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MP連載第二十回:聖杯ではないタスクリスト

悩みました。

今、月末が締切の原稿を抱えています。実際は月半ばが最初の締切だったんですが、何をどう頑張っても間に合いそうにないので、月末まで延ばしてもらいました。そのコミットメントはぜひとも死守したいところ。一日のうち、できるかぎりはその原稿を進めておきたいところです。

一方、木曜日はこのMP連載の更新日でもあります。当然、そのための原稿を書かなければなりません。

さて、いったいいつ書けばよいのでしょうか。

やるべきことがぶつかり合う

私の中には欲求が複数あり、それらがぶつかり合って、ときにジレンマを引き起こします。

朝からお昼までの時間は、体力・気力ともに充実していて(≒MPがほぼ満タンで)、執筆を進めるには最適な時間です。ぜひともその時間に、月末締切の原稿タスクを置いておきたいところ。

そうなると、当連載の原稿はお昼以降になりそうです。しかし、それ以外にも作業はありますし、メルマガなどの毎週繰り返される原稿もあります。なんやかんやで取りかかれるのは夕方以降になるかもしれません。

私はイメージします。夕方以降の疲れ切った私が、はたしてこのややこしいMP連載の原稿を書けるだろうか。かなり難しい、というのが私の「セルフシミュレーター」の答えでした。書けるには書けるだろうが、かなり歯を食いしばっての執筆になるでしょうし、適当なことを書き散らかして終わってしまうかもしれません。物書きとして、一応それは避けたいところです。

というわけで、午前のうち1時間を月末締切の原稿へ、残りの1時間をこの原稿にあてることにしました。その判断の結果、今こうしてこの原稿を書いています。

シミュレーションにMPを使う

私は「原稿を書く」というMPを使う作業に取りかかる前に、「タスクをどう配置するか」という行為にMPを使いました。夕方以降の疲れ切った私をイメージし、それによってタスクの設定を決める行為には、微量ながらもMPが使われています。言い換えれば、システム2が発動しています。

その少々のMPをけちってしまい、いきなりタスクに取りかかれば、ほとんど間違いなく夕方以降の私が苦労します。それも、とんでもなく苦労します。

単に苦労するだけではなく、クオリティを損ないたくない仕事について過剰な手抜きが発生してしまう恐れすらあります。不経済だけでなく、不合理なのです。

リストは、備忘録の機能ももちろんありますが、それに加えて、「これを実行したらどうなるか」というシミュレーションも補助してくれます。人によっては、そうしたツールの助けなしにはシミュレーションがまったく発動しないことすらあるでしょう。人間の自己能力を過信を考えると、これは危うい兆候です。

≒聖杯

以上から一つのことが言えます。

タスクリストは万能の器ではない。

そこに書きさえすれば、すべての行動の実行が担保されるような奇跡のツールではありません。むしろ、どうしようもない現実を直視するためのツールです。

「理想の私」であれば、夕方以降だろうがなんだろうがビシっと原稿を書き始め、予定通りの時間で書き上げてしまうでしょう。なんなら予定よりもはるかに早い時間で片付けてしまうかもしれません(「これは10分でやってしまおう」)。

そのような妄想で作られたタスクリストは、当然のようにまったく機能しないばかりか、奇妙な敗北感・無力感を私たちにつきつけてきます。「なんでこんなこともできないんだ……」

自分で自分を痛めつけているのですから、世話がありません。加えて、外部からの手助けも難しい状況です。

想像想起装置

機能するタスクリストは、妄想ではなくそこにある現実認識からスタートします。

たとえば、今日が一週間後で、月末の切迫感がさらに強いものであれば、私は「MP連載の更新」をタスクにすらしないでしょう。ほとんどの時間が月末締切の原稿執筆で埋まっているので、入れるべき場所が見つからないからです。

よって、「MP連載の更新」をタスクにする代わりに、「お休みのツイートをする」をタスクにします。つまり、更新タスクを破棄します。

私は更新を休むのが大嫌いですが、そうはいっても時間がなければどうしようもありません。行動の選択肢の中から、外せるものを選んで外すことが唯一のできることです。

もし、タスクリストが「やりたいことを実現する」ツールなら、「MP連載の更新」はタスクにされるはずですし、実行に移されるでしょう。

もちろん、そのとおりに実行される可能性はあります。なんといっても、人間には火事場の馬鹿力があります。

しかし、「無理なこと」をやろうと思えば、自分に無理をさせるしかありません。自分の体に無茶な妄想のツケを支払わせることは、長くは続かないでしょう。

そのツールは何なのか?

タスクリストを、「やりたいことを実現する」ツールだと捉えるのか、「現実のシミュレーションを補助する」ツールだと捉えるのか。その認識の違いは、ツールの運用に、もっと言えばリストの作り方に大きな違いをもたらします。

リストは単に作ればいいわけではありません。作り方やメンテナンスが重要です。

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