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権限、知りませんか?

「ああ、あなたはご存じでないんですか。この会社にそのセキュリティ権限を持つ人間は居ないんです、ただの一人もね」
「そん……な……」

もうすぐ日が暮れる、そんな夕日の差し込むオフィスの一角で無惨な事実が語られた。余りの現実に回答を述べた人型端末、エドワードの前でがくりとデスクに手をつく田口。

セキュリティ権限とは、この場合においては必要な電子論理情報にアクセスする権利の事だ。つまり、必要なセキュリティ権限を与えられなければエンジニアとはいえサーバーに対して出来る事はほとんどない。

ハッカーであれば無理矢理権限を乗っ取るという事も出来るかもしれないが、冒頭の回答を受け取った田口は極々普通のシステムエンジニアに過ぎない。お行儀のよさが透けて見えるきっちり剃り上げられた髭、パリッとしたワイシャツなどからも解るように間違ってもOSの仕様の隙をついて悪さしよう、などというタイプではなかった。

「現行のユーザー権限じゃ、システム上から脆弱性が見つかった箇所を取り除けません。このままじゃ我が社の管理してる社内情報は全裸中年男性並みにノーガードなんですよ?」
「ええ、おっしゃる通りです。ですが最後に最高権限を保有していた社員の方は、その権限を委譲することなく退社しました。ですので社内には誰一人として田口さんが必要とされている権限を持つ社員はおりません。我々にできる事はなく、ただただクラッカーが我が社がノーガード戦法取っている事に気づかないのを祈るばかりです」

エドワードからの、業務補助AIらしからぬ感傷的なお祈り物言いに床にへたり込む田口。なんて無責任な、とその退社した人物を心中でなじるもよくよく考えれば当社のエンジニアに対する扱いたるや散々たる有様で、退社間際に時限爆弾を仕込まれるのも無理はないという惨状であった。

「僕も辞表をば……」
「どうぞ。願わくば私の払い下げ先も見つけていただけると幸いです」

【続かない】

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