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7-9. 電気分解(2)

こんにちは。おのれーです。
ついに、化学基礎の内容も最終回です。一斉休校に入った3月から細々と続けてまいりましたが、オンライン学習が始まったこともあり、最終章に入ってからピタリと筆が止まってしまい、更新が遅れてしまいました。。失礼いたしました。

さて、今回は前回確認した「電気分解」が、実際に私たちの生活にどのように生かされているのかというところを見ていきたいと思います。

■金属の単体を取り出すには?

金などイオン化傾向が極めて小さい金属を除き、ほとんどの金属は自然界では酸化物や硫化物などの状態で鉱石中に含まれています。酸化物や硫化物は、金属と酸素・硫黄といった非金属からなるイオン結晶ですから、金属としての性質は持っていません。したがって、金属として用いる場合には、酸化物や硫化物を還元して、金属の単体を取り出す必要があります。このような操作のことを、製錬といっています。

では、いくつかの金属について、製錬の方法を見ていきましょう。


■鉄はどのように製造するのか?

代表的な金属である鉄Feは、赤鉄鉱(主成分Fe2O3)、磁鉄鉱(主成分Fe3O4)などの鉄鉱石を、コークスCを用いて溶鉱炉内で還元して製造します。

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上の式を見ても分かるように、コークスが酸化して生じた一酸化炭素COがさらに酸化鉄のもっている酸素を奪って酸化されてCO2となり、同時に単体の鉄Feが生じます。

こうしてできた鉄は、まだ不純物として炭素Cが含まれており、銑鉄とよばれます。実際に鉄筋材料などとして使われる鉄は、この銑鉄を転炉に移して酸素を吹き込み、含まれている炭素を二酸化炭素として取り除いて、さらに純度の高い(炭素含有量0.02%~0.30%以下)にしたものです。

NHK for School「鉄の精錬」
実際に製鉄所で鉄鉱石から鉄を取り出す工程を見ることができます。


このように鉄は、「電気分解」という方法を使わなくても還元して取り出すことができるので、人類が比較的昔から利用してきた金属です。

NHK for School「鉄はどう取り出す?」
古くからおこなわれていた"たたら製鉄"の仕組みを見ることができます。ちなみに、宮崎駿監督の映画『もののけ姫』の舞台は、鉄をつくる「たたら場」で、実際に鉄をつくるさいに大量の酸素を送り込むためのふいごを、主人公のアシタカが勢いよく踏み込むシーンがあります。


■銅の電解精錬とはどのようなものか?

銅の鉱石である黄銅鉱(主成分CuFeS2)を加熱して硫化銅(Ⅰ)をつくり、Cu2Sに空気を吹き込みながら加熱すると、純度が約99 %の粗銅が得られます。99 %でも十分ではないか、と思うところなのですが、実際に私たちが導線などとして使っているものは、純度が約99.99 %以上の純銅と呼ばれるものです。

では、粗銅から純銅にするためには、どのようにすればよいのでしょうか?

実は、そこで電気分解が使われるのです。

まず、陽極に粗銅、陰極に純銅をつなぎ、硫酸銅(Ⅱ)水溶液に浸します。

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電源装置から電流を流すと、陽極では、銅Cuよりイオン化傾向の大きい金属(銅Cuも含む)が酸化され、電子を放出して陽イオンとなって水溶液中に溶出します。

また、金Auや銀Agなど、イオン化傾向の小さい金属は、粗銅につかまっていられなくなり、下に落ちていって沈殿します。この沈殿した金属たちのことを陽極泥といっています。

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そして陽極から陰極に流れた電子は、水溶液中の陽イオンの中で最もイオン化傾向の小さい銅イオンCu2+に受け取られ、陰極上に銅Cuが析出します。

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この反応を数日間続けていくと、陽極の粗銅はボロボロになり、陰極の純銅はさらに純粋な銅がくっついて分厚くなります。最終的に陰極を取り出せば、純粋な銅ができあがります。

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このように、電気分解を応用して、不純物を含む金属から純粋な金属を生成する方法を、電解精錬といいます。

ちなみに、「錬」と「錬」の違いですが、

「製錬」:鉱石を還元することによって金属を取り出す過程のこと
「精錬」:不純物の多い金属から純度の高い金属を取り出す過程のこと

ということで微妙に意味が違いますので、漢字は使い分けるようにしてください。

NHK高校講座 化学基礎「第38回 電気分解」
最後の方のチャプターで、銅の電解精錬が行われている工場の様子を観ることができます。


■アルミニウムの単体はどのようにして得るのか?

地殻中に多く含まれているアルミニウムAlは、イオン化傾向が大きく、酸素などと強く結合しています。そのため、アルミニウムの鉱石であるボーキサイトは、簡単に還元することができず、人類は長年この大量にある金属を使うことができませんでした。

今でこそ最も小さい額面の硬貨である1円玉にさえ使われているアルミニウムですが、単体のアルミニウムが作れるようになったのは19世紀後半のことであり、日本で製造が開始されたのは1934年と、まだ100年も経っていません。当初はとても高価な金属で、金よりも高かったそうです。

では、どうやってアルミニウムの単体はつくられているのでしょうか?

これも、電気分解が使われているのです。

しかし、アルミニウムAlのように、イオン化傾向が大きく、水と反応して陽イオンになりやすいK, Ca, Na, Mg, Alなどの金属は、そのイオンを含む水溶液の電気分解では金属の単体は析出せず、水素H2が発生してしまいます。これは、水の方がこれらの金属イオンよりも還元されやすいためです。

これらの金属の場合は、その化合物を高温にして融解し、水のない状態で電気分解すると、単体を得ることができます。このような電気分解を融解塩電解(溶融塩電解)といいます。

アルミニウムの単体は、鉱石のボーキサイトからつくられる酸化アルミニウムAl2O3(アルミナともよばれる)を、氷晶石Na3AlF6とともに融解塩電解して得られます。

氷晶石Na3AlF6を使うのは、Al2O3の融点は2000℃以上でたいへん高いため、もっと低い温度で液体にする必要があるからです。約1000℃で融解させた氷晶石にAl2O3を少しずつ加えていくと、Al2O3を溶かして液体の状態にできます。

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実は、この融解塩電解によってアルミニウムの単体を取り出す方法は、非常にたくさんの電気エネルギーを使います。そのため、アルミニウムは「電気の缶詰」とよばれており、リサイクルして使われることが望まれています。リサイクルで使うエネルギーの量は、ボーキサイトから作る時と比べて、わずか3 %程度だそうです。

NHK ど~する?地球のあした「ホントにおとく?リサイクル」
アルミ缶のリサイクルなどについて、分かりやすくまとまっています。


■電気めっきとは?

金属がさびるためには、水と酸素が必要です。したがって、金属のさびを防ぐためには、水と空気を遮断すればよいので、工具の刃に油を塗ったり、鉄製品にさび止めのペンキを塗ったりすることは効果的だといえます。

同じような考え方で、もっと徹底的にさびを防ぐ方法として電気めっきがあります。めっきとは、めっきをつけたい金属を陰極に、めっきの材料となる金属を陽極につなぎ、その金属イオンを含む電解液をめっき液にして電気分解を行う方法です。これによって、表面にうすい金属の膜が析出し、内部の金属をさびから守ったり、見た目を美しくしたりすることができます。

例えば、めっきをつけたい金属(スプーン)を陰極に、Ni板を陽極につなぎ、硫酸ニッケルNiSO4水溶液をめっき液として電気分解を行うと、ニッケルでめっきされたスプーンができあがります。

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最近では、プラスチックのように電気を通さない物質でも、還元剤を使って水溶液中の金属イオンを還元し、表面に金属の薄い膜をつくってから、電気めっきをしていたりします。


■水酸化ナトリウムは食塩水からできている?

水酸化ナトリウムというと、劇薬というイメージがあるかもしれませんが、実は工業的につくるときには、食塩水=塩化ナトリウムNaCl水溶液を電気分解してつくっています。この方法のことを陽イオン交換膜法とよんでいます。

ここでは、動画で解説をしてみたので、次の動画をご覧ください。


このように電気分解は、私たちの身近なところでたくさん使われています。水酸化ナトリウムが身近なのか疑問に思うかもしれませんが、結構食品のpH調整剤や医薬品の製造などに使われているので、陰の立役者的存在だったりするのです。

化学はちょっと難しく感じる人もいるかもしれません。でも、毎日の生活の中で、私たちが原子・分子たちのはたらきや、様々な化学反応の恩恵を受けています。ぜひ、そんな縁の下の力持ちたちのことに時折目を向けて頂けたらなと思います。

これで、いったん「10分で分かる!高校化学基礎One Point Lesson」の幕を閉じたいと思います。最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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