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お嬢様はすぐヤる

「好きなタイプはお嬢様」と公言する男友達がいる。

東大在学中から起業し現在は数億円を動かすイケメン社長の彼がこう言い放つと、身も心も全くお嬢様ではない私は結構なダメージを食らってしまうのだが、彼の言うお嬢様の定義をよくよく聞いてみると、それはどうやら「見た目が清楚」とか「良家の子女」ということではないらしい。それも大事だけれど、肝要なのは「自分に値札をつけない」ことらしい。

真のお嬢様は、「運命の人だ」と思ったら、ちゃんとすぐにセックスする。

「3回デートしてから」とか「今日はキスだけ」とかくだらないことは言わない。安い女ほど、自分の値札をチラチラ見て、少しでも値段を釣り上げようと駆け引きするからウザい、らしい。

お嬢様は欲しいものをちゃんと欲しいと言う。自分の直感を信じて行動し、失敗したらちゃんと自分のせいにする。

欲しいものをちゃんと欲しいと言えない女は、欲しいものを手に入れられなかった時、男のせいにする。らしい。

そうのたまう彼は私と同級の31歳で、既婚者だ。学生時代に出会った女性に一目惚れし、すぐヤり、付き合い、最近結婚した。
お相手は同じく東大卒で大手新聞社勤務の美女、文句なしのお嬢様だ。

彼女とは一度顔を合わせたことがあるのだが、「凛」とキャプションをつけたくなるような人だった。もちろん美人なのだが、それだけではなくて、なんだか、彼女の周りだけ騒音が遠ざかるような、ノイズが自らキャンセリングしてくような、周囲の景色に消しゴムがかかるような、そんな佇まい。

そっかー、この人がこいつと即ヤったのかー。と思うと大変興奮する。
そしてこれが大事なのだが、そう思ってしまった自分のことを「汚い」と思わない。

私はお嬢様が好きだ。

自分に値札をつける行為は、卑しいし、後ろ暗い。
自分は商品でないとまず自分から発信する人間は輝いている。完全に明るい。

そういえば、彼と即ヤッた彼女は、当時処女だったらしい。
そうかー、すごいなー。運命の人と出会うまで、一切無駄打ちしなかったのか。要らないものを要らないと言う力も強かったのだろうか。それとも半端な者はひるんで彼女に近づけないんだろうか。

私は女だけど、確かに、あの明るさには、近づくと自分もデリートされてしまうような恐れを感じたのだ。

私は20代の一時期、水商売をしていた。水商売というのは「■円払ってくれたからこの程度優しくしてあげる」「指名入れてくれたからこの程度触られてもまあ許す」と、自分と客の距離感の線引きを幾度となく更新し続ける仕事で、だからとんでもなく疲れた。

「身体を売る」とか「心は売らない」とか「安売りするな」とか、女性の性愛に関することは金銭にたとえられることが多いが、多分、売ることが悪いのではなく、プライドの無い人間が自分の精神と肉体の価値に自信を持てずに価格変動してブレまくる姿が、悪を呼び込んでいるのだろう。

私が最後にしていた水商売の上司は、元SMの女王様で、揺るぎない線引きがある人だったしその線引きは金銭に依っていなかった。

意気投合した奴隷は二回目から家に呼んでいた。しかし、「今日は網タイツの女性はいますか」とか「自分が行っても楽しめますか」とか、「失礼」なことを聞いてくる客は門前払いされていた。「失礼」にやや独特な線引きがあったが、揺るぎなかった。

あの域に行った人は、お金をもらって接客していようが、明るい。
そうだ、あの人も明るかった。本当によく笑っていたし、よく人を笑わせていた。



渋澤怜(@RayShibusawa

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She is(シーイズ) https://sheishere.jp/ というメディアでエッセイ公募があり、応募したものです。落ちちゃったので公開しました。お題は「ほのあかるいエロ」。

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