ノースシ・ノーライフ(6-2)

「行ってやんな、レインボーフード＝サン」

ソニックブームの一言に、年始の賑わいを見せていたスシ・バーは打って変わってツンドラ絶氷処刑地帯めいた温度まで引き下げられた。
ニュービー、うだつのあがらぬサンシタ、ベテランヤクザニンジャに幹部であるソウカイヤシックスゲイツに至るまで、新年のメデタイ時間をここでスシを食べることで言祝いでいる点については例外はない。

とはいえ、ソウカイヤニンジャの大多数はソニックブームに何かしらの恩義があり、あるいは反抗心があり、あるいは蹴落とす相手としてその隙をもとめ……つまるところソニックブームに、頭ごなしにケチをつけられるニンジャはこの場にはいなかったかに思われた。

いや、ただ一人、同じ幹部であるヘルカイトだけが彼に異を挟んだのである。

「どういう風の吹き回しか、ソニックブーム＝サン」
「アアン？そりゃ俺のソニック・カラテに引っ掛けての言い回しか？まあ、聞けよヘルカイト＝サン。それとレインボーフード＝サンもな」

油断ならぬ幹部ニンジャの堂々たる振る舞いに、その場にいた者は例外なく静まり返り、その一挙一投足を見守る。一方でレインボーフードとケモキは、まな板の上のコイ・フィッシュめいた気持ちで事の流れを見守っていた。

「このケモキ＝サンは、レインボーフード＝サンを信頼して事の悩みを打ち明けた訳だわなぁ？それをオマエ、俺達が寿司食いたさにレインボーフード＝サンを引き止めてだ。ケモチャンに何かあった日には……俺達のソンケイが失われる。ヤクザに取ってソンケイは命よりも大事なもんだ。レインボーフード＝サン、オマエに取ってのスシがヤクザのソンケイだ。俺の言ってることがわかるな？」
「は、はい！」

ソニックブームの回答に、すべてのニンジャが腹落ちした訳では無いものの、ヤクザのソンケイを持ち出されてはニベもない。ソウカイヤは建前の上ではヤクザ組織であり、ヤクザの論理と信条はそれ以外の全てに勝る。それに反論するのはソウカイヤの首魁、ラオモト・カンに弓引くも同然だ。

「ムウ……ソンケイ、か」
「そうよ、ソンケイよ。なぁに、レインボーフード＝サンが戻ってくるまでは、俺が奢ってやる！開いている店でシンネンカイと行こうじゃねぇか！」

何たるグレーターヤクザ仕草か！ニンジャになったばかりのニュービーやその日暮らしのサンシタ達は、タダ酒が飲めるとあって一気にソニックブームを囃し立てた。彼らに取ってこのような生きる喜びを甘受する機会は、実に限られているからだ。

こうなっては、腹に一物あるベテランヤクザニンジャ達も、異を挟むには分が悪いと言えるだろう。ヘルカイトもまた、「オオトロスシ、二貫、出る前に頼む」と伝えてソファに腰を下ろした。

「そういう訳だ、行ってやんなレインボーフード＝サン」
「アリガトゴザイマス！ソニックブーム＝サン！あ、ケモキ＝サン、五分だけお時間ください、そしたら自分が探しに行きます！」
「あ、あ、ありがとうございます！はい、はい、大丈夫です！見つかったら私の連絡先にご一報ください！」

何度も深々とオジギするケモキにサムズアップを返すと、レインボーフードは全身にカラテをみなぎらせ……スシを！握りはじめた！

「イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！」

おお見よ！なんたるニンジャ身体能力を活かしたスシメイクマシーンっぷりであろうか！最新スシメイクマシーン『深海より出たる河童』の三倍のスシメイク速度である！板場に備わった魚切り身がまたたく間に握られ、スシとしてバイオ広桶に並べられていくではないか！これはもはやスシで出来た要塞にも等しい！喝采するニンジャ集団！

「イヤーッ！……これで在庫の刺し身は全部握りました、作り置きで申し訳ないですが、まずはこちらで一杯やっていってください」
「イヨッ！イイゾー！」
「ソウカイヤ名誉スシ職人！」
「ウチトッタリ！」

同僚ソウカイヤニンジャ達の声援を背に受け、レインボーフードは迷わず板場を出た。向かう先は……ソウカイヤ共用UNIXルームにほかならない！

【ノースシ・ノーライフ(6－2)：終わり：(6－3)に続く：第一話リンク】

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