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「全ての人を満足させることはできない」。Kota The Friendが辿り着いた境地。(Kota The Friend - "Can't Please Everybody")

Writer:@raq_reezy

今回は、Kota The Friend新作『Lyrics to GO Vol. 1』から「Can’t Please Everybody」を解読したいと思います。

Kota The Friendは、ニューヨーク州ブルックリン出身のミュージシャン・ラッパーです。

インディペンデントで活動していることもあり、あまりメディア露出は多くないと思いますが、ファンベースを築きはじめているアーティストだと思います。

Kota The Friendは、まだ幼い頃(90年代)にニューヨークのヒップホップやR&B、ジャズやソウルなどに触れて育ちました。その影響もあり、8歳の頃にはトランペットの演奏を始めています。

高校に入ると、トランペットチームのリーダーを務め、ギターやピアノの練習も始めたようです。この頃にアルバイトをしてホームスタジオをつくると、友だちとバンドを始めて、地域で演奏するようになります。

大学で1年過ごした後に、音楽のキャリアを追求するために家に戻り、カメラマンなどをしながら、ミュージシャンとしてのキャリアを積み上げてきました。

Kota The Friendは、90年代のニューヨークの音楽性を引き継いでおり、チルなサウンドの上に敷かれる、ギャングスタラップとは距離を置いたリリカルなラップが印象的です。

それでは内容を見て行きましょう。

バース

Fuck your opinion, I was doin' good without it
I been livin', I been mindin' my business
If you don't fuck with it, don't listen
If you don't like the smell then get the fuck out the kitchen

【意訳】
お前のオピニオンなんて糞食らえ
俺はそんなものがなくても、良い感じにやってきた
俺は生きてきた、俺は自分のビジネスに集中してきた
もしも俺の音楽が嫌いなら、聴かなければいい
もしも臭いが嫌いなら、俺のキッチンから出て行きやがれ

*自分がつくる音楽を料理に例えています。周囲のオピニオンにあわせて曲をつくるのではなく、自分のつくたい音楽をつくるのだという意志が示されています。

We cookin' soul food
The game different, you still livin' by the old rules
What I look like followin' fools that don't move?
How you tell somebody not to go and live they own truth?

【意訳】
俺たちはソウルフードを調理してる
違うゲームをしてるのさ、お前はまだ古いルールで生きている
俺が進歩しないアホの動きを真似するような奴に見えるか?
自分自身の人生を生きて、自分にとっての真実を見つけるのをやめろと、どうして言えるんだ?

*ソウルフード民族料理といった意味です。狭義には、アフリカン・アメリカンの人たちが奴隷の時代からつくっていた料理を指すようです。良い音楽を「Food」に例えたものとしては、Lupe Fiascoのデビューアルバム『Food and Liquor』なんかもありますね。

*この部分では、Kota The Friendに過去のやり方を押し付けようとする人たちへの苛立ちが垣間見えます。

You can't please everybody
Too afraid to disappoint anybody
Proceeded to disappoint everybody
The truth is they don't know shit
They tryna fuck with you 'cause they ain't sure of they own shit

【意訳】
全ての人を満足させることなんて不可能
誰か一人でもガッカリさせてしまうのではと恐れていたら
全ての人をガッカリさせることになった
真実は、あいつらは何も知らない
あいつらは、自分のことすら分かってないから、お前に絡むんだ

*全ての人を満足させる音楽をつくることはできないというのは、この曲のタイトルにもなっています。Kota The Friendが音楽活動をしていて辿り着いた、ひとつの結論でしょう。

*また、多くの人がしっかりとした価値観を持って意見をしてきているのではなく、彼ら自身も何も分かっていないままに意見をしてきているんだということが述べられています。

But when you goin' strong
They watchin' and they gon' front like they fucked with you all along
Like they knew you had it and they believed in you way before

【意訳】
だけど、お前が強く生きていれば
あいつらは見ていて、お前とずっとつるんでたって自慢しだす
お前には、ずっと昔から才能があって、それを信じていたかのように

*芸能界ではよく「売れたら知り合いが増える」なんて言われます。人の意見に左右されずに、孤独の中でも自分を貫き、有名になった途端に人が寄ってきたという実体験がKota The Friendにはあるのでしょう。

In that moment you just gotta accept it and move along
And pat yourself on your back for staying up on your course

【意訳】
そのとき、お前はそれを受け入れて、うまくやっていくしかないんだ
それで、自分の背中を叩いて、自分がブレなかったことを誇ろうぜ

 *そこで「お前らなんか知り合いじゃねえ!」と突っぱねずに、受け入れてうまくやっていく大人な考え方が示されます。

*Kota The Friendにとっては、自分を信じてブレずに進んできたことは、自分だけが分かっていれば良いのでしょう。

"It's a marathon", Nipsey said
I remember rappin' "Palm Tree" for 50 heads
Smokin' sour diesel on a city ledge
Now I'm tryna do the same shit for my real life
Trust my gut more, give a fuck what you feel like

【意訳】
「これはマラソンだ」って、ニプシーは言った
俺は「Palm Tree」を50人のためにラップしたのを覚えてる
シティーレッジで酸っぱいマリファナを吸って
俺はいま、自分の人生のために同じことをしようとしてる
俺の勘をもっと信じて、自分の気持ちに正直になる

*ニプシー・ハッスルは、本マガジンでも何度か取り上げています。インディペンデントな思考の持ち主で、多くのラッパーに影響を与えて尊敬を集めていましたが、2019年に凶弾に倒れました。「マラソンは続く」というのは、ニプシーのキャッチフレーズでした。

あわせて読みたい
(1) ニプシー・ハッスル、過酷な現実や友人の死を歌う。(Nipsey Hussle - "Racks in the Middle" feat. Hit-Boy & Roddy Ricch)
(2) ニプシー・ハッスルがYGらに授けたストリートの知恵を読む(Nipsey Hussle - "Last Time That I Checc'd" feat. YG)

*ニプシーとマラソンについては、本マガジンでも連載してくださっている奥田さんがブログで振り返っていらっしゃいます。

*Kota The Friendも、ニプシー・ハッスルに影響を受けたラッパーの一人であり、大手レーベルへの不信感が、たびたび歌詞に現れます。

*「Palm Tree」は、Kota The Friendが2016年にリリースしたこちらのEPのことでしょう。

Love the one I love, make babies if I want
Write a song 'cause it's fun and go strong 'til I'm done
Do good for my young, take life as it comes
Laugh loud when I'm drunk, have a good life, yeah

【意訳】
俺が好きな人を愛して、欲しければ子どもをつくる
楽しいから曲をつくって、終わるときまで強くやる
子どものためにも、良いことをして、人生を受け入れる
飲んだときは、大きな声で笑って、良い人生を送る

*ここまでは音楽活動がテーマでしたが、最後にふわっと視界が広がっていきます。音楽活動において、他人のオピニオンに左右されずに自分のつくりたい音楽をつくるのと同じように、人生においても、一般的な常識や他人の意見に左右されるのではなく、自分の感じるままに人生を生きていくべきだという、Kota The Friendの気づきが示されています。

Kota The Friend

ジャジーでソウルフルなサウンドの上で、マンブルラップではなく、ガッツリとラップをするという、由緒正しいニューヨークのヒップホップスタイルを引き継いでいながら、今っぽさもある、Kota The Friend。

リリックも内容があるラッパーなので、今後もちょいちょい取り上げるかもしれません。お楽しみに!

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