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奴隷オーナー、盗人、癌患者、3つの立場からラップするD. Smokeを読む。(D Smoke - "Free")

Writer:@raq_reezy

どうも。

今回は、D. Smokeのアルバム『Black Habit』から「Free」を解読したいと思います。

まずは、簡単にD. Smokeの説明から。

D. Smokeは、ケンドリックらもいるTDEに所属するシンガーSiRの兄弟です。カリフォルニア州ロサンゼルスの南西に位置するイングルウッド出身。教員として生計を立てながら、音楽活動をしていました。

そんな、D. Smokeが一躍注目を浴びたのがネットフリックスのオーディション番組「Rhythm & Flow」です。最初は出演を断ろうと思っていたそうですが、せっかくなので参加したところ、優勝します。

最終審査で披露された「Last Supper(最後の晩餐)」は、圧巻のパフォーマンスでした。


さて、そんなD. Smokeが2020年に発表したアルバムが『Black Habits』です。

本人の解説によると、このアルバムは黒人としてアメリカで育つことのリアルを良い部分から悪い部分まで描いた作品だということで、D. Smokeの見てきた景色が落とし込まれています。

今回、解読する「Free」は、実際にD. Smokeが経験した内容というよりは、自由にいろんな立場になってラップをしている曲となっています。


1バース目

最初のバースでは、奴隷のオーナーとしての立場でラップをしています。

それでは、内容を見ていきましょう。

What if I used to be a president in a past life?
With a match and a pipe
And a top hat in the back of ride
In a chariot, chasin' Harriet through the night

【意訳】
もしも俺の前世がプレジデントだったら?
パイプとマッチを持って、後部座席でトップ・ハットを被ってる
戦車に乗って、一晩中ハリエットを追っている

*ここでのプレジデントは大統領ではなく、どこかの偉い立場の人間を表しているのかなと思います。

*ハリエットは、実在した逃亡奴隷です。1849年に自身が逃亡したあとは、他の奴隷の逃亡を助けました。そのため、ハリエットには多額の賞金が掛けられて、多くの賞金稼ぎが彼女の行方を追っていました。2019年には伝記映画『ハリエット』がアメリカで公開されています。

I barely get sleep, my karma owe me much drama
Men are sheep, I sold three last summer
A black back ain't exact until it got stripes
Beat that boy 'til he collapse

【意訳】
俺は眠らない、俺のカルマはもっとたくさんのドラマを背負っている
人間は羊で、俺は去年3匹を売り払った
黒い背中は、ストライプがついて、ようやく完成する
あの少年を崩壊するまで、ぶん殴る

*「人間は羊」というのは、奴隷を家畜に例えた表現でしょう。

*「ストライプ」というのは、鞭打ちなどで背中についた傷を表しているのではないかと思います。つまり「背中を鞭打って従えることで、奴隷が完成する」という意味でしょう。

Tease that boy, make him fight his brother
Make him hate his mama, make him blame his father, you
Follow the rules and they always gon' do what they do

【意訳】
あの少年をいじめて、兄弟と争わせる
母親を嫌うように、父親を責めるように育てる、お前のことさ
ルール通りにやれば、あいつらはやるべきことをするようになる

*ここでは奴隷をお互いに反目させる「支配のためのルール」が紹介されています。これは、このあとに出てくるウィリアム・リンチと関連しています。

Never revolt, never rebel, Willie Lynch taught us just how to sell
White lies to these black lives, and if you train 'em, then they act right
But whatever you do

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