見出し画像

WorkFlowyとワンアウトライン デジタルノートエクスプレスvol.3」

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/05/17 第553号

○「はじめに」

ポッドキャスト、配信されております。

◇第六十九回:Tak.さんとアイデアは整理できるのかについて by うちあわせCast | A podcast on Anchor

◇ゲスト回BC012『思考のエンジン』 - ブックカタリスト

ブックカタリストが初のゲスト回だったので、今週は両方ともTak.さんとのお話になっております。どちらもたいへん面白いと(手前みそですが)思います。

〜〜〜初稿の送信〜〜〜

ついに、今執筆中の原稿の「初稿」を編集者さんに送信できました。

プロトタイプ稿はかなりゆっくり進めていたのですが、それが一通り仕上がった後、じゃあ初稿に仕上げていきましょうという段階で、本の発売日とのかねあいが出てきます。

ある日にちまでに仕上げれば7月に発売できるし、それが無理そうならば8月発売になる、という線引きが生まれるわけです。

自分の目算では、「頑張ったらその日にちまでに仕上げられる」という演算結果が出たので、頑張る方を選択しました。それまでのゆっくりペースに比べると作業量はかなり増える見込みですが、それでも殺人的なほどにはならない──予定でした。

でもって、予定はいつだって未定です。

結果的に、第一章の直しに想像以上に時間がかかってしまい、残りの作業を時間的にかなり圧迫することになりました。当然一日あたりの作業量も増えてきます。それでもなんとか、締め切りの日までには原稿が送信できました。よかった、よかった。

とはいえ、原稿にはまだ詰めが甘い部分が残っており、それはゲラで直そうと決意した「とりあえず」原稿の送信だったので、自分の中では「初稿脱稿」という気持ちにはなっていません。

しかし、たとえそうであっても、原稿を送信した次の日の朝は、ものすごく頭が軽い感じがしました。「とりあえず、当面はこれについてもう考えこまなくてもよいよ」と脳が判断したからでしょう。

逆に言えば、何かしらの渦中にあるとき、脳はそれについて思考力を使い続けてくれるのでしょう。だからこそ、その渦中コントロール(コミットメント・マネジメント)が非常に大切になってきます。

〜〜〜ようやく理解したこと〜〜〜

不調だった40歳の一年を通して学んだのは、「ひとりで閉じているだけだとラチなんか開きようがない」という、いっそあたり前とも思える一つの教訓です。

それは、自分の心だけに抱えておくとやがてはパンクする、というメンタルヘルス的なものもあるのですが、それだけでなく何かについての思考・研究についても、自分ひとりで考えているだけでは、きわめてその射程が限られたものになってしまう、という話も含んでいます。

人間の思考力は限られ、視座も限定的で、バイアスもあるのですから、ほとんど当然のことです。にも関わらず、ひとりでやりたいし、ひとりでできるし、ひとりでやった方がよい、という気持ちをずっと抱えてきました。それは独立心の強さなのか、単に面倒なことを嫌う性格のせいなのかはわかりません。

ともあれ、今年からはどんどんひらいていこうと思います。もちろん、それはすべてをオープンにすることではなく、閉じる場所と開く場所の両方を持つことを意味しています。

〜〜〜文章を整える〜〜〜

推敲し、文章を短く整えることは、基本的には良いということです。

たとえば上の文章は、

推敲し、文章を整えるのは、基本的には良い行いです。

のように整えられます。

このように「こと」や「という」という言葉は、基本的には削っても意味が通じるので、そういうのはどんどん削除してけ(ないしはゼロにせよ)というのが一般的な文章作法のアドバイスです。これはまったくもってその通りでしょう。

しかしながら、そのような整理を機械的に進めてしまうのはよろしくありません。「こと」や「という」は、それ自体たいした意味を持っていませんが、文章のリズムを形成する部品としての役割は持っているからです。

なので、それらを親の敵みたいに見つけるたびに削っていくと、文章全体がスタッカートの連続のようになってきます。もちろん、そうした文章が書きたいのであれば別に構わないのですが、そういう判断をまったくせずに、ただ「そう言われたから、削る」というのでは、文責が泣いてしまいます。

「そこに、その言葉があることは、意味があるのかないのか」

それを判断するのが書き手の仕事でしょう。だから、文章を短く整えていく際にも機械的に行うだけでなく、「これって削っていいのかな」と手を止めて考えることもまた、大切だと思います。

〜〜〜どうせよと〜〜〜

書店の新刊コーナーをぶらついていたら、見知らぬラノベタイトルを見つけました。面白そうな雰囲気の本です。では読んでみようか、とその本を手に取ってみたら「2巻」でした。だったら1巻と一緒に買おうとラノベコーナーに足を伸ばして探してみると、1巻が見つかりません。検索機でサーチしてみるも、「取り寄せ」の表示が。

もちろん、店舗に置いておける在庫が限られている以上どうしようもありませんが、この場合、そのお店で2巻を買う人は1巻を買った人だけになります。もちろん「へへ、オレは2巻から読みはじめて、1巻がどんな話なのかを想像するのが趣味なんだ」という人は別でしょうが、そうでない限りは、2巻だけ並んでいる状態は販売機会はずいぶんと減ってしまいそうです。

それもこれも出版点数が多いのが問題なわけですが、それも自由な経営活動の結果なのでどうしようもありません。今の本屋さん、特にライトノベルや漫画やビジネス書のコーナーの運営はとても難しいのだろうなと思います。

〜〜〜気になる作業机〜〜〜

SNSでよくシェアされる作業机は、ものすごく片づいていて、パソコン以外のものが何も置かれていなかったり、あるいはやたらめったらディスプレイが置いてあって、やっぱりそれ以外のものが何もなかったりする、すごく「かっこいい」作業机ばかりです。

でもって、私の作業机は情報カードがあり、クリアファイルがあり、メガネケースがあり、文房具置き場がありと、ぜんぜん「かっこよく」ありません。しかし、作業机をかっこよくするために、それらの物を処分するというのは本末転倒さがあります。

なので、上記のようなこまごました物が置いてありながら、それでも機能的に使える机の整理方法や配置の妙などを知りたいのですが、そうした情報はあまり回ってきません。

もし、私と同じような人が少なからずいらっしゃるなら、情報流通に見逃せない偏りがあるのではないかと勘ぐってしまいます。

〜〜〜NotionのAPI〜〜〜

NotionのAPIがパブリックベータとして使えるようになったので、ちょっと試してみました。

◇Notion APIを試す - 倉下忠憲の発想工房

最初の設定にやや癖がありますが、それをくぐり抜けると簡単なコマンドでページの操作ができます。有料のアプリケーションを作る、といった高い目標でなく、個人的な操作の補助するくらいなら、比較的容易に扱えるでしょう。

これでますますNotionの勢いが拡大するかどうかはわかりませんが、便利なサードパーティーアプリがたくさん出てくれば、一時期のEvernoteのような勢いは獲得するかもしれません。今後の動向が楽しみです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 作業机の上はどのようになっていますか。

では、メルマガ本編をはじめましょう。今回はデジタルノートエクスプレスのvol.3として、もう一度WorkFlowyの話をしてみます。

画像1

○「WorkFlowyとワンアウトライン デジタルノートエクスプレスvol.3」

前回は、デジタルツールを用いて「すべて」を真に満たそうとすると、やがては破綻が到来する事象を確認しました。

では、どうすればいいのでしょうか。そのヒントを、本号と次号で探していきましょう。

まず今回は、vol.1で登場したWorkFlowyに再登場を願うところからスタートします。

■WorkFlowy

WorkFlowyは、あぜんとするくらいシンプルなツールです。メニューには「ファイルをつくる」も「フォルダもつくる」もありません。すべての情報は、最初に準備されるHomeという項目の直下に保存されます。これは既存のツールの流行から考えると、きわめて特異だと言えるでしょう。

そうした特殊性のおかげで、すべての操作はそのアウトライン上で完結します。アウトラインの「外」の操作はありません。それがWorkFlowyを「シンプル」だと言える最大の理由です。

仮に、その「一つのアウトラインですべてを済ませる」という考え方を、〈ワンアウトラインの思想〉と呼ぶとしましょう。そのとき、その〈ワンアウトラインの思想〉と、Evernoteの「Remember Everything」は同じものなのかどうか、という疑問が立ち上がってきます。まずは、そこから考えていきましょう。

■Remember

「Remember Everything」は、すべてのことをRemember可能な状態にしようとする思想です。そこには二つの意味があります。すべてのことを「記憶(記録)」し、それらを「想起(検索)」できる、という二つです。

たしかにEvernoteは、テキスト情報だけでなく画像や音声、そしてデータファイルも保存できるので、「すべてを記録する」は目指せるでしょう。一方、記録が残っていても、それが引きだせなければRememberが達成できているとは言えません。記憶でも、「いや、覚えているんだよ。覚えてるんだけど、のどで詰まってそこから出てこないんだ」という状態はありえ、それは情報の扱いとしては不自由な状態です。引きだせて、ナンボなのです。

その意味でも、たしかにEvernoteは優れていました。その当時の水準から考えれば、豊富な検索条件を設定できたので、工夫次第でさまざまな情報をひっぱり出せたのです。

ただし、情報が爆発的に増えると話は変わってきます。豊富な検索条件があっても、適切に引っ張り出せなくなるのです。つまり、Rememberの片側半分しか達成できません。これが、Evernoteがかつて持っていて、現状も持ち続ける大きな課題です。

では、ワンアウトラインの思想ではどうでしょうか。

■Evernote→WorkFlowy

WorkFlowyは、一ヶ月あたりに追加できる項目が250個までと上限が決まっています。有料ユーザーになれば、その上限が撤廃されて、無限に項目が追加できるのですが、実際有料ユーザーでも1000個や2000個の項目を毎月のように追加している人は少ないのではないでしょうか。

なぜならば、項目は引き算されるからです。250項目を追加した後、2つ項目を削除すれば、もう2つ項目を追加できる状態になります。つまり、元々の項目数に対して、増やせる項目数が250個であって、新規項目作成操作が250回に限定されているわけではありません。

実際の数字で考えると、最初の月は250個まで「総項目数」を増やすことができ、仮にその月で50個項目を増やしたら、次の月は300個まで全体の項目が増やせるようになるイメージです。仮想の箱の上限が、少しずつ大きくなっていく感触が近しいでしょうか。

面白いことにEvernoteも同じようなモデルを採用しています。無料ユーザーでも最大の上限(10万ノート)は有料ユーザーと変わりなく、毎月追加できる容量に差があるだけなのです。

でもって、私たちはまずEvernoteに出会い(そのときRemember Everythingの思想に触れ)、次いでWorkFlowyに出会ったので、どうしてもEvernoteと同じようにWorkFlowyを触ってしまいがちです。つまり、ワンアウトラインの思想とRemember Everythingを混同してしまうのです。

しかし、それではうまくいきません。というか、いかなかったのです。

■すぐに限界がくる

Evernoteと同じようにWorkFlowyを使おうとすると、さまざまな点で問題が生じます。それも、すぐに生じます。

まず、Evernoteのような優秀なWebクリッパーもなく、API連携によるサードパーティーのアプリケーションも豊富ではなく、IFTTTのような自動連携ツールも使えないWorkFlowyでは、「すべて」を取り込むのは相当な手間です。いちいち手動でやらざるを得ず、すぐに面倒になります。

また、有料ユーザーになって上限を取っ払っても、嬉しいとは限りません。なぜなら、項目が増えれば増えるほど、動作がもったりしてくるからです。もちろん使っているパソコンのメモリ依存な話ではありますが、Webブラウザ上で大量の項目を展開しているのですから、メモリを食うのは当然でしょう。

でもって、WorkFlowyでは項目の大きな切り分けが存在しないので、WorkFlowyを使うことは、すべての項目を操作可能な状態にしておくことを意味します。余計にメモリを食うわけです。

もしこれが、下の項目はスクロールしてから読み込むようにするだとか、別のノートブック内の項目は呼び出されてから読み込むようにするといった切り分けができるならば、メモリの消費は抑えられたでしょう。しかしそれは、WorkFlowyの本質にはそぐわないものです。すべてを一つのアウトラインに載せるとは、すべてがメモリに乗っかっていることを意味します。

■構造的混乱

それだけではありません。WorkFlowyに「すべて」を保存しようとすると、構造的混乱がすぐにやってきます。項目の粒度がバラバラになり、やたら深いものもあれば、やたら浅いものもあります。重複もあり、行き場の見つからないものも出てきます。

それらは、一見するとWorkFlowy上にきちんと保存されてはいるのですが、しかしそれを使おうとする自分にとってはまったく取り扱いが効かない状態になっているのです。

結局、ここまで書いてきたような状況が突きつけてくるのは、「ここにすべてを置いておいてもしたがない」という簡潔な事実です。その事実が、かなり早い段階で突きつけられます。

それはデメリットなのでしょうか。私はそうは思いません。Evernoteを5〜6年使ってはじめて得られるフィードバックが、数ヶ月使った段階で得られるのは、むしろメリットと言えるでしょう。

続きをみるには

残り 7,653字 / 1画像 / 1ファイル

¥ 180

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?