんどい。

私は、スイスイさんの人生相談を読むのが大好きだ。毎週月or火曜日にはcakesをクリックしまくって、スイスイの記事が上がった瞬間にプリントアウトして、線を引きながら、行ったり来たり、1時間ぐらいかけて三往復ほど読む。

たった4000~5000程度で、1時間の精読に値する文章って、めちゃめちゃすごい(大体の(ネットの)文章は分速1000字で読み飛ばされるものだ)。
スイスイさんは、この濃度の文章を書くために、おそらく毎週、数十時間を費やしてるんじゃないかな? と思う。(マジすごい。頭が下がる)

彼女の文章は、濃い。重い。
めんどい、と思う人すらいると思う。(私はそこが楽しいんだけどね)

そして、彼女のスタンスである「オーダーメイドの幸せを手に入れる」ためのアドバイスは、彼女の文章と同じく、重たく、めんどいものだ。

オーダーメイドの幸せをつかむには、知力と体力と膨大な作業量が必要だ。まず「自分が何を欲してるか」を自問自答する手間が長くかかるし、そこでロックオンした幸せを目指すためのtodoリストが膨大に積み上がる。先人なき道を、トアイアルエラーしながら掻き分け進まないといけない。

しんどい。めんどい。だから、「誰かor世間のオススメプランに乗っておこう」「そしたら、考えなくていいし、努力はしなきゃいけないけど先人のハウツーに従えばいいだけだし」と、思う人が一定数存在しても全然おかしくない。

私は完全スイスイさんタイプ(オーダーメイド追及型)だけど、世の人をザッと見ても、
「みんな、それっぽくあろうとしてるな」
「世の中で幸せと言われているものにふんわりおさまろうとしているな」

と感じることが、たびたびある。

それはそんなに悪いことじゃなくて、そうやって省エネするのだって、生き方としてはアリだと思う(私はそういうやつとは絶対仲良くなりたくないけど)

そして、そんな人々に合わせ、豊富に取りそろえた最新型のレディメイドから最適解を取り出し、「あなたにオススメの幸せはコレですよ」とコンシェルジュってくれるのが林さんの持ち味なんだろうなと思う。

(林さんの文章はめちゃめちゃ読みやすい。スイスイさんと違って、いわゆる「サラッと読める」ってやつ。とにかく可読性のプロみがすごい。あとエッセイストとしてはすごいと思う。)

「めんどいから、既製品の幸せの中から自分に合いそうなものを選ぶ。それで十分、身に染む」という人も、世間の中にはたくさんいるんじゃないかと思う。

そして、毎日バーテンダーとして多くの人の話を聞いてプロファイル、アップデートして最新型のレディメイドを取り揃えていることが、林さんの強みなんだろうなと思う。

■そもそも皆、本当に幸せになりたいの?

さて。

スイスイさん、林さん、ともに、「幸せ」というキーワードに向かって全力相談しているという点では完全一致していた。

しかし、そもそも「幸せになりたがってない」人すら、この世にはいる。
私自身、スイスイさんの人生相談にどっぷりハマり、「オーダーメイドの幸せを実現すること」こそ人生の至上命題だと思い込んでたけど、 #スイスイ林の全力相談  のタグを見ているうちに、興味深い意見を目にした。

スイスイさんの担当編集者さんの意見である。

僕はこんな連載の担当編集をしながら、
幸せになろうとする人と、どこか距離を感じており、
かつ、半ば軽蔑しているところがあります。
(スイスイさんのことは、最大限尊敬していますし、
 相談者の方がたのことは勝手に愛しく思っておりますが)

・・(中略)・・

なにがしか眼の前のことに真剣に向き合う中で、
結果として幸せになるならまだしも、
幸せになろうとして、幸せになるなんて、
なんだか、順序が逆ではと考えてしまいます。
自分自身、幸せになるより、本当のことが知りたいと昔から思っており、
いわゆる「幸せ」になりたい思ったことは1秒もありません。
(結果、幸せだなあと感じることはありますが)
本当のことを知ることが、あなたの幸せなんだね、と言われたらそう言えるかもしれませんが、そのことを誰かに伝えるのは結構難しいなと思います。
(これはメンヘラ・ハッピー・ホームの連載を通して、
ハッピーを逆算して、そこへ近付く方法を知れば知るほど、
逆説的に、そのようなアプローチは自分の手になじまないな、
ということが、否が応にも浮かび上がってきました)
引用元
https://note.mu/nkg_13/n/nad6a1f6dd22e

これを読んで、「確かに私も『幸せになりたい』ってあんまり思わないなー」と気付いた。

2018年12月に私がアップデートした人生目標、というか、「こんな風に人生送りたいな」というイメージは、
「集中してたい」「トランスしたい」「頭を使い倒したい」「才能を搾りちぎりたい」だった。
そして、それを実現するために「余計なことに惑わされたくない」「不快、不手際を排除したい」「いい感じのコンディションを保っておきたい」という欲求が、私には強い。

そのため、私の人生のキーワードとしては、「幸せ」よりも、「集中」「トランス」「快」「スムーズ」という方が身に染むなあ、と思っている。

(「幸せ」と聞いた時に私が一番に思い浮かべるのは、犬と遊んでる時なのだが、かといって四六時中犬と遊んでたいわけじゃないしなあ……、一日5分ぐらいでいいなあ……と思ってしまうのだ)

というわけで、「幸せ」すら、人類共通のキーワードではない。

■「幸せ」「好きなことをして生きる」もただの流行語でしかない

最近の日本のインターネットでは「自分なりの幸せを見つける」とか「自由に生きる」とか「好きなことをして生きる」という言葉を特によく見るけど、これらはただの流行語である。

私自身、去年あたりはこの流行語に全身で振り回されて「好きなこと!」「幸せ!」「自由!!」と言いまくってきたので恥ずかしさもあるが、どう考えてもこれはただの流行語なのだ。

人類史上、「好き」「幸せ」「自由」な生き方がメインストリームになったのはめちゃめちゃ最近でしかない。

ちょっと前までは、「身の丈に合う」とか「世間様に後ろ指さされない」とか、あるいは地位、上昇、名誉、などがメインストリームだったのだ。

そして、この「好き」「幸せ」「自由」という流行語が舞い飛ぶ現代でも「自分の好きなことが分からない」「自由とか言われても特にやりたいことない」という人はめちゃめちゃいる。

数年後あたりに、
「無理して『好きなこと』を仕事にしなくてもいい! 適度に強引に適職をあてがってくれる職安」
とか
「誰が好きか分からない人のために、やや強引にカップリングしてくれるお見合いおばさん」
みたいなのが流行するんじゃないかなーと思ってる(もうしてる?)。

■まとめ

何が言いたかったかというと、「相談者は選べ」ということだ。
悩み、弱っているときに、全然ちがう生き方の人にうっかり人生相談をしちゃったら、人生のかじ取りをとんでもない方に間違えかねない!!!

世の人を見てていつも謎に思うのは、なんでそこらへんの同僚とか両親とかに人生相談しちゃうんだろう、ということだ。人生相談するなら、人生指針が似てる人、あこがれる人生を送ってる人にしないと意味ないと思うんだけど……。じゃないと、全然フィットしないクソ既製品押し付けられて人生がモタつくにきまってる。

私はオンラインサロンで課金して下田美咲さんに相談してるし、もしスイスイさんに相談したい類の悩みが出来たらスイスイさんにガチ相談文送ってみたいなあ……と、思案している。


PS
この文章を遂行しているうちに、「スイスイ林の全力相談」の第2回がアップされた。
「セフレと付き合いたい」的な、ある意味定番の悩み。


スイスイさん


林さん

やっぱり私としてはスイスイさん大勝利感がさらに増して、絶対に相談者さんのことを考えてるのも、オーダーメイドの最適解を見つけようとしてるのも断然スイスイさんだなと思った。
林さんは、「昨今の恋愛観、セフレ観」の話を、相談者さんにかこつけて書きたいだけで、肝心の人生相談については、起承転結の「起」で終わっちゃった感じがした(時代を恨め、って……)
でも、オーディエンスの満足度が高いのは、林さんかもしれないよね。相談者さんはこの世にたった一人で、オーディエンスは数万人いるんだから、後者が読みたい記事をかくのは、まあ、妥当だよ(エッセイとしては面白いし……)

でも、人生相談なんだから(相談者さんは必死で全力相談してるんだから)、オーダーメイドしてほしいなー…と私は思うよ……

スイスイさんの全力、見せて頂きました。これからもついていきます。


渋澤怜(@RayShibusawa

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