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LogicがベテランMCを迎え、多様な視点からアメリカの問題点を浮き彫りに。【後編】(Logic - "America" feat. Black Thought, Chuck D, Big Lenbo, No I.D.)

今回は、前回に引き続き、Logicの"America"を通じて、いまのアメリカが抱える問題に迫っていきます。

この曲は、自分が愛するアメリカについて、必ずしも全てに満足しているわけではないということで、ベテランMCも迎えて、それぞれの観点からアメリカについてラップしています。Black ThoughtとChuck Dのバースについては、前編をご覧ください。

後編では、Logicによって、トランプに賛成しているカニエ・ウェストへの複雑な想いや、フッドの在り方しか知らない黒人の立場になりきったラップなどが披露されます。

4バース目(Logic)

4バース目はLogicがカニエの現状に触れます。

George bush don't care about black people
2017 and Donald trump is the sequel so
Shit, I'll say what Kanye won't
Wake the fuck up and give the people what they want

【意訳】
「ジョージ・ブッシュは黒人のことを気にかけていない」
2017年、ドナルド・トランプはブッシュの後釜さ
だから、クソ、カニエが言わないことを俺が言ってやるよ
目を覚ましやがれ、そしてみんなが望むものを与えるんだ!

「ジョージ・ブッシュは黒人のことを気にかけていない」というのは、ハリケーン・カトリーナがアメリカを直撃したときに、ブッシュ政権の対応が遅れたことに苛立ったカニエウエストが、テレビの生放送で行った発言です。この発言は、賛否両論の様々な物議を醸しました。

Logicは、トランプはブッシュ並あるいはそれ以上に黒人を軽視している後釜だと述べています。なぜ、カニエの発言を最初に持ってきているかというと、カニエの政治的スタンスの一貫性のなさを批判するためです。有色人種を軽く見るという点を過去に批判したカニエが、今はその後釜のようなトランプを支持すると表明していることに対して、Logicはインタビューで、単純に理解するのが難しいと述べています。

Man it's all love but the youth is confused
Your music is 20/20 but them political views
Is blurred I ain't trying leave ya name slurred
'Cause honestly I idolize you on everything, my word
But I gotta say what need be said

【意訳】
これは全てあなたへの愛だぜ
だけど、若者はみんな混乱しているよ
あなたの音楽は、まるで2020年のものみたいに先進的だ
だけど、政治的な視野はぼやけているみたい
俺はあなたの名前が中傷されたままなのは嫌だぜ
だって、正直な話、俺は全てにおいて、あなたをアイドル視しているんだ
心からの言葉さ
だけど、言うべきことは、言わないとな

Logicが、いかにカニエ・ウエストの音楽が好きで尊敬しているかが伝わってきます。みんなよりも3年ほど先んじている、イノベーティブな音楽をしていると認めた上で、だからこそ、その他の部分でカニエの名前が汚されることを残念に思っているのでしょう。

'Cause I ain't fuckin with that hat, with the colors that’s white and red
I know some people wish I’d act white instead
Say I’d use my pigment as a manifestation to get ahead
Fuck that, everything I do, I do it right
To teach the people that they have the power to fight
And not with semi automatic bullets in the night

【意訳】
だって、俺は、赤と白の帽子を被るトランプ支持者とは関わらない
俺が白人として振る舞うことを求めるやつらがいることだって知ってるよ
俺の色素を使って先に進むべきだって言うやつもいる
糞食らえ!
俺は、みんなの模範になるよう、全てのことを正しくやるぜ
深夜に半自動の弾丸をぶっ放す以外にも、権力と戦う方法があるって教えるのさ

赤と白の帽子というのは、トランプ支持者たちが選挙キャンペーン中に被っていた「Make America Great Again」のキャップのことを指しています。

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続く部分は、Logicが今回のアルバムでも非常に重きを置いている、自身の人種的問題について触れています。Logicは黒人と白人の両親の間に生まれたハーフで、見た目は白人に近いため「どうして白人が黒人としてラップをしているのか?」という誤解や中傷を受けることがあります。Logicは、エミネムやマックルモアといった白人ラッパーのように白人ならではのラップをするのではなく、いかにもヒップホップらしいラップをします。それは、Logicが自分の生い立ちを考えたときに、それが自然なことだからです。しかし、世間は見た目で判断するため、理解が得られないときがあるのです。

「俺の色素を使って先に進むべきだって言うやつもいる」というのは、音楽活動を有利に進める上では、白人として振る舞ったほうがいいというアドバイスをする人間がいるということでしょう。例えば、アメリカのグラミー賞は、過去に何度も白人が優遇されているといった批判を受けています。2014年には、マックルモア&ライアン・ルーイスのヒットアルバム『HEIST』がラップのベストアルバムに送られる賞を受賞しましたが、マックルモア本人ですら「今年はケンドリック・ラマーの『Good Kid M.a.a.D City』が受賞すべきだった」と発言したことで、話題になりました。マックルモアは、ケンドリックが受賞すべきだった賞を自分が盗んでしまったような気分だとして、ケンドリックにも直接メッセージを送ったことを明かしました。

残念ながらアメリカの音楽業界がそのような環境なのであれば、Logicに対して白人として活動すべきだとアドバイスする気持ちも分からなくはありません。しかし、Logicは権力と正しく戦う姿を見せるために、そんなことはしないと宣言しています。

So everybody, everywhere, listen to this fact
Nobody treated equally, especially the black
If you don’t get it the first time, bring it back
Now, everybody gotta fight for equal rights
'Cause the richest people in the whole world equal whites
To make it happen though we gon' need patience
And not violence, giving hospitals more patients now

【意訳】
だから、みんな、どこにいようと、この曲を聴いてくれ
誰も平等に扱われちゃいない、特に黒人はね
もしも一回で意味が掴めないなら、何度でも聴いてくれ
さあ、全員が権利の平等のために戦わなきゃいけないんだ
だって、世界で最も裕福な人たちは、全員が白人さ
平等な世界をつくるためには、我慢なんて必要ないんだ
病院の患者を増やすような暴力も必要ない

ヒップホップにおいては、黒人が未だに社会の中で成功するためのハードルが高いという内容がテーマになることが多いのに対して、Logicはこの曲でも「白人がいかに有利か」という反対側の視点から積極的に表現しているように感じます。この絶妙なバランス感覚は、黒人としての立場、白人としての立場を両方経験してきたからこその視点なのかもしれません。

それから、ここでは言葉遊びも行われています。「我慢なんて必要ない」の「我慢」を意味する"patience"、それから「病院の患者を増やすような暴力も必要ない」の「患者」を意味する"patience"です。「patience(我慢)を減らそう」、でもその手段として暴力はふさわしくない、なぜなら暴力は「patience(患者)を増やしてしまう」からだというわけです。Logicがいかに優れたリリシストであるかを見てとることができます。

Don't burn down the mom and pop shop
I'm just as angry another person got shot
Don’t be angry at the color of they skin
Just be happy that as a people we could begin again, and
I’ma tell you what I need right now
I’ma tell you what we all need
I need my people of color...
Don’t run from Trump, run against him

【意訳】
ママやパパの店を燃やすのはもうやめよう
俺は、誰かが撃たれたみたいに怒ってるぜ
あいつらの肌の色に対して怒るのは止めよう
人間として、俺たちはやり直せるってことを幸せに思うようにしよう
いま必要なものを教えてやるよ、俺たちみんなが必要なものを教えるぜ
有色人種は全員、トランプから逃げるんじゃなくて、立ち向かうんだ!

正しく怒りを持ちつつも、暴力ではない戦い方をしなければいけないという気持ちが表れています。

ブリッジ

oh, hands up for the 5-0
oh, oh, hands up for the 5-0

【意訳】
人種差別屋の警官がやってくる、手を上げてくれ
人種差別屋の警官がやってくるぜ、手を上げてくれ

ここも短いブリッジながら、含みのある表現になっています。

まず、ここは曲におけるブリッジなので、ライブのときに「手を上げてくれ」と観客を盛り上げるための部分です。ですが、単に「手を上げてくれ」だけに止まらず、この曲のテーマに合わせて捻りを効かせてあります。

5-0(ファイブ・オー)というのは警官のことを意味するスラングです。これは『ハワイ5-0』という警官が主役のテレビドラマに由来しています。つまり、「警官が来るから、手を上げてくれ」となっているわけです。警官が、容疑者を取り押さえるときに、銃を向けて「手を上げろ」と威嚇する様子を示しています。

さらに、アメリカでは、警官が黒人の容疑者が反抗しているわけでもないのに誤って撃ち殺してしまうという事件が度々発生しています。こうした事件が起こるたびに、「黒人=悪者」という社会的な意識が、こうした悲劇を生んでいるとして、抗議行動が行われていますが、ここでは他の部分との類推で、そのようなことまで連想させる歌詞となっています。

5バース目(Logic)

5バース目では、Logicがフッドの黒人の観点からアメリカについてラップをします。

I been in the cut, liquor in my cup, 38 tuck
I don’t give a fuck, I don’t give a damn
I just wanna live, I just wanna eat
But I gotta do it for the hood, do it, do it for the street, uh

【意訳】
俺は地図にも載らないような場所で生きてきた、コップにはアルコール
知ったことかよ、俺は何も気にしねえ
俺はただ生きたい、俺はただ食べたい
だけど、俺は地元のために、ストリートのためにしなきゃいけないんだ

ここでは、十分に教育を受けず、ストリートで違法なビジネスに手を染めている黒人の様子を描いています。これもまた、アメリカの政治が生み出している現状なのです。

Dope in the trunk
Creepin out the cut
9 by the gut
Never get enough
I don’t give a fuck
Stupid mothafuckas move backwards
Mastered the hustle

【意訳】
車のトランクにはコカイン
人から隠れて、腹には9mmのピストル
バカなクソ野郎ども、後ろに下がりやがれ
麻薬商売を身につけた

ここでは5バース目の主人公がコカインの商売に身を染めています。9mmはピストルのことです。以下は、PT111 G2 9mm。このようなピストルを腹に隠し持っているということです。

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Something in the duffle for you bastards
Grind over chatter
Cheese on my mind like a packer
Only thing that matter, bitch scatter

【意訳】
身の回りには父親がいない奴らのためのものがある
世間話にのめり込みすぎる
頭の中にはチーズ(お金)のことばかり、まるでパッカーズみたいにね
俺にとって大事なのは、金を撒き散らすことだけ

チーズはお金を意味するスラングです。また、パッカーズというのは、グリーンベイ・パッカーズというNFLのアメフトチームで、ファングッズには頭の上に乗せるチーズがあります。

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この頭の上にチーズを乗せているパッカーズファンのように、頭の中にはチーズ(お金)のことばかりだという比喩です。物質的な欲だけが頭を占めています。

You in my way, about to spray, the A-K
Middle of the day, like that shit’s okay
Never had a job, never had a education
Only know probation
Never had a job never had a education
Yeah, I never had chance in this world, I never had one
No, I never had a chance in this world, I was labeled a bad one

【意訳】
おい、俺の通り道を邪魔するな、AKをぶっ放すところさ
日中に、まるで問題ないかって具合にな
仕事を持ったことはない、教育だって受けちゃいない
刑務所しか知らない
仕事を持ったことはない、教育だって受けちゃいない
この世界でチャンスなんて俺は一度も貰わなかった
俺は一度だってチャンスを与えられなかったのさ
悪者ってレッテルを貼られてね

ここまで5バース目では悪党の生活が描かれてきました。しかし、最後にそうした悪党が生まれる背景が描かれます。

十分に教育を受けることができず、そのせいもあって犯罪に手を染め、刑務所にも入り、前科ありで就職もできない。生きるためには更なる犯罪に手を染めるしかない。そうした人間は、政治が十分にセーフティネットの役割を果たしていないからこそ生まれてくるのだから、政府はその問題を解決すべきです。しかし、実際にはフッドで生まれた人間に、生まれながらにして「悪者」のレッテルを貼るようなことが続けられています。

Logicは、フッドの人間の目と口を借りることによって、こうした今のアメリカの政治が抱える問題点を浮き彫りにしています。

アウトロ

Let’s send the blacks back to Africa
Build a wall for the Mexicans
Send the whites back to Europe
Give the land to the Native Americands

【意訳】
黒人をアフリカに送り返そう
メキシコ人が入ってこないように壁を建設しよう
それから、白人をヨーロッパに送り返して、この土地を原住民に返還しよう

ここも皮肉めいた面白い表現です。

トランプ大統領やその支持者は、非白人に対して保守的で排他的な性格を有しており、移民の流入を防ぎ、国に入れない、あるいは送り返すといった対応を検討しています。しかし、Logicは白人自体もヨーロッパから移民してきたという点に着目して風刺しています。

Take the skyscraper
Tear down the casino
print your own paper
and bear down on the gringo

【意訳】
超高層ビルを奪え
カジノを取り壊せ
自分の紙幣を印刷しよう
白人を引き摺り下ろせ

超高層ビルは、不動産実業家でもあるトランプが建ててきた、トランプ・タワー等のビルディングを指しています。カジノも同様に、トランプが過去に所有していたカジノ・リゾートであるトランプ・タージマハルのことを指していたものと思われます。

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以上

ここまで、Logicらが語るアメリカを見てきました。

トランプ大統領への批判も多かったですが、それ以外にも、多様な人種を抱えるアメリカならではの、様々な社会問題が垣間見えたのではないかと思います。

また、これだけコンシャスな内容ですが、Logicのキレッキレのラップが単純にめちゃくちゃカッコいいので、音楽としても楽しんで聞くことができます。

それでは、今回はここまでとしたいと思います。


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