見出し画像

ドランクシティ・ドランクハート #呑みながら書きました

途方も無い孤独を積み固めた墳墓、初めてきたn.o.t.e.の街は、概ねそんな印象だった。

「……誰も来ないなぁ。あ、そこのあなたちょっと読んで見ませんか!?……行っちゃった」

総合創作商業施設n.o.t.e.、その数多あるユーザーテナントの一画にて、海夏鶏サキは本日何度目かさえわからなくなったため息をついた。手付かずの自作冊子をペラペラとめくる。

「エモいと思うんだけどなぁ……」

今日のサキに割り当てられた場所は、小説区画のメインストリート通り。今日こそは誰かに読んでもらいたいと思ったものの、小説エリアにはそもそも人が来ず、来てもサキの前を素通りして去っていく。かたや隣人はというと、やっぱり誰も来ない事に疲れ果ててスマホに張り付いたままだ。

「はぁ……」

こんなはずじゃなかった。6300万アクセス?くらいあるn.o.t.e.に来れば、一人くらいは……いや、本音を言えばもっと沢山に人に読んでもらえる、そう思ってた。のだが。

「閑古鳥ぃ……」

卓上に突っ伏して嘆くサキの眼に、近づいてくる人影が止まった。
サキの背がキュウリを突きつけられたネコめいて硬直する。

その人物は靴先からアタマの髪の毛先に至るまで真っ黒な長身の男で、眼は地獄の鬼の様に荒んでいて、身につけたコートはところどころ不自然な形状を持っていた。カタギじゃない、サキはそう直感した。

「い、いらっしゃいませ~……」

さっきまでは誰でもイイから読んで欲しいと思ったのに、いざ来た相手はサキの語彙には余る危険の香りがする人物で、いまやサキは神様仏様と眼の前の危機が去ることばかり祈っていた。

男の方はというと、蛇の前のネズミよりも哀れに縮こまったサキには注意を払わずに、並べられた作品の方へ凶器を品定めする殺人鬼そのものの視線を送る。コワイ。そしてサキの自信作だった『アタシよりアナタへ』を手に取ると、銃の整備に不備がないか見聞するゴルゴ13同様の緊迫感を持って本文を眺める。

(なに、なんなのこの状況……!)

念願の読者が、裏社会の暗殺者とかそういう感じの雰囲気の相手で、サキのニューロンは喜んでいいのかビビるべきなのかわからずにただただやり場のない愛想笑いを浮かべたまま、はやくこの状況が終わることを祈っていた。

どれほどの時間が流れたのか。
黒い男は最後までページをめくると、奥ゆかしい丁寧さで冊子を卓上へ戻し、サキに向かってスキのチップを置いた。そのまま身をひるがえし去っていこうとする男のコートを思わず掴んでしまうサキ。

「待ってください!」
「何か?」

地獄の釜の底から響くような低音で聞き返され、サキは自分のとった行動を激しく後悔する。それでも、サキにはもう一つ欲しい物があった。

「感想……!ください……!」

サキの言葉に、黒い男はじっくり10秒、眉根を寄せた後に口を開く。

「一番良かったのは話の転換点、怠惰で淫猥な日常を『アナタ』と送っていた『アタシ』が、『アナタ』との離別をきっかけに、気持ちを切り替えて、本当にしたかった生き方に向かって進んでいくパートは物語の変化としてよかったように思う」
「ありがとうございます!……それで、そのー……良くなかったところも教えていただけると」
「言って良いのか?」

頷く。

「第一印象が弱い、理由は表紙画像がなく、書き出しとなるパートが退屈な日常描写で表現されていてキャッチーさに欠ける印象を持った。最初に眼に触れる箇所がパンチに欠けるのは良くない」
「あ、アハ……どうも」

覚悟はしていたものの、やっぱりだめなところを教えてもらうのは少々しんどい。サキはここに至って硬直した愛想笑いから解き放たれて、ヘナヘナと着席した。

「すみません、久しぶりの読者だったのでつい……」
「読む奴は少ないからな、ここは」
「みたいですね。何でなんでしょう」

つい口から本音が出てしまい、サキは慌てて口を覆うもその言葉は男に届いた後だった。

「色々理由はあるが、シンプルに此処は読んでもらいたい人間の方が多く集まるからだ。逆に聞くが、お前は他の作品を読んでみようと思ったことはあるか?」
「それは……」

ちらりと隣を見る。言われてみれば、隣の人の作品を読もうとさえサキは思っていなかった。

「……ありません」
「だろうな。読んでもらいたいと思っているウチは中々読みに行こう、とはならないもんだ。俺もそうだったしな」
「あなたもってことは、今は違うんです?」
「ああ。ここでは、自分から出ていかないと物事が上手く行かない。今のところは」
「はぁ……」

全然知らなかった。現実って上手くいかない、サキはそう痛感した。

「そうは言っても何処から手につけていいのか、全然土地勘がないんです」
「だったら、これから私設イベントに行くから、行ってみるか?」
「イベント……!」

どうしよう、この怖い黒い人についていって良いものだろうか。
サキはたっぷり一分悩んだ後、恐る恐る頷いた。

―――――

「あっ!レイヴンさんいらっしゃーい!」

陽光まばゆいカフェテラスに、思い思いのアルコールを掲げたユーザー達が所狭しと呑兵衛しながら執筆に没頭する。黒い人についていった先は、危なくはなかったがなんだかアルコールの匂いがきつかった。黒い人がビール缶で乾杯を掲げた相手は、銀髪をショートにまとめたキラキラとした雰囲気の小柄な女性で、ブラウスの胸元にはチョコンとネズミが収まっている。

「今回も盛り上がってるな、マリーナ」
「そうそう!もー早い時間からみんなやってきて書き始めるから大騒ぎなの!今回はまとめとか大変なのやめちゃって正解よー」
「アレは明らかに二人が大変そうだったからな……この方向は俺は正解だったと思う」
「だよねー!」

不釣り合いな雰囲気の二人に、サキはおずおずと声をかける。

「あ、あのー、ここは何のイベント会場なんですか?」
「エッ?知らずに来ちゃったのかしら」
「ついてからのお楽しみ、というやつでな」
「あら、そういう……じゃあ説明しないとね。あのねここは……」

「『第5回 #呑みながら書きました 』会場です!」


「呑み……エッ?」
「要は酒を呑みながら一筆書きあげましょうって趣旨だ。ほら、どいつもこいつも酒かっくらってるだろう」

言われてみれば、カフェテリアの店内では誰も彼もが酒を呷りながらにパソコンなり、スマホなりに向き合って一心不乱に打鍵行為を繰り返している。
そして書き上がったらみんなで冊子をシェアして回っているのだった。

「アルコール運転ならぬアルコール執筆……あ、アリなんですかそんなの?」
「ありだとも、そういうこともやっても良いんだ。ここは。事故も起こらないしな」
「執筆事故に誤字脱字は起こるけどね!アハハ」

知らなかった、こんな楽しそうなことやってるなんて。
サキにとって、この街は誰も来ない寂しい街だったけれど、ホントはそんなことはなかった。

「あの、私も参加してもいいですか?」
「もちろんもちろん!お酒が呑めなかったら雰囲気に酔って書いてくれればOK!年齢とか飲酒量は自己管理してねーっ!」
「ありがとうございます!あっ、あなたもありが……」

振り返った先に、男はいなかった。
サキが店内を見回しても、あのバカバカしいほどに目立つ黒くて長身の男の影はどこにもない。酒祭の喧騒だけが辺りを満たしていた。

「あ、あれー……?」
「ああ、彼ああ見えて奥ゆかしいの。用が済んだから引き払っちゃったのね」
「そうなんですかー、また会えますかね?」
「ええ、貴女が書き続けるならまたきっと会うこともあると思う」
「ですかー、じゃあ、今日は呑みながら、書きます!」
「ハーイ!一名様ごあんな~い!」

ハードシードルを受け取ると、サキはスマホとにらめっこしてアルコールの勢いのままに書き始めた。誤字脱字が無限に増えていくも、それも味だ、と教わったままに。

―――――

「この街に、乾杯」

男の視下には、喧騒の光がまたたく、N.o.t.eの街が広がっていた。

【ドランクシティ・ドランクハート:終わり】

あとがき

まず弁明をさせていただくと、ちゃんとのんでます(迫真)
いやまあ小説パ^ーとはわりと身長に変換とかを気をつけたのでごtじ脱字が少なめですが、呑んで書いたのでセーフってことでお許しください!(ホッピング36分身土下座)

アルコール入れながら小説を一本打つという暴挙に走ったのですが、なんか深謀遠慮の策とかがあるわけではなく完全にネタがおもいつかなかったのでもう呑み書きそのものをお題にするしかねーと腹をくくってざっくりプロットアタマの中で立ててどうにかこうにかしました。

普段から勢いとその場の乗りでなんとかしちゃってるおかげでなんとかなった空気がありますが呑みかみニュービーのみんだはもっと酒をガバガバ入れて五時t脱字大反乱し酔っぱらいの酒臭い文章にしたほうが空気を読めたないようになるとオモイマスヨ!ウハハハハハハハ!

というわけで本稿は如何の企画に参加して書きました。
おまえも冷蔵庫にあるストゼロとか呑んで上手いこと、しろ!

今日のんだお酒

弊アカウントゥーの投稿は毎日夕方18時更新!
ロボットが出てきて戦うとか提供しているぞ!

#小説 #毎日note #毎日更新 #毎日投稿 #呑みながら書きました

ドネートは基本おれのせいかつに使われる。 生計以上のドネートはほかのパルプ・スリンガーにドネートされたり恵まれぬ人々に寄付したりする、つもりだ。 amazonのドネートまどぐちはこちらから。 https://bit.ly/2ULpdyL