Last one gyre

冷蔵庫の冷えたビールは、最後の一本だった。

「くそ」

俺はプルトップを引き上げ、ぐっと押し込む。買い置きはあったはずだが、ぬるいビールなど飲めたものではない。ゲイルは何をやっているんだ。

ビールを飲みながら、俺は家の中を探し回った。洗濯か、買い物か。しかし姿は見えない。ホームメイド・アンドロイド（HA）のゲイルには、かなりの裁量を与えてある。俺の許可なく買い物もできるし、物も捨てられる。そんなことをいちいち尋ねられるのは鬱陶しい。間違ったら返品するなり、買い直せばいい。それよりもビールだ。

HAには、オーナーの最優先事項を設定できる。そうしないと、複雑な日常に対して膨大な演算を行ってしまうらしい。ありうる可能性に対して、あらゆる推論を行う。馬鹿馬鹿しい話だ。そんなときに基準は役立つ。優先させるものが決まれば、可能性が限定されるからだ。

ゲイルの優先事項はビールを冷やすことだった。だが、

【続く】