アントレプレナーシップ教育の内容と学び

前回の記事で、アントレプレナーシップ(以下アントレ)教育とはどんな教育で、何故やる意味があるのか、という説明について書きました。

本記事では、もう少し具体的に、アントレ研修でやっていることと、そこからどんな学びが生まれることを想定しているかを書いていきます。

非常に簡潔に書くと、
①自分の興味関心と社会を結びつけ、②価値を生み出す相手とその方法を考え、③実現性を高め、④発表する、というプロセスで進みます。プロセスごとに簡単に説明します。

①自分の興味関心と社会を結びつける

研修の最初は、受講者それぞれが、自分の人生を自分で決めることの重要性と、社会に影響を与えられる存在であることを、世の起業家の実例とともに説明します。
そして、自分の身の回りの好きなモノ・コト、嫌いなモノ・コトを考えるワークを行います。考えた内容から、自分が取り組みたいテーマを設定します。

これらのワークの狙いは、これから学ぶアントレスキルの目的を「自分起点」にするためです。
アントレで得られるスキルはあくまでツールであり、目的なく使うことはできません。自分自身の中に目的を見出そうとする態度がない研修は、ただのやらされる授業になってしまいます。
自分の将来に関係があることだ、とか自分の思いから価値を生み出すことって出来るんだ、そのための方法をこれから学ぶのだ、ということを理解し、主体的に取り組んでもらうためのマインドセットを行います。


②価値を生み出す相手とその方法を考える

課題テーマを設定した後は、今回の研修で解決に取り組む具体的な課題を特定していきます。

ポイントは、「課題によって困っている人と課題」を具体的に想像することです。
例えば、「子育てで時間がない人」くらいの抽象度だと、解決策も「子供を預かってくれる施設」「ベビーシッターのマッチング」「時短のコツがわかる情報サイト」のような、既にあるような解決策ばかり思いつきがちです。
ところが、「年齢の離れた子供が2人いることで献立の検索・買い物・調理に時間がかかってしまう」ぐらい具体的だと、「子供の年齢を事前に入力しておけば、同じ食材で各年齢に合わせた料理を、調理時間別に検索できるサービス」など、「世の中にまだない新しい解決策」を考えやすくなります。

解決すべき課題が決まったら、解決策を考えます。アイディアの発想法を教えながら、何度も何度も考えます。

このプロセスは、1回だけやるものではなく、何度も何度も繰り返すものです。最初に思いついたアイディアが、全く新しくて実現性の高い素晴らしいアイディアであることはまずありません。頑張って思いついたアイディアの足りない部分を見つけて改善したり、0から考え直すことを何回もすることが当然であると伝えます。


③実現性を高める

考えた解決策を、ビジネスとして成り立たせるために必要な考え方を学びます。
この部分は、研修の時間・回数によって内容に変化があるところですが、主に2つの観点から、考えた解決策をブラッシュアップさせていきます。

1つ目は、マーケティングの観点です。
課題を解決できる素晴らしい商品を思いついても、実際にその課題を持つ人に届けられなければ、課題は解決されません。どうやって自分たちの商品・サービスを届け、どう使ってもらって、どう課題が解決されるのかをストーリーで考えます。

2つ目は、収益の観点です。
製品やサービスを作ったり、またそれを売るにはお金がかかります。自分たちの解決策を持続可能な仕組みにするためには、価格設定をどうするのか?他に必要なお金を集められるようにする仕組みにするのか?ということを考えます。


④発表する

プログラムの最後に、必ず発表を行います。多くは3分~5分のビジネスピッチ(プレゼンテーション)です。

準備段階では、優れたプレゼンを見て、優れているポイントを学び、設計シートを使ってピッチを設計します。限られた時間の中で、いかに自分たちのアイディアをより良く伝えるかを考えます。

発表本番は、起業家を呼んで、フィードバックをもらいます。実践的なアドバイスをもらえることもありますし、外部のゲストを呼ぶことで、本番の緊張を作り出すことができます。失敗しても不利益はないが失敗したくない本番は、参加者の成長につながります。


他にもいくつか学びの仕掛けがあるので紹介します。

・チームを作る

特に中高生向けのアントレ研修では、チームを作って取り組むことが多いです。運営上の制約という理由もあります。上記プロセス①の終了後、自分のテーマを元に他の生徒とコミュニケーションを取り、その場で自由に(1チーム3~5人まで、などの制限だけ設けて)チームを作らせるパターンが多いです。

似たテーマ同士で組めることもありますが、当然そうならない場合もあります。他テーマの生徒を説得してチームに引き入れたり、自分が他テーマに共感してチームに入れてもらうこともあります。
また、中高生では、友人と一緒に組みたいという気持ちもあります。
こちらからは特に制限は設けず、友人との関係性よりもテーマの納得性で決めた方が後悔が少ない傾向にあることや、今後のチーム活動で激しく議論が紛糾して仲が悪くなったりすることもあることなどを伝えます。

生徒に任せたチーム決めは、アントレ研修内での自分の環境を自分で決める意味合いもありますし、何を優先してチームを決めるか考え、行動の結果を自分で引き受ける、という意思決定の練習でもあります。

余談ですが、これはいわゆるPBL(Project Based Learning)ですが、チームで活動すること自体は、学びを増やす仕掛けの一つであって、PBLをすること自体が目的にはなりえません。


・インタビューをする

アントレ研修では、実際に課題を持っていると想定している人に近い属性の人たちに、インタビューを行います。なぜなら、想定顧客の声なしに、正しく改善や議論を行うことはできないからです。上記プロセスの②の時点であるのは、あくまで課題の仮説であり、検証しなければ存在しない課題に無意味に取り組む危険性があります。

インタビューは、上記プロセスの②の時点から最終ピッチまで継続して行うことを推奨しています。それは、各プロセスで質問内容が変わっていくからです。最初は課題の仮説を検証するためにしていた質問が、研修後半になってくると、アイディアの改善のための質問になっていきます。
インタビューの結果は、最終ピッチの説得力にも、大いに影響します。


・試作品を作る

上記プロセスの②の中で、試作品を作ります。試作品とは、自分のアイディアを説明したり検証するための最小限の機能を持たせたものです。電化製品のアイディアだったら、箱や紙粘土でサイズや使用感がわかるようなモノを作ったり、アプリであれば各画面イメージや操作時の反応等が分かるモノや映像を作ります。

試作品を作ることによる効果は侮れなくて、上記インタビューの際にも、これを使うことでより具体的なフィードバックをもらえたり、チーム内で微妙に考えがズレていたりすることも、試作品によって明確化したりできます。


以上、アントレ研修の内容とその学びについて書きました。

ちなみに、これまでやってきたほぼ全てのアイディアは、実社会で実際に成功するかと言うと、成功しないと思います。もちろん、ここで書いたアントレ研修の範囲は、計画を作るところまでなので、実際の成功を左右するのはその後の実行であることは言うまでもありません。(ちなみに、起業する気がある人がこの研修を受けて、実際に起業した例は複数あります。)

何度も書きますが、ここでのアントレ教育の定義は「主体的に生きる」ために、ビジネスを生み出すスキルを習得するものです。結果的に起業家が増えることは良いと思いますが、そうでなくても、人生に主体性を持って前に進める人が増えれば、と思っています。

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