冥竜探偵かく記せりファンアート

冥竜探偵かく記せり

被害者は雷竜、性別は雄、年齢は今日で五百才になるはずだった。
死因はそう、まるで東方で作られるというチクワの如く、全身が輪切りにされた事によるものだ。

「彼の生誕を祝いに来たらこれとは何と因果な……」

私は自身の黒曜石の如く艶めく分厚い鱗を軋ませながら、二人で食べるはずだった甘酸っぱい竜珠果のケーキを彼の遺体の前に備えると静かに黙祷する。

「ケーキは私一人には幾分多いが致し方ない、後程一人で食べるとして……問題は殺害方法か」

同族のそれとは比べるべくもない、自身の鈍い爪で我が友ゴルオーンの金色の鱗を掻くも、やはり傷一つつかない。

「劣後した、という訳でもないと」

続いて彼の古くからの住居である、この洞窟を見回す。天井は高く、幅も広ければ人間からしたら巨大な我々でも充分ゆったり暮らせるスペースがある。

「雷撃による焦げ、煤、爪による斬撃痕や尾による殴打も無し」

これはつまり、戦闘の結果として彼が死亡したという訳ではないと考えられる。真っ向からの勝負で、何も抵抗せずに一方的に彼がやられるというのは少々考えにくい。

「だとすると、魔法、魔術、呪術の類による遠隔殺傷……?」

しかし、私の知見の範囲では竜種を一方的に遠隔殺傷出来るほどの魔法なんて聞いたことがない。少なくとも既存の技術の話ではあるが、人間のもたらす超自然の現象程度では、貧弱な部類に入る私の鱗ですら傷一つつく事はないはずだ。だが現に、彼はここでバラバラ死体となって転がっている。

「はてさて、これは謎、だな。そこに隠れているお嬢さん、貴女は何かご存知ではないかな?」
「ひゃ、ひゃい!?」

ここに幾らでも転がっている岩陰に隠れていた、人間族の女性に声をかけると彼女は飛び上がっては縮こまった。

おっと、彼女の事を話すより先に、私の事を説明しておこう。
私は冥竜シャール・ローグス。口さがない同族は、私の事をこう呼ぶ。
『看取り屋シャール』などと。

【続く】

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