見出し画像

つながりを生む本 それが変えるもの #burningthepage

本は死なない』第八章「つながりを深める本」より。

作者と読者が直接対話できる時代がやってきている。読書はこれまで個人が一人で楽しむ文化であり、読書クラブのような活動も大きな流れを生むには至っていなかった。しかし現代では、読者や作者が国境を越えて本に関する議論を交わすことができる。

このことがもたらす変化は、非常に大きいと言えるでしょう。その変化は、本の書き方・読み方の両方に影響を及ぼします。

まずは、本が生み出すつながりから考えてみましょう。

電車やバスに乗っているとき、前に座っている人が自分のお気に入りの本を読んでいた経験はないでしょうか。そんなとき、急激に親近感が湧いてくることがあると思います。もしそれが旅行先であって気持ちが「旅の恥はかきすて」モードだったりしたら、積極的にしゃべりかけたりするかもしれません。

本がつながりを生むわけです。

そういえば、私が大学生のころ__一応書いておきますが理系でした__、教室内で赤川次郎さんの小説を読んでいたら、同じ授業を受けている女の子から話しかけられたことがあります。青天の霹靂。で、まあ、そこから本の貸し借りが始まって、というお話は別にいいですね。

本にはある種の世界があり、その世界を共有している感覚が、つながりを生じさせるのでしょう。

もし、そのつながりが一対一だけではなく、もっと複数にまで及ぶのならば、一冊の本が「プラットフォーム」として機能することは十分にありえます。

本が議論のきっかけを提供し、それを読んだ読者同士がそれについて話し合いを進めていく。それも世界規模で。おそらく、そんな現象はすでに起きているでしょう。

今後、それが簡易に実現できるツールが登場すれば、もっともっと普及していくことが想定できます。なぜなら、それは楽しいからです。

もちろん、そのプラットフォームには作者も、(ある意味では一読者として)参加することになるでしょう。読者同士の交流が生まれ、読者と作者の交流も生まれる。

そこには、密度の濃いフィードバックが発生するはずです。もしそれで、クリエイティビティに何一つ変化が起きないのならば、人間の脳は何一つ新しいことなど覚えられないでしょう。

本の書き方に、読者が影響を与えるのです。

同じような事柄は、きっと広範囲にわたって起こりえます。著者が、ネット上で引きこもることを選択するならば話は違ってきますが、デジタルネイティブのクリエーターが増えば増えるほど、それは当たり前の感覚になってくるはずです。

そういう世界では、クリエーションの作法が、根本レベルから変わってくるかもしれません。

今現在でも、読者をレビュアーとして巻き込んだり、私のようにメルマガで試作版を読んでもらい評価や感想をもらって、コンテンツの方向性を整えていくことは行われています。それがもっと「過激」な形で発展してくのです。

信頼できる読者にお話のアイデアを投げかけ、そこからブレストして物語を作っていく。いくつかのパターンの展開を考え、「読者投票」でどの展開が良いのかを決定する。あるいは、今の私が全然思いつかないような創作活動・ジャーナリズムが発生するかもしれません。

広範囲かつ高速のつながりが生み出す、新しい作法(さくほう)です。

このようにして読者が書籍製作に関わっていくことで、いずれ「原作者」という考え方も消失していくのではないだろうか。

これは新しい出来事のように見えて、案外何かが一周しているとも言えそうです。

日本でも「詠み人知らず」の歌はたくさんあります。あるいは、口頭伝承で次世代に引き継がれていった数々の物語は、それぞれの語り人が少しずつオリジナルの要素を加えることで、誰が原作者であるのかを決めるのが難しい状況にもなっています。

そのオリジナリティーは語り人の中から出てきたものもあるでしょう。あるいは、聞いている子どもが「ねえ、なんで?」とか「その人は、その後どうなったの?」などと投げかけた問いによって触発されたものでもあるでしょう。

そこでは、物語に関わる人全てがクリエーターなのです。そういうことは、著作権が文化的に当たり前になるよりも前には、ごく普通にあったのかもしれません。それはつまり、ヨーロッパ的思想における「個人」がもたらした……という話はやめておきます。

なんであれ、今の私たちが心に抱く「本」という概念は、非常に現代的なものになっています。つまり、普遍的なものではないのです。

今後、それはいくらでも変わっていく可能性を持っています。もちろん、その変化が必ず好ましいものであるとは限りません。でも、その変化を止められるものでもありません。

であるならば、少しでもよい読書体験を生み出せるように、出来る限りのことをしておきたいとも感じます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?