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「この人は誰」

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現実みなく生きる、少し周りと空気が違う少女たちが出合うのは・・
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「吉田さん」前編

「吉田さん」前編

『五月女』①

江戸患いと呼ばれた脚気にかかり
なつのは、婚家から戻された
田舎で麦めしを
山芋すってかけた麦とろ飯を食えば治る、そのはずだった

脚気と言われて数日のうちに
心ノ臓が止まる
なかなかあなどれない病だったが
白米をたらふく食っての贅沢病
怠け者のお嬢様育ちの嫁だったと、言われているようで気には病んだが、そんなことに体のほうは構っていられなかった

顔も口もすすぐのもおっくうで、全身

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「滝坂さんと滝沢さん」

「滝坂さんと滝沢さん」

脇道へはいつも引きずり込まれる

そこに屹つと、決まって本流から逸れたくなる

心の奥底で遠回りになると、うすうす気づいていながら

僕の知らない
今だけの時間ー開かれた道
たぶん、他に一生ある道ではないから

僕は惹かれる

いや、正確には惑わされる

気配を
背中に感じた

足早だな
馴れた道なのか

たぶんだが、全然上半身がブレていない歩行のはず
どちらか片手を着物の腿にあてて
歩いてくる

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「ノクターン」

「ノクターン」

ライティングビューローの扉を下ろして、左右のツマミを引き出した棒に扉を固定する
毎回この動作が面倒
ビューローの蓋なんていつも開けておけばいいけど、わたしはなにかイヤ
秘密の作業とか手紙、特別な行為のためにある神聖な、大切な場所
祭壇だから
(あら?)
左手側にビューローの材質に合わせているけれど、見慣れない真四角の小引き出しが追加されている
(誰が入れたのかしら)
シンプルな普通の丸い、指を引っ

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「沼田さん」

「沼田さん」

その人は「沼田さん」と名乗った
うちの庭をまっすぐ抜けて、迷わず玄関に来たから、勝手を知った身内の知り合いなのだと思った

「お線香を上げさせてください」

知らない人だから、嫌だな、と思った
いや、知っていても他人同然の人も嫌だ
けどいいか、線香くらい
死んだらみな、悪人でも仏だ
悪口は地獄の十人の王様に針で縫われるんだと、両のほほを指でねじりあげられたものだ

「どうぞ」

「沼田さん」を部屋

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「カナタ?からの手紙」

「カナタ?からの手紙」

「元気に暮らしています」
「心配しないでください」

変な手紙が届いた「どうしたの笹美~?」
「ん~?おか~さあ~ん。変な手紙が来てるよ~。いたずらかなあ」写真も入っている
見覚えのない外人だ「捨てちゃいなさい~」
「は~い」念の為に赤ペンで『受取拒絶』と書いてポストに投函した
カナダ、とかなんとか書いてあったけど
KANADA?
金田?
神田?
兼田?
金だ?ポストに投函してから気付いた私には家

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「びんずら峠」

「びんずら峠」

それは見事な枝垂れ桜の老木であった

おそらくは樹齢百年ほどでも・・

添え木接ぎ木の体を見ると

はるか城のあった時代から

遺されてきたものであろう

菖野は藤色の振り袖を着て

この枝垂れ桜の下で

写真を撮ってもらうのが夢であった

お屋敷通りに帰って来て

菖野の生活は半年経つが落ち着いて来た

いまだかつてないことである

まだ今より若い頃

菖野はお屋敷通りの人々からも

奇異な目で

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「まちほうけ」

「まちほうけ」

毎年、なのか

よくうちに来て

一晩泊まってかえる

お坊さんがいる

いっしょにお風呂に入ったら

母とおなじようなものが二つ

胸にあるのにおつむがツルツル

どうしてお坊さんなのにお母さんなの?

聞いてみた

そうしたら

わたしはからだが弱いから

お寺にはいるようにお父さんにいわれたの

そう、お坊さんは言った

おんなこんぴらさんは珍しい

ツルツルの頭の上に着物を乗せて

縛って

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