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六本木でたったワンコインに超楽しくデートする方法 ~彼氏の話8

わたしは、『他者が作った既存の遊びのシステム』にお金を払ってのっかって、フォーマット通りの楽しさを享受することは、大体好きじゃない。

例えば、パックツアーとか遊園地とかショッピングモールとか、ハリウッドの映画などだ。

というのも、作り手が意図した「こういう風に楽しむんだよ、ハイハイ楽しいでしょ」という仕掛けに、ノセられてる感じが気に食わないのだ。

要は、自分が、クリエイティヴじゃない立場に、消費者一辺倒な立場にさせられてしまう感じが、気に食わない。お金もかかるしね。

■東京ミッドタウンで全然お金をかけずにめちゃめちゃ楽しく遊ぶ方法

私は上記の理由で『誰かが作ったお仕着せのデートスポット』がとても嫌いなのだけど、その日はたまたま、彼氏と六本木で3時間、時間をつぶさないといけない流れになった。

あろうことか六本木である。「はいデートしてくださいね。ここに行ったら間が持ちますからね」的な感じで誰かが仕掛けた臭いのぷんぷんする、六本木ヒルズ!東京ミッドタウン!がそびえる、私の大嫌いな街である。


コーヒーが1杯1000円するカフェとか、クレープ、アイスの類を食べ歩いても1000円近くするし、もう歩いているだけで「どくどく」式にお金が目減りしていくような、そういう消費社会の悪魔の棲む、権化シティである。


そもそも我々カップルがなんで六本木に降りたつことになったかというと、彼氏と一緒に行ったアレハンドロ・ホドロフスキー監督の「エンドレス・ポエトリー」の先行上映会が、六本木だったからだった。
で、夕方にある彼氏の次の予定までの数時間が空いたのだ。

エンドレス・ポエトリーは何もかにも最高に面白い映画で11/18からかかるのでぜひ観ていただきたいのだが、特に印象的なシーンは主人公(男)の親友(男)の彼女(ホドロフスキー作品に頻出する、成人だけどとても小さい身長の、作中で「小人」と呼ばれる人だ)が、主人公の親友(男)にフラれて「死にたい」と泣いているのを、主人公が慰めるシーンだった。


主人公は彼女に「目をつぶって。良いというまで絶対に開けちゃダメ」と言い、彼女を外に連れ出す。目をつぶったまま大分歩かせたのちに、「今から君を抱き上げるけど目をとじたままでいてね」と言い、彼女を抱き上げる。やっと彼に「はい、目を開けて」と言われた彼女が目を開けて見たものは、足下はるか十数メートル下に広がる川。そこは橋の上で、彼は小さな彼女を抱き上げて欄干の向こうにせり出していたのだ。
「おろして! 死んじゃう!」と叫ぶ彼女をすぐに橋の上におろしながら、彼は「ね、死にたくないでしょ」と笑う。これですっかり彼女は、自分の「死にたい」がフィクションであると悟り、失恋の絶望から立ち直ったのでした。


映画を観終わった後は、自分が映画の世界の中にまだいるような、現実が壮大な舞台装置に見えるような、へんな感じになるものだが、ホドロフスキー監督のそれは特に強かった。

私は彼氏に「あの遊びがしたい」と言った。
すなわち、「私が目をつぶるから、東京ミッドタウンの中を案内して!」と。


■目を閉じて街を歩くゲーム

やってみるとめちゃめちゃ怖いし、しかし本当に学ぶところが多くて楽しい遊びなのでぜひやってみてほしい。
平日の14時くらいだから人はとても少なかったんだけど(危ないからそれくらい人が少ない時にやってくれ)、
それでも慣れるまではめっちゃめちゃ恐い。あの、夜中に帰ってきた自室で電気をつけるまでの間と同じ、スリ足になる。
彼氏の片腕にしがみつき、なるたけくっつく(離れると何かにぶつかりそう!)
盲人や老人が介護者に対して全く同じポーズをとる理由がよく分かる
(よく彼らの手を引っ張って連れて行く人がいるがあれはNGだ。とても怖い。横に寄り添って進むべき)。

でも、5分もするとその静謐な世界にの居心地がだんだん良くなってくる。


鋭敏になった聴覚、視覚、嗅覚、皮膚感覚をもとに、新しい視点で世界を把握することが可能になる。

「あ、今ちょっと涼しくなったけど屋内はいった?」
「なんかうるさくなったけど食品売り場? そこらへん確か高いチョコレート屋さんとかあるところ?」

さらにゲーム性を高めようと思い、私は「無印良品に行って触覚だけでお菓子を選ぼう!」と提案した。


■目をつぶって触ると/食べると、何かわからない

無印良品を提案した理由は、「だいたいのお菓子を覚えているから、触覚だけであてられるかもしれないから」「六本木の中でダントツで安いから」である。

ルールは簡単で、2人組で無印良品に行き、お菓子売り場にたどり着く少し前に片方が目をつぶり、片方がお菓子売り場に案内。お菓子を手渡し、何か当てさせる。

私が『不揃い ホワイトチョコがけいちご』を一発で当てたのはさすがだったけど、


彼氏がフェイントで手渡したチャイの粉末に

「ウエハース?」とか全くトンチンカンなこと云ったり(粉末ということすら分からなかった!)
彼氏も穴がない袋を触りながら「ドーナツ?!」とか謎回答をしていた。

(もちろん、あんまりしつこく触ると申し訳ないから遠慮気味にさわったよ!)

次は、「二人とも目を開けて、相手に秘密でお菓子を買って、互いに買ったものを目をつぶって食べさせよう」と提案した。

彼氏が私の口に入れたのが、

またコレだっていうのは一瞬で分かって笑、「またコレかあ!」って思ったんだけど、

そこでまた彼のフェイント、まさかの、

コッチだったんです。

「え?! 白いのじゃなかったの?! 抹茶味なんかしなかったよ?!」と大動揺する私。

彼氏も、目を開けて食べたけど、「抹茶味よくわかんない」と言っていました。

おい! 無印! 抹茶の味しねーぞ!!

ちなみに私が彼氏に食べさせたのは、フランボワーズのフィナンシェ

だったんだけど、彼氏は「クッキー?」と微妙にトボけた回答をしていました。
もちろんフランボワーズ味なんて、ブラインドじゃ判別できません。


ダイアログインザダーク (暗闇で遊んだり、会話したり、飲み食いしたりするワークショップ)を体験した時に、「目をつぶると赤ワインと白ワインの区別がつかない」という話を聞いた。

ダイアログインザダークの私の感想ブログにはこう書いてある。

目なんか見えなきゃよかった、と何度も思った。
目なんか見えちゃうから音楽は音楽でなくなるし、料理は料理でなくなるし、服と化粧と見栄ばかりの世界になってしまうんだ。

でも、
目をつぶるだけで、食べ物を食べ物に、触覚を触覚に、お菓子をお菓子に取り戻すことができる。


見栄とオシャレと欲望のひしめく六本木だって、目をつぶればタダのワクワクする遊び場にできる。


どんなに豪華な遊園地よりも、きっと、一番楽しいのは自分の脳の中であり、感覚なんだろう。


★ 『なんで東大卒なのにフリーター? 〜チャットレディ、水商売、出会い系サクラ…渋澤怜アルバイト遍歴とこれまでの人生~』
https://note.mu/rayshibusawa/n/nb6ca37670da8?magazine_key=mf858e39e18e9

★アクセス最多コンテンツはこちら 「彼氏の話」シリーズ
https://note.mu/rayshibusawa/m/mf4fa783d154a


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さて、以下は数百字程度の、本文とは関係ない「おまけ」です。「おまけ」は、私が日々の中で思ったちょっとしたことで、「noteに短し、Twitterには長し」な文章です。
課金していただいた方にお礼がわりの、ちょっとしたものです。今回は、目をつぶる遊びにノッてくれるようなフットワーク軽い彼氏の「彼氏の出生の秘密」。


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