見出し画像

執筆の指針を得る /閉じることの効能

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/01/09 第639号

はじめに

ポッドキャスト、配信されております。

◇BC054 『語学の天才まで1億光年』 by goryugo and 倉下忠憲@rashita2

今回はごりゅごさんのターンで、高野秀行さんの『語学の天才まで1億光年』を紹介してきただきました。

高野秀行さんの名前は、たびたびごりゅごさんからお聞きしているのでたいへん興味を持っているのですが、今回の収録で、「ああ、なるほど。この人は生粋のライフハッカーなのだな」という思いを強くしました。

別にここまで"奇抜"な人生を送る必要はありませんが、そこにあるまなざしや「方法」の創造性など、学べるものは多いように思います。

よろしければお聞きください。

〜〜〜AIに質問する〜〜〜

最近、ChatGPTさんによく質問しています。Open AIが提供しているチャット型のAIです。

◇ChatGPT: Optimizing Language Models for Dialogue

プログラミング作業で何か困ったことがあった際に、このChatGPTに尋ねると、瞬時に答えが返ってくるので非常に便利です。たまに間違ったコードを教えてくれることもありますが、プログラミングではそのコードを実行したら正否がすぐにわかるのでたいした問題ではありません。

もちろん、プログラミングに関する知識はGoogleで検索して探すこともできます。しかし、これがなかなか厄介なのです。

一つには、自分が直面している問題にピッタリとフィットしたコードがうまく見つかるとは限らないこと。

もう一つには、昨今の「情報発信ブーム」のせいでひどく薄味な(婉曲表現です)ページが、SEOの力で検索上位に来てしまっていること。

これらのせいで、求める情報を見つけるために何ページも(場合によっては十数ページも)渡り歩く必要が出てくるのです。

「JavaScriptでのforはどうやって書くんだったかな」、のような基礎知識の場合はGoogle検索でまったく問題ありませんが、少しでも具体的な実装のレベルになると、途端に役立たずになってしまうのが最近のGoogleでもあります。

一方で、ChatGPTさん──なぜか"さん付け"したくなります──の場合は違います。具体的な状況と求めている結果を伝えれば、「それっぽいコード」の書き方を教えてくれます。追加で質問すれば、そのコードが何を意味しているのかも教えてくれます。ここまで「手取り足取り」の情報提供はGoogle検索ではさすがに難しいでしょう。

もちろん、こうしたチャットAIがGoogleを置換するとまではいかないでしょうが、それでも「知識」を探す場合にかなり有力な選択肢だとは言えるでしょう。

でもって、その見分け、つまり普通に検索するのかそれともチャットAIに質問するのかを判断することが、高次の「検索力」になっていきそうです。

〜〜〜「アウトプット」〜〜〜

前々から「アウトプット」という言葉に疑問を持っていたので、トンネルChannelに以下の投稿をしました。

◇outputからexpressへ by 倉下忠憲@rashita2 |トンネルChannel

タイトルで「outputからexpress」と書いていますが、別段「output」という表現を根絶しようとも思っていませんし、積極的に「express」という表現を使っていこう、という強い意欲があるわけでもありません。単によく言われる「アウトプット」ってどうなのよ? という疑義があるだけです。

それもこれも上で書いたような「薄味のページ」がたくさん目につくようになった現状があるからです。しかも、そういうページをたくさん書いて稼ごう!/人生を変えよう!みたいな発言(当然それはセミナーの宣伝文句)も一時期はひどく目についていました。さすがにそういう発言は最近沈静化してきましたが──欺瞞があらわになってきたのでしょう──、余韻みたいなものは残っています。

ちなみに同じ文脈で「情報発信」という言葉もよく使われています。「アウトプット」と「情報発信」。

もちろん、こうした言葉が問題なのではなく、それをどういう意味で使っているのかが問題で、「インプットだけでなくアウトプットしていこう」とか「情報発信で世界を変えよう」といった言説において、それぞれがどういう意味なのかをしっかり考えていこうよ、というのがたぶん私が主張したいメッセージだったのでしょう(書いてから気がつきました)。

自分から何かを出せばそれだけで「アウトプット」と言えてしまいますし、どんな情報であれそれを発信したら「情報発信」と言えてしまいます。よって、「アウトプット/情報発信すれば〜〜になる」という言説は非常に危ういのです。

すると、為すべきはアウトプットの言い換えよりも先に、「アウトプット」の再考なのでしょう。その言葉において何が含意されているのか。それを掘り下げていきたいところです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 「アウトプット」という言葉をどんな意味で使っていますか?

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、2023年の執筆の指針検討と「閉じることの効能」をお送りします。

執筆の指針を得る

先週は"今年の進め方"を検討しました。今回はよりフォーカスを狭めて、「執筆の方針」について考えてみます。何を書くのか、書くのかを探求するわけです。

もちろん、具体的な企画案を考えるわけではありません。それはまた企画案を考える段階で具体的に考えます。

今回考えたいのは、大きな方針です。北極に向かうのか、南極に向かうのか、火星に向かうのか。そうした方向性を見出します。

その話に入る前に、まずどのような「考え方」があるのかを検討してみましょう。

■白紙の未来

まるっきり新しいことをはじめる場合を除けば、方向性の検討は二つの方向から可能です。

・未来方向
・過去方向

未来方向は、現時点を起点として、そこからどんなことが可能かを考えるアプローチです。そこでは制約は基本的に無視されて、自由な発想が促されます。「無限の可能性」といったワードで表現されるアプローチです。

基本的にこのアプローチは、ワクワクします。なにせ「未来は何でも可能である」という見えない前提を持っているのです。その上で、真っ白なキャンバスに絵を描くように「計画」を描いていきます。ワクワクしないではいられないでしょう。

こうしたアプローチを「白紙の未来」型アプローチと呼びましょう。一般的な自己啓発はこのアプローチを好みます。

■選択肢の過去

もう一つのアプローチが、自分が過去に作った選択肢から選ぶ、という方法です。

その際には、当然のように白紙のキャンバスはありません。むしろ、すでに存在している選択肢から選ぶ、という限定気なものになります。

ただし、選択肢が有限である点は注目に値するでしょう。白紙の未来型では非現実的な選択肢を思い描きすぎて結局何も選べない状況が起こりますが、こちらは見知った選択肢から選ぶので、比較的現実性の高い判断になりやすいと言えます。

とはいえ場合によっては、その選択肢が「一つ」しかないこともあります。つまり、何も選べない状態です。

フィクション作品などで両親の復讐を誓った敵役が出てきますが、極端な例がそれです。過去の自分が決めた幅の中で生きていくというアプローチと言えるでしょう。

当然これはワクワクするものではありません。一方で、人が「信念」と呼ぶものはこちらに見出されます。仕事術などではこちらのアプローチが尊ばれることが多いでしょう。

■re:choice

この二つのアプローチのどちらが好ましいと感じられるかは人によって違うでしょう。前者を好む人は自由な感じを高評価するでしょうが、別の人はそこにある非現実性を嫌う人かもしれません。逆もまた然りです。

もちろん、アプローチはこの二つに限られたものではありません。中間的な、あるいは二重的なアプローチもあります。

それが今回私がとりたいアプローチです。具体的には、過去を洗い出し、その上で新しく選択肢を考える、という方法です。

とりあえずその手法を re:choice と名付けておき、話を進めていきましょう。

ここから先は

8,610字 / 2画像 / 1ファイル

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?